1976.顕著な実力差
大魔王ソフィは煌阿戦に続き、再び自身が出せるだろうと判断している『力』の『六割』までを開放して見せた。
煌阿との戦いの時は、ソフィは鵺の『魔』の技法によって正常と呼べる状態ではなく、一種の催眠状態であったが故に、自己をしっかりと保っている状態では、これ程の力を出すのは過去を含めて初めての経験となる。
見た目は先程までの状態と変わってはおらず、今のソフィの強さを正確に測る事が出来る者でなければ、何が変わったのか気づかないかもしれない。
しかし、今この空間に居る者達の多くは、ソフィの強さを数値としては正確に測る事は出来ずとも、強さが別人だという事には気づけるだけの強さを持ち合わせていた。
「すでに俺は奴のこの状態を一度見ているから、奴はまだまだ本気でも何でもないって事を理解しちゃいるが、この状態であっても今の俺ではもうどうしようもねぇな……!」
苦笑いを浮かべながらヌーは静かにそう口にする。
大魔王ヌーはアレルバレルの世界の『理』に理解がある魔族である為、この世界の妖魔召士達とは違い、数値を測る事が可能な『漏出』の『魔法』を使えば、現在のソフィの強さを数値として捉える事が一応は可能となるのだが、残念ながら今のヌーでは、ソフィの『魔力値』を数値化する事は出来ない。
何故なら大魔王ソフィの『魔力』が、大魔王ヌーの『魔力』を遥かに上回っているからである。
この状態でアレルバレルの『理』を用いた対象の『戦力値』と『魔力値』を数値化して、情報を得る事が可能な『漏出』を用いれば、まず『測定不能』と出る事は確実である。
そしてその『測定不能』という表記を見るだけでも、彼は命がけの『魔力コントロール』を行わなければならないだろう。
単なる『魔力』の余波だけでも、あっさりと他者を死滅させられるだけの脅威があるというのに、 『漏出』を用いるという事は、その『魔力』を直に脳で理解するという事である為、まず間違いなく何も考えずに『漏出』をこの場でソフィに用いれば、その者は非常に危険な目に遭う事となるだろう。
そして先程も述べたが、上手くいったとしても得られるのは、単に『測定不能』という表記だけであり、苦労に見合う対価としてはあまりにも見合わなさすぎるのであった。
ヌーが今の状態のソフィには、もうお手上げだと言わんばかりの表情を浮かべている横で、妖魔召士のシギンと妖魔退魔師のシゲンの両名だけは、先程までと変わらぬ表情のままでソフィに視線を送っていた。
どうやら強者揃いのこのメンバーの中で更に、この両者だけは今のソフィと戦ってもまだ、何とかなるだろうと考えている様子であった。
(な、何だ、あれは!? あ、あれが、普段麒麟児が言っていた『ソフィ』という魔族なのか!? あまりにも違う、違いすぎるっ! 魔力を感知するどころじゃない! や、奴は直視すらするのも憚れる程の悍ましい化け物だ……!)
この場で初めて大魔王ソフィという存在の強さを目の当たりにした『イダラマ』は、ソフィの姿を一瞥した後に直ぐそう考えたかと思えば、震える両足に手を当てながら視線を逸らすのだった。
最上位妖魔召士の中でもゲンロクや、コウエンよりも遥かに魔力を有しているイダラマだったが、そんな彼が『魔力感知』を行う事すら出来ず、視線すら逸らしてしまう程に大魔王ソフィは規格外過ぎたようである。
…………
「見た目は全く変わっておらぬというのに、お前から感じる『魔力』はまるで別人だな」
ソフィに対してそう告げるのは、先程人型に戻ったばかりの『王琳』だった。
どうやら彼もまたシギン達と同様に、今のソフィを見ても何ら変わった素振りを見せていない。つまりまだまだ余裕があるという事なのだろう。
この場に居るのは、全員が『ノックス』の世界でも強者の部類に入る者達で間違いないが、そんな強者達の中でも如実に実力差というモノが存在していると言えた。
そしてそんな中、実力的にはヌーにも及んでいない筈の『イツキ』だが、視線を逸らしたイダラマとは正反対に、じっくりとまるで観察をするかの如く、ソフィの姿を見上げていた。
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