1968.目標が定まった事により生じる焦燥
五立楡の案内で王琳の待つ場所へと向かう一行は、ようやく長い森を抜けて高原に辿り着き、再び山の景色を視界に入れられるようになった。
その見渡す限りに広がる山の景色は、流石は広大な土地からなる妖魔山であり、更には天狗達と戦った中腹より高い場所にある為、視界の先に広がるその見事な景色は壮観と呼ぶに相応しいモノであった。
「しっかしよ、改めてここはとんでもねぇ場所だな? 俺もあらゆる世界の山々をこの目で見てきたが、こんなに馬鹿でけぇ山は初めてだぜ」
大魔王ヌーは壮観たるその山の景色を一望しながら、笑みを浮かべて満足気にそう口にするのだった。
「ああ。これだけの広さがあるからこそ、あれだけ多くの種族の妖魔達がこの妖魔山に生息出来ているというわけだ」
ヌーの言葉に反応を見せたのは、人間の身でありながらこの山に移り住んで長年生きてきた『シギン』だった。
「こんなにも高い場所だというのに、見上げればまだまだ頂きが見えぬ程に山は広がり聳え立っていますし、我々だけで調査を行っていたら、相当長い年月を要する事になっていましたね……」
山の見事な景色に感嘆の言葉を口にしていたミスズもまた、ヌーとシギンの会話に入ってくるのだった。
「ああ。しかし我々は幸運だった。これもソフィ殿達が居たからこそ齎された結果だ」
そして妖魔退魔師総長のシゲンがそう言ってミスズの呟きに返事を行うと、今度はソフィが口を開いた。
「それを言うのであれば、シゲン殿達がエヴィを探すのに協力をしてくれたからに他ならぬ。この山に入る前から入った後まで、本当に感謝している」
そう言ってソフィがシゲン達に感謝の言葉を述べていると、それを聞いたエヴィは再び決まりが悪そうな表情を浮かべていたが、隣に立っていたイダラマがエヴィに声を掛ける。
「全ての原因は私だ。私が自分の野望の為にお主を連れまわしてしまったのだからな。だからそのように麒麟児が気にする必要はない」
「イダラマ……」
そしてこの一行の最後尾を歩いてたイツキが、ソフィに気づかれぬようにまるで監視するかの如く、視線を向けていたが、気が付けばそんなイツキの元にエイジが並び立っていた。
「何だよ……?」
「いや、そんな熱心にソフィ殿を見つめているお主の事が気になってな。確か小生達が煌阿と戦っている時もお主は戦闘に参加する素振りを見せず、しきりにソフィ殿の方を見ていたな?」
「はあ……? 別にそんなつもりはねぇよ。あの時だって俺程度が戦闘に混ざってどうにかなるとは思えなかったから、面倒事に巻き込まれねぇように避難していただけだしな」
「ほう。しかし小生にはあの時もお主が『金色』を纏い『魔力』を用いて、ソフィ殿から何かを得ようと探っているように思えたのだがな?」
「!」
「小生はお主が『金色の体現者』だという事を知っている。そして『妖魔団の乱』の事変の時、お主は小生の師であるサイヨウ様や、他の動いた妖魔召士達を今のように監視するような視線を向けていたのだろう?」
「ちっ……! もうそんな昔の情報まで仕入れていやがるのかよ。流石は新たな妖魔召士組織の長さまだな」
エイジの言葉には何かを確信しているようなモノが感じられたイツキは、これ以上誤魔化しても意味がないと判断した様子で揶揄うような発言を行うのだった。
「別に大した事ではない。お主が『煌鴟梟』のボスであった経歴や、ゲンロクの奴が興した『退魔組』の頭領『サテツ』の補佐役を務めていた事で、他者より報告が多く挙がってきていただけの事だ。サイヨウ様だけではなく、先代の妖魔召士の護衛を行っていた妖魔退魔師から『天色』も会得したようだしな。今回も『金色の体現者』としての恩恵の力を用いて、ソフィ殿から『魔』の技法を得ようと企んでいたのではないのか?」
「て、てめぇ……!?」
どうやらそこまで気づかれているとまではイツキも思わなかったようであり、これまで上手く立ち回りながら、他者から気づかれぬようにして『力』を得てきた彼は、あっさりと目論みを見抜かれたことで思わず演技ではなく、本当に驚いてしまう素振りを見せてしまうのだった。
「やはりそういう事であったか。まぁ別に小生はお主が何を企んでいようと、妖魔召士組織に関係がある事でもなければそこまで拘りはせぬ」
「だったら何も言わずに黙っていやがれ。俺はあの野郎を打ち負かす為に強くなる必要があんだよ!」
そう言ってイツキはソフィからヌーへと視線を移し、彼を睨みながらエイジにそういい放つのだった。
エイジもイツキの視線の先に居るヌーを一瞥した後、何かを悟るように小さく溜息を吐いた。
「そういう事か……。だがな、流石に順を飛ばしていきなり本丸と呼べるソフィ殿から力を得ようとするのは、流石に短絡的思考過ぎはしないだろうか? どう考えてもお主ではソフィ殿から力を得られるとは思えぬ。お主の『特異』が一体どのようなモノなのかは分からぬが、たとえ形だけは上手く真似られたとしても『魔』の概念は本質が伴わなければ、必ず後悔する事になるぞ?」
「そんな事は知らねぇな。確かにあの野郎共も似たような事を言っていやがったが、俺はこれまでこのやり方で上手くやってこれたんだ。これからも上手くやってみせるさ」
そう言って今度はヌーからエイジに視線を向けるイツキであった。
「そうか……。ならばもう小生も何も言わぬ。お主の勝手にするがよい」
上手く諭せないと判断したのかエイジは、もうイツキに何も言わずに元居た場所へと早足で戻って行くのであった。
イツキはそんなエイジの後ろ姿を見ながら、気にくわないとばかりに舌打ちをする。
気が付けば出発をした時とは異なり、一行はそれぞれ思い思いに会話を行っている様子であった。
……
……
……
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!




