1972.戦いの幕が開かれる
洞窟の岩を媒体とした『結界』から、隔絶された空間へと転移したソフィ達は、遂に王琳が指定した決戦の場所へと足を踏み入れるのだった。
その場所は前回の会合が行われた空間とは全く異なっていて、屋敷といった建物などは一切なく、真っ白で無機質な空間が延々と広がっているだけだった。
「ここは……?」
ソフィはその場所に既視感を感じて直ぐに『力の魔神』をこの場に召喚するのだった。
「――」(どうやらこの隔絶された空間そのものは元々あったようだけど、後に我々神格を持つ神々の手によって作り変えられたようね)
「やはりそうだったか。過去にお主と戦った時の場所と似ていると思ったのだ」
「――」(それもこの場所を展開したのは間違いなく、私と同等以上の神格を持つ者で間違いない。少なくとも単なる執行者階級の魔神程度では張る事が出来ない『結界』だという事を貴方に伝えておくわね……)
「ほう……? ではその辺の事も踏まえて、詳しい話をあやつから直接訊こうではないか」
そう言ってソフィは前方に突如として姿を現し始めた、新たな妖魔山の長となった『王琳』に視線を向けるのだった。
「来たか、ソフィ。まず最初に言っておくが、こんなにも遠い場所を指定してすまなかった。この一戦だけは誰にも邪魔をされたくなかった。何も考えずに全力で暴れられる場所はここしか思いつかなかったのだ」
腕を組みながらそう告げる王琳だが、すでに戦闘意欲が最大限にまで高まっている様子であり、早く戦いたいという気持ちがソフィにもひしひしと感じられるのだった。
「ふむ。思う存分やり合える場所という事か。この魔神が言うにはこの場所は、過去に現れた神々によって用意された場所のようだが、こやつと同じような『魔神』がこの世界に現れたという事だろうか?」
「ああ……。お前に言っていなかったか? もう何時頃の事だったかすら覚えていないが、遥か昔に俺の元にもそいつと同じ『魔神』が現れた事があるんだよ。そいつが俺に何かワケの分からない言葉で声を掛けてきやがったんだが、何を言っているか分からなかったからそのまま無視してやっていたら、その場所をこんな風に真っ白な空間に変えながら俺を襲ってきやがったんだ。何度か消滅させてやったら、そいつは俺に何かを告げた後に消えたんだが、この場所はそれからずっとこの状態で残ったものでな。ここでは俺がそれなりに力を出しても壊れないから便利でな、山で戦争を行う時はこの場所に放り込んで処刑する場所に使わせてもらっていたってわけだ」
「ふむ……」
ソフィは隣に居る魔神にせがまれて、今王琳が口にした内容をそのまま通訳するのだった。
「――」(話の筋は通っているが、にわかには信じられない。魔神の中でこの私以上の『結界』を展開出来る者は限られている。私の知る限りでその限られた者が、下界でやられたという話は聞いた事がない)
「魔神よ、今はそんな事はどうでもよいではないか。大事なのはこれからこの場所であやつと戦うわけだが、お主から見て、ここはどのくらい持ちそうなのだ?」
「――」(貴方とあの『超越者』の戦闘では、局所的な部分では私が『結界』を展開する必要性はあるでしょうけど、基本的には私が何をせずともある程度は耐えられると考えられるわ。少なくとも数千年前に私が貴方と戦った時くらいの力では、この空間に亀裂一つすら入れられない筈よ?)
「ほう……。では我とあやつの戦い次第というわけか。まぁ、少なくともお主と戦った時より、今回は『力』を開放する必要がありそうだがな」
「――」(あの『超越者』は間違いなく私より強さは上でしょう。少なくともそれは、この場所を展開した神格持ちの神々と対立して生きている事が何よりの証拠ね……)
明らかに魔神の表情は、少し前に王琳と戦う事についてソフィと話をした時よりも深刻なものとなっている。
どうやらこの隔絶された空間を直に観察した魔神は、自分と同等以上の神格を有する魔神を相手にして、消滅させられずに生存を果たしている事からも脅威を再認識した様子である。
(あの『超越者』が単なる塵芥ではない事は、少し前に私の『結界』を容易に破壊して入ってこられた事からも認識はしていたけれど、まさか『結界』の規模で『女神階級』はある神々を追い返せる程の力量とまでは思わなかった。これからあの『超越者』と『ソフィ』が本気で戦うなんて勘弁して欲しいわね……。これは間違いなくこの場所で戦闘の余波を留められなければ、この世界に天上界から使者が送られてくるのは間違いない)
(※力の魔神の『結界』を壊した時というのは、山の中腹でソフィが『天狗族』を消滅させた時の話である。 1774話 『力の魔神と九尾の妖狐』)
数千年に一度くらいに生じる規模の脅威をこの数日で何度も経験させられ続けた魔神は、もう呆れてしまって苦笑いを浮かべるしか出来なくなってしまうのだった。
…………
「さて、魔神との話は済んだか? そいつに万全な『結界』を張るように言ってくれよ? 俺は今回初めて手加減というものをせずにお前と戦うつもりなのだからな」
「クックック、分かっている。この我もお主に負けぬくらいにこの時を待ち続けてきたのだ。遠慮せずにこの我を殺す気で来るがよい」
ソフィはそう告げると『魔力』のコントロールを行い『三色のオーラ』を纏い始めて、更には形態変化を行うのであった。
――これより、大魔王ソフィと大妖狐王琳の戦いの幕が、切って下ろされるのだった。
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