1980.大魔王ソフィVS大妖狐王琳4
これまでソフィ達の戦いを見ていたヌー達は、本日何度目か分からない驚愕の表情を浮かべていた。
この変化が行われる前のソフィの百を越える数の『魔法』でさえ、その一発の殺傷能力の規模に驚き、それが王琳を『魔力吸収の地』に誘い込む為の囮であった事に唖然とさせられた。
だが、王琳が『魔』を封じられて八方塞がりだと思われた状況からあっさりと脱出を成功させた事に愕然として、更にはその直後の『狐火』にも絶句させられてしまっていた。
ここまででもこの戦闘は、信じられない驚きの連続であったが、極めつけと呼べるものは、先程の王琳の攻撃によって、彼以外の存在であれば、すでに何度絶命を果たしていたか分からない程の『狐火』から復活したこの大魔王ソフィの姿である。
これはもうソフィを単に化け物と呼ぶだけでは物足りない。
人間とか魔族とか、そういう下界に生きる生物の枠組みに入れてはいけない存在だと、判断せざるを得ないだろう。
今の鮮やかな光に包まれて空に浮かんでいるソフィに対して、あれは『神』だと説明されても信じられる程であった。
…………
(見た目は先程までとあまり変わってはおらぬようだが、奴から感じる魔力の量と重圧が桁違いだ……)
王琳は空の上に浮かんでいるソフィを見ながら思案を続ける。
先程の王琳が放った『狐火』は、天狗族の首領であった『帝楽智』でさえ、あっさりと一撃で葬る程の威力を誇っている。
もちろん王琳もこの一撃で勝負が決まるとまでは考えていなかったが、それでもそれなりにダメージを負わせられるだろうと思っていた。しかし実際には、ソフィにダメージを負わせるどころか無傷であった。
(あれは自動回復というわけではなく、ソフィが神斗殿に用いた『救済』とやらの『魔法』の効力だろうな。魂自体が存在していれば、死者すらも蘇らせる事が可能だと奴は言っていた。あれ程の大きな効力を齎す『魔』の技法である以上、魔力の消費は相当なものだと感じられるが、これまでの奴を見ていれば『魔力枯渇』を待つ事は得策ではないだろう。それを待つくらいであれば、奴の『魔法』を妨害する『透過』を行いながら、仕留められる程の攻撃を叩きこむ方が現実的だろうな)
そこまで考えた王琳は、ある事に気づいてはっとした表情を浮かべるのだった。
(この俺が戦いの中で、ここまで意識を張り巡らせるのは何時ぶりの事だ?)
ここ数千年間は全力を出すまでもなく、真正面から力で強引に薙ぎ倒せばどんな相手も屠れた。王琳が敵となる相手に『狐火』を使う事すら、何時ぶりか思い出すのに苦労する程であり、その殺傷能力を誇る程の『狐火』ですら、ソフィに直撃させても無傷で平然とこちらを見下ろしている程である。
これまでも王琳はソフィと戦う事こそが、自分の願望を叶えられる相手だと考えてはいた。しかしそれはあくまで漠然としたものであり、こうして実際に自分がソフィを殺すつもりで攻撃を行って尚、有効打を与える事が叶わずに戦略を一から練り直す必要があると考えさせられた事で、一筋縄では行かない相手と戦っているのだと気づいた王琳は、疑いを挟む余地もない程に、ソフィを自身の願望を叶えてくれる相手なのだと、瞭然に認めるに至るのであった。
「それではもう少しだけ、この状態で試させてもらうとするか!」
王琳はソフィの強さを瞭然に認めると、再び『青』を纏いながら大地を蹴った。
空の上でソフィとの距離をグングンと縮めていき、間近に迫ったソフィの顔を目掛けて、王琳は拳を突き上げるのだった。
そしてこれは開幕の一打と見紛う程の構図が、繰り返された形に見えた。
――しかし。
それは、王琳がソフィの間合いに入った瞬間の事だった。
「では、耐えてみせるがよい」
これまで王琳が迫ろうとも全く動きを見せずに単に立っていただけに見えたソフィだが、王琳の拳がソフィに迫ったその瞬間に唐突に動き始めたかと思えば、真下に居る王琳の突き上げた拳に合わせるように、ソフィは拳を振り下ろした。
上で待ち構えているソフィの拳が、下から迫ってくる王琳の拳と交わった瞬間、王琳の拳が砕ける音が周囲に響き渡った後、そのままソフィの振り下ろす拳の速度は緩まる事なく、王琳の顔を殴り飛ばすのだった。
地上から遥か離れた空の上からソフィに迎撃される形で殴り返された王琳は、直撃した時の衝撃音が地上に居る者達の耳に運ばれる前に、地面に頭から激突させられてしまうのだった。
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