1981.大魔王ソフィVS大妖狐王琳5
「「王琳様!!」」
「待て、お前達! 勝負がつくまでは決して王琳様に近寄るな!」
「「!?」」
ソフィの手によって地面に叩き落とされた王琳を見て、妖狐達が王琳の元へ駆け寄ろうとした瞬間に、直属の眷属である『六阿狐』が大声で静止を呼び掛けたのだった。
「お前達は、我らが主の大事な戦いに水を差すつもりか!」
「「む、六阿狐様……! も、申し訳ありません!」」
六阿狐以外の妖狐達もこの一戦が主にとっては、非常に重要な戦いである事を分かってはいたが、空に居るソフィの繰り出したあまりにも並外れた一撃を見た事で、咄嗟に身体が動いて飛び出してしまったのだろう。それ程までに今の一発の印象が、妖狐達にとっても大きかったようである。
六阿狐も内心では今すぐにでも主に駆け寄りたいという気持ちを抱いていたが、主である王琳がこの一戦に懸けている思いの大きさを十全に理解していた事で、何とか踏み留まる事が出来たのであった。
やがて地面に出来たクレーターと見紛うような大穴の中心から、ゆっくりと王琳は身体を起こし始めた。
「くっ……! 今のは効いたな。流石にソフィ相手にいつまでも余裕を見せている場合じゃないな」
地面に激突した事で出来た大穴はもう崖と呼べる程のものになっており、それはサカダイにある特務の訓練施設や、ケイノト付近にある森でソフィが作ったモノより大きく、人間の目では底が見えぬ程になっていた。
それでもこの空間自体が壊れずに保っていられるのには、やはり神々が作り変えた空間である事に加えて、今もソフィの居る空より遥かに高い場所で戦闘を注視している『力の魔神』の存在のおかげであった。
力の魔神はすでに戦闘が始まってからこれまでの間、相当な回数『結界』を張って空間が崩壊するのを防いでいた。
特にソフィが『魔力吸収の地』を展開し、王琳をその場所へと誘導させる為に放ち続けていた、数百の数の『殲滅魔法』の時には、闇雲に『結界』を張るのではなく、空間が壊れる規模、壊れない規模を正確に判断して『結界』が必要だと思うモノだけに絞ってその箇所を守り、ソフィ達の戦闘の妨害をしないように配慮を行いながらこの空間を守ってくれていた。
このように陰ながら協力をしてくれる『力の魔神』の存在があるからこそ、ソフィも王琳も純粋に戦闘だけに意識を向ける事が出来ているのであった。
「――」(流石にソフィのあの数の『魔法』の乱射には驚かされたけど、まだ今のソフィの形態であれば、この神々が作り変えた空間や、私の『結界』で十分に維持する事が可能のようね。それでも油断は出来ないのだけど……)
力の魔神は普段のソフィの戦いの時のように、じっくりと戦闘の観戦をする事は出来ていない。何故なら空間を維持する事を第一優先に考えて行動しているからである。
天上界の守りの要と呼ばれた『力の魔神』だからこそ、この空間はまだ保つ事が出来ているのは間違いなく、これが単なる魔神や、位階の低い神々の張る『結界』規模であれば、疾うの昔に六割の力を解放しているソフィの手によって、この空間は崩壊してしまっていた事だろう。
つまり彼女はこの戦いが始まる前に、ソフィと行った約束を陰ながら、しっかりと守ってくれていたのである。
そして王琳は崖となった大穴の底からゆっくりと浮き上がっていき、六阿狐達が居る場所の高さまで戻って来ると、そこで再び彼は妖狐本来の姿へと戻って見せるのだった。
(今のソフィはまだ、煌阿と戦っていた時よりも少しばかり力を抑えている状態のようだが、それでもこの戦いの初めよりは強くなっている事は間違いない。すでにさっきの奴からの一撃は、過去に『悟獄丸』殿から受けた拳の一撃より遥かに重みがあった。今のソフィは間違いなく『悟獄丸』殿より強さが上の筈だ。卜部官兵衛や、妖魔召士共のような相手の強さを正確に測れるような『魔』の概念技法を俺が使えればもっと良かったのだろうが、ひとまず今度はこの姿のまま『青』を纏った状態で挑んでみるとするか。何にせよ一気に力を開放して勝負を加速させてしまえば、この楽しい時間もあっさりと終わりを告げてしまうからな。これまでこの光景を何千年も待ち侘びて来たのだ。そんなもったいない真似はせぬ!)
先程までとどれくらい差があるかを確かめるべく、王琳は再び人型から妖狐の姿に戻るのであった。
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