1974.恐るべき王琳の放つ攻撃
「ああ……、何と気分の良い事か。我はこれから最高の相手と戦うのだな……!!」
王琳は単に強い『力』を有しているだけではなく、気持ちの面でも素晴らしいと感じられる相手だとソフィは認識を果たした様子である。
つまりこれから戦う王琳は、かつてソフィが思い描いていた至高の相手に近しい者だったという事である。
後はこの至高の対戦相手に完膚なきまでに叩き潰されて、敵わないと思わされる事で彼の願いは成就されるだろう。
――それこそが、大魔王ソフィの願望の全てである。
まだ戦ってもいない内からすでに、漆黒の四翼を生やしているソフィの『魔力』が漲り始めており、無意識に纏っている『三色併用』のオーラの周囲に、バチバチという『魔力』が弾ける音が響き始めていく。
ゆっくりとソフィは空を浮き始めて行き、やがて王琳を見下ろす事が出来る程の高さで浮上を止めた。
「準備はよいか?」
「ああ。いつでも構わぬぞ」
一言、ソフィが静かにそう告げると、王琳は妖狐本来の姿のままで答えた。
――両者の死闘となる戦いは、この言葉のやり取りから始まるのだった。
…………
大魔王ソフィの現在の戦闘形態は、第三形態の中の戦闘特化と呼ばれる状態にある。
単なる第三形態とこの四翼を生やした戦闘特化状態でも強さに相当の開きがあるが、更に現在のソフィは魔王形態も『真なる大魔王化』を果たしている状態にあり、妖魔退魔師の副総長であるミスズと戦闘を中断させた時とほぼ同一の状態の強さとなっている。
そんなソフィは、ミスズ戦の再現を行うかの如く、あの時のように右手に集約させた『魔力』から発動羅列を展開しつつ、一つの『魔法』を生み出した。
――超越魔法、『万物の爆発』。
アレルバレルの世界で『魔神級』と呼ばれる位階領域に居る大魔王ソフィから放たれたその魔法は、眼下に居る妖狐本来の姿になっている王琳の元に向かっていき、それは何事もなくこの世界から消失した。
「む……」
「ふふっ、おいおいソフィ。流石に俺相手にそんな程度の『魔』の概念技法は挨拶にもならねぇよ」
ソフィの放った『万物の爆発』は、確かに大魔王領域に居る魔族が放つ魔法にしては、位階的にも大した事はない部類に入る極大魔法ではあるが、それを放ったのは『魔神級』の状態である大魔王の魔法なのである。
しかしそんな威力を誇る筈のソフィの魔法を王琳は、その場から一切動く事すらせずにあっさりと『透過』技法を用いて消失させたのだった。
「この至高の戦いの開幕を飾るには、今の一撃では流石に物足りぬ。俺が仕切り直しをしてやろう」
――『遠放速雷』。
「む……? あやつから膨大な『魔力』を感じられたが、何も……――!?」
――それは一瞬の出来事だった。
見渡す限りに広がる平地しかない、隔絶された空間のソフィの目に映る範囲を越えた遥か先から、目にも止まらぬ光の速度を保った『雷の矢』と呼べる一筋の閃光が、真っすぐ、そのまま一直線にソフィの心臓目掛けて放たれてくる。
この形態になっているソフィでさえ、その王琳が放った『雷の矢』を視界に捉える事が出来た頃には、すでにソフィの間合いにまで迫ってきており、今からでは無詠唱であっても『次元防壁』などの発動羅列を刻む暇はないとソフィは判断する。
(避けるか……? いや、あえて受けてみるか? あれ程遠くから、一瞬の内にここまで届かせられる事の出来る速度を持った『魔』の技法だ。一体それはどれ程の威力を持っているのか、是非この身で一度受けてみたい……!)
ソフィは王琳の放った『遠放速雷』という『雷の矢』と呼べる一撃を受ける決意を固めると、直ぐにその衝撃に備える準備をコンマ数秒で整え終える。
――『耐雷障壁』。
それは土属性の中でも『雷』系統の『魔法』に対して、軽減に重きを置く事を目的とする『障壁』の一つである。
ソフィが『魔法使い』としての本来の戦い方となった時、その戦闘に於ける間合いはとてつもなく広い。
それは単なる人間の視力では、まだ視界にすら届かない程の遠くにあった『遠放速雷』だが、ソフィが防衛手段を取り終えた頃には、すでにソフィの前方数メートル先にまで迫ってきており、王琳の放った『魔』の技法である『遠放速雷』の速度は、まさに光速と呼べる程の速度を持っていると言えた。
その『遠放速雷』の速度を認めたソフィは、今度は威力の方を確かめようと『遠放速雷』の衝撃に対して神経を注ぐ。
『耐雷障壁』でどれ程の軽減が出来るかを判断し、それ如何によってまともに受けるか、はたまた次の防衛手段を取るかを考えた。
――しかし。
ソフィはその『遠放速雷』が、自身の用意した『耐雷障壁』に触れる寸前、まさにその刹那と呼べる瞬間に考えていた計画を捨てて、回避を選択するのだった。
そしてその判断がソフィを救った――。
王琳の『遠放速雷』は、ソフィの『耐雷障壁』をあっさりと貫通したかと思えば、先程までソフィの居た場所を一瞬の内に通り過ぎて行き、もう『遠放速雷』はソフィの視力ですら見えなくなってしまった。
やがてソフィ達の居る場所から遥か遠くの方から、一際眩い光が包み込んだかと思えば、数秒後に大地が破裂するような爆音が響き渡り、その衝撃の余波がここにまで一気に迫る勢いで押し寄せるのだった。
「――」(こ、こんな事が……っ! 神々が創り変えた空間の一部が、た、たった一撃で粉々に……!? まずい!)
戦いが始まってからじっと様子を窺っていた魔神は、王琳の放ったとてつもない雷光の一撃が齎した衝撃を正確に見届けた後、直ぐに上空へと飛び上がり、両手を広げてこの空間の復元を行う為に力を行使し始めるのだった。
そして回避行動を取ったソフィは、そのまま地上へと着地を行った後に人型の姿となっている王琳の姿を視界に映すのだった。
「すまぬな、オープニングを飾るにはあまりにも威力が大きすぎた。どうやら今の俺は相当に興奮しているらしい。自分の力を上手く制御出来ていない程の興奮は数百年、いや数千年ぶりだ……!」
そう言って王琳は人型の姿のままで、嬉しそうに口角を上げながらソフィに告げるのだった。
どうやら王琳が妖狐の姿から人型の姿に変えたのには、このまま戦えば自分の力を上手く制御が出来ないままになってしまうからという理由であり、当然先程の攻撃に対して回避行動を取ったソフィが、このままで終わる筈がないと考えて、この戦闘の行く末を見据えた事からの人型変化のようであった。
――それはソフィの強さに対して信頼を持っていたからこその行動であり、このまま自分の力を御する事が出来ないままであれば、ソフィには勝てないだろうと踏んだのだ。
「クックック……! こちらこそ、失礼したな王琳。お主を相手に試そうとした我を許してくれ」
――大魔王ソフィが自身に持っているだろうと判断する潜在する『力』の六割の開放。
世界の崩壊を起こさせないようにと、自分の力を抑えて生き続けてきたソフィにとっては、自分が本気になった時にどれ程の力を出せるかを万と呼べる年月を生きてきて尚、まだ分かっていない。
ソフィがエルシスや力の魔神と戦った時以上の『力』を開放するのは、自己を保ったままの状態では初の試みの事であり、彼は開幕の王琳の一撃でこれだけの開放を必要とする相手なのだと認めたのであった。
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