1967.眷属たちによる囮行動と、決戦の場への案内
先に単身で決戦の場に向かった王琳から遅れる形ではあるが、ようやく向かう面子も決まり、ソフィ達も五立楡の案内で決戦の場に向かう事となった。
「では、五立楡。貴方は取り決め通りに私と耶王美姉さまが出た後に出発しなさい。しっかりとソフィ殿達の案内をするのですよ?」
「はっ! お任せください、七耶咫様!」
どうやら王琳達が戦う場所を探ろうと考えている者達の目を逸らす為に、七耶咫と耶王美が囮となって別々の場所へと向かい、その間に『結界』を施しながら五立楡が王琳達の元へと案内する手筈のようである。
戦いが始まってしまえばどうせすぐに居場所は割れる事になるのだろうが、それでも眷属の妖狐達は、王琳とソフィの戦いに邪魔を入れるつもりはないという意思表示を示す為に、あえてこういった行動を取る事にしたようである。
こうして主たちの戦いに邪魔が入らぬように、王琳の眷属たちが行動しているという真実を拡散させる事が重要であり、その行いに反するような真似をする者達には、妖狐は容赦なく手を下すという事を山全体に情報として共有させるのが狙いのようである。
そして更には単に決戦の場に辿り着かせないようにするだけではなく、この眷属たちの囮行為は、今後の妖魔神となる王琳の山の体制に、反旗を翻しそうな種族に対して目星をつけるという意味もあるのであった。
すでに耶王美の千里眼の力によって、こちらを注視している輩がちらほらと居る事は承知の上で、耶王美はその者達に連なって増えていくかどうかを確かめ始めていた。
もちろんランク『8』を下回るような者達などは、人間達が定めたこの禁止区域内には存在しないが、たとえこちらに視線を向けている種族達に実際に制裁を加えなければ状況にならなくなったとしても、束になって襲い掛かってこようが『耶王美』には到底敵わない。
前回の時のような『魔』の概念理解度が耶王美達よりも有る『鵺』や、天従十二将全員を束ねながら『帝楽智』が現れるような事があれば、流石に耶王美は本気にならざるを得ないだろうが、単なる妖魔ランク『8』や『9』の連中がいくら束になって襲い掛かってこようが、八尾の『耶王美』には何の障害にも映らない。
――それだけの力の差が、八尾の『耶王美』と禁止区域に居る他種族の妖魔達の間にあるという事である。
更にそんな耶王美と共に居るのが、こちらもまた王琳の側近として認められている七尾の『七耶咫』なのである。王琳達の居場所を探ろうと、視線を向けたりするような者は居るかもしれないが、実際にこの妖狐二名に襲い掛かる馬鹿な真似は出来ないだろう。
もし実際にこの七耶咫と耶王美を同時に相手どって勝つつもりで本気で襲い掛かってくる者が居たとしたら、それは『煌阿』や『真鵺』くらいのものであっただろう。
しかしそんな『煌阿』もすでにこの世から消滅を果たし、もう片方の鵺である『真鵺』もこの世界から居なくなっている。つまりは万が一にも『妖狐族』に逆らって勝てる妖魔は、今の妖魔山には存在しないという事と同義であった。
やがて耶王美達が囮行動を始めてから数分が経ち、こちらに対しての監視が居なくなる頃を見計らい、五立楡は施している意識阻害の『結界』の内側で口を開き始めた。
「それでは皆さん、今から王琳様の元へ案内します。私の意識阻害の『結界』は、普通に移動する分には問題はありませんが、大きな『魔力』を使うような真似を行えば、直ぐに感知される程度のものなので、どうかお気を付けください」
どうやら五立楡の『結界』の規模は、イダラマ達の使う『結界』より少しだけ劣る規模の意識阻害級の『結界』のようであった。
「うむ。了解したぞ、五立楡殿」
「恐れ入ります。それでは行きましょう」
ソフィの返事に軽く頭を下げた後、五立楡は王琳の元へ一行を案内し始めるのであった。
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