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1987/2213

1970.願いを託した妖狐

「ここから主の元へは私に代わって『二瑠(にる)』が案内致しますので、もうしばらくここでお待ち願います」


 どうやらここまで案内してくれた五立楡(ごりゆ)は、この後は洞窟前での警備を申しつけられていたようであり、そう告げた後に名残惜しそうにソフィの方を見るのだった。その五立楡の表情を見たソフィは彼女に向けて口を開いた。


「五立楡殿、お主には屋敷の中からここまで本当に世話になった。奴との勝負を終えた後、改めてお主に礼をさせてもらいに行くとしよう」


 別れを前に寂しそうな表情をしていた五立楡だったが、ソフィがそう告げるとみるみる内に嬉しそうな表情に変わっていった。


「はい! お待ちしておりますねっ!」


 その返事は先程までの案内としての形式ばったものではなく、本来の彼女自身の言葉のようであった。


 そうして五立楡と会話を交わしていると、洞窟の中から新たな妖狐が姿を見せ始める。どうやらあの妖狐が先程五立楡が口にしていた『二瑠(にる)』という『二尾』の王琳の眷属で間違いないだろう。


 これまでソフィが見てきた王琳の眷属では、初めて見る男性の『妖狐』であった。


「お待ちしておりました」


 五立楡の方を一瞥した後、改めてその妖狐はソフィ達に頭を下げた。


「二瑠、後の事は任せますよ」


「はっ! 五立楡様もここまでの案内お疲れ様でした。後は私にお任せください」


 王琳の眷属同士の上下関係が尾の数で決まるのかは定かではないが、少なくともこの二瑠の五立楡に向ける態度は上司と部下の関係に映るソフィ達であった。


「それでは中へ案内致します」


 そう言って二瑠は笑みを浮かべた後、洞窟の中へと再び足を踏み入れ始めるのだった。


 二瑠に案内されて各々が洞窟の中へと入っていく中、ふとソフィが視線を感じて後ろを振り返ると、まだ五立楡はソフィの方を見ていた。


 そしてソフィの視線に気づいた五立楡は、笑みを浮かべると小さく手を振ってくれるのだった。


「おいソフィ! いつまでも何していやがるっ!」


「むっ、すまぬ。直ぐに行く」


 一番最初に入っていったヌーは、ソフィがいつまで経っても洞窟に入ってこない事に気づいたのか、わざわざ踵を返して戻ってきたかと思えば、呑気に五立楡と手を振り合っている様子のソフィを見て怒号を発するのだった。


 ヌーに怒られているソフィを見た五立楡が申し訳なさそうにソフィに手を合わせていたが、ソフィは軽く手を挙げて五立楡に声なき返事をした後、彼もまたヌーと共に洞窟の中へと入っていくのだった。


()()()殿()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ソフィ達が洞窟の中へと入っていき、姿が見えなくなった後に五立楡は、そう言って再度頭を下げたのだった。


 やはり彼女も七耶咫や耶王美と同じ王琳の眷属らしく、自分の主の悲願の事を痛い程に理解している様子であり、誰にも出来ない王琳の願望を叶えられるかもしれないソフィに、自分達の願いを託す様子を見せた五立楡であった。


 ……

 ……

 ……


 二瑠に案内されながら入ったその洞窟の中は、少し前に斗慧と戦った洞窟と変わり映えのしない普通の洞窟であった。どうやら『結界』が張られている場所は更に奥まった場所にあるようで、ここまで入ってきたとしても普通の者達では気づく事は出来ないだろう。


 それが証拠にソフィやヌー達もまだ、何処からが隔絶された空間になるのかの見当もついていない状況にあった。


「おい、二瑠(にる)って言ったか? ここも『結界』を用いて隔絶された空間へと転移する仕組みなんだろう? 奴がその『結界』を用いやがったのか?」


 暗く長い洞窟をいつまでも歩かされていたヌーは、退屈しのぎとばかりに先頭で案内を行っている『二瑠』に話し掛け始めるのだった。


「いえ、管理をされているのは王琳様で間違いありませんが、実際に『結界』を張ったのは別の者だと聞いております」


「やっぱりか。あの野郎は確かに高い『魔力』を持っているようだが、明らかにそこの人間共のように『結界』に秀でたタイプには見えなかったからな。じゃ、誰が張りやがったんだ? やっぱりこの前の煌阿って野郎か?」


 ヌーの中ではシギンやエイジといった妖魔召士が『結界』に秀でたタイプと認識しているようで、王琳の事はどちらかといえば、自分達と同じような『魔族』に近い戦闘タイプだと判断した様子であった。


「申し訳ありませんが、その辺の事情は私には分かりかねます。何分(なにぶん)私が生まれる遥か昔から存在していましたので……」


 この妖狐も見た目は人間の青年くらいにしか見えないが、実際の年齢は異なっているのは間違いないだろう。しかしどうやら今の口振りでは、それなりに長く生きてきているであろう『二瑠』が生まれる以前から存在していたようであり、どれだけ長く維持し続けられてきたのか見当もつかなかった。


「そうであれば煌阿の可能性は低いだろうな。アイツが『結界』に長けていたのは私の先祖の『力』を利用していたからに過ぎぬ。お主が生まれる前からこのような場所があったというのであれば、卜部官兵衛が生まれる前からあったという事に他ならぬ」


 シギンがそう口にすると、二瑠は足を止めて振り返り、そのシギンの表情を見た。


「そうですか……。貴方はかの有名な『()()()()()』殿の()()()にあたられる方なのですね」


「ああ……。どうやら私の知っている以上に、この山で()()は知られていたらしいな」


()()()()()。幸か不幸か我が主や、妖魔神の方々にとってはそこまで馴染みがあるわけではありませんが、()()()達にとっては()()()()()()()でありましょう」


 その妖狐の含みのある言い方に疑問を感じたシギンが、更に問いかけようと口を開きかけた瞬間だった。


「さぁ、着きましたよ。ここが王琳様の元へ向かう事が出来る『結界』の場所となります」


 どうやら目的の場所についたらしく、質問を続けようと考えていたシギンは仕方なく、その『結界』の有る場所に視線を送りながら口を噤むのだった。


 ……

 ……

 ……

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