1979.大魔王ソフィVS大妖狐王琳3
『狐火』は妖狐が幼少期の頃に覚える種としての『力』ではあるが、これ程までの威力を持った者は、過去の妖狐の歴史において存在しないだろう。
それが証拠に王琳の狐火をまともに受けたソフィは、天にまで届くのではないかという程の火柱の中で今も炎上を行い続けていた。
今のソフィは戦力値が1兆や、2兆程度の存在が持つ耐魔力では収まらない程の防御力を有しているが、そんなソフィがここまで長時間苦しめられている様子を見せているのである。
これは単に王琳の『狐火』が『魔法』の枠組みに留まらない種族としての源の『力』だという事も関係しているのだろうが、それでも耐魔力に限らずに、力の『六割』までを開放している彼の防御力でこれ程の威力を見せているという事からも、如何に王琳の攻撃力が恐ろしいかが窺い知れる。
何よりこの『狐火』に繋げるまでの王琳の動きは非常に脅威的なモノであった。
もし王琳が『卜部官兵衛』や『シギン』のような『魔』の概念を戦闘の要として置いて戦闘を行うタイプであったのならば、ソフィの『魔力吸収の地』が張られた地点に誘い込まれた時点で、もう勝負はついてしまっていただろう。
あの状態からの脱出が出来たのは、間違いなく王琳が『オーラ』といった『魔』の概念ではなく、本来の姿に戻る事で強さを増す事が可能だったからに他ならない。
確かにシギンも『戦力値』だけで見れば、今の王琳に匹敵するだけの強さを持ち合わせているのかもしれないが、それでもあの状態に陥れば、魔法といった『魔』の概念技法を全て封じられて、本来の戦い方が出来ぬまま終わっていたであろう。
この王琳が『魔』の概念に一切頼っていないという事ではないが、それでも流石は妖狐の王と言われるだけはあって、種族としての備わっている力も十全に使いこなしているという事は間違いない。
そんな王琳だが、ソフィが『狐火』で炎上を果たしているのを確認した後、これで勝負が終わるのだとは全く考えておらず、直ぐに煌阿戦の時のように、先程まで自分が居た場所の『魔力吸収の地』に向けて『透過』を行い、効力を消失させるのだった。
「さて、これでこちらも何処に居ても普段通りに戦えるようになった。後は奴自身が『狐火』でどれ程のダメージを負っているかだな……」
人型の姿である王琳は、今度はいつ『魔力吸収の地』を使われてもいいようにと距離を取った後にソフィに視線を向けた。
その視線の先に居るソフィは、今も火柱に包まれて炎上を続けていたが、もう微動だにせずに炎の中で立っているだけだった。このソフィの様子に対して『魔力』を感じる事が出来ぬ者は、すでに炎に包まれながら絶命を果たしたのかと思える程に大人しく、流石に王琳もここまでの時間、何も行動を起こさないソフィを訝しそうに見ていた。
「治癒を行っているのか……? いや、それなら周りの炎を消すか、その場から離れようとするだろうな。いったい何を考えて……――!?」
炎に包まれたままを良しとするようにこれまで抵抗を見せず、その場から動く事もしなかったソフィから、唐突に『魔力』が膨れ上がる様子を感じた王琳は、呟く事を止めて警戒心を高め始めるのだった。
そして空に居るソフィが纏っていた『三色併用』のオーラの色が僅かにではあるが、少しずつ色合いが変わっていくのが見えた。
これまでのような鮮やかな『瑠璃』の色の青が、薄緑の色が交ざったような暗い青色へと変貌を遂げていき、元の魔族特有の『紅色』のオーラは、更に深く深く紅く『柘榴色』へと変わっていく。
このソフィが纏うオーラの色は、まさにこの世界で『三色併用』を体現させたヌーが用いる『オーラ』そのものであった。
しかし新たな『三色併用』を纏ったソフィだが、王琳が感じた『魔力』の高まりは、このオーラが原因ではなかった。
炎の中に居るソフィがゆっくりと右手を上げたかと思えば、小指から一本ずつゆっくりと曲げていき、やがて全ての指を曲げ終えて拳を強く握ると、それまで轟轟と燃え上がっていた火柱が、まさに一瞬で全てが掻き消えた。
そして火柱の代わりに、先程までの『三色併用』のオーラから変貌を遂げた『三色併用』がオーラが、天に昇り始めるかの如く、大きくその場で膨れ上がっていく。
それは大魔王ソフィの魔王形態が変わった事によって、生じる効果の一端であった。
――ソフィの魔王形態が真なる大魔王から、完全なる大魔王化へと変わったのである。
そして大魔王ソフィが小さく息を吐くと、瞬時に彼の身体を緑色の光が包み込んだ。すると長時間火柱に包まれていた事で全身が焼け爛れていたソフィの皮膚が、瞬く間に元通りになった。
完全回復を果たしたソフィは、改めて自分の両手を見始めた。
「……」
自分が出せるだろうと判断している限界の力の凡そ六割の開放。そこから更に続いて魔王形態が『完全なる大魔王化』となった。
これは意識をしっかりと保った状態のソフィが、過去最大の力を発揮した瞬間であった――。
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