1964.告白の返事
「えっ、そうなの……?」
「はい」
どうやらヒノエはヒナギクが自分を慕っているという事は知っていたが、それはあくまで強さといった部分を認めてくれているのだと思い込んでおり、自分を恋愛という意味で好いていたのだという事には気づいてはいなかったようである。
「副総長は私にこう仰られました。ヒノエ様がソフィ殿について行く事で組織から除籍になるかもしれないと。しかしヒノエ様は調査から戻られてから本日まで、終ぞそんな話を私に仰って下さらなかった。このままではヒノエ様は真相を語らぬままにもう二度と会えなくなるかもしれないと思い、直接この目でソフィ殿がどのような人物なのか、そしてヒノエ様の気持ちを確かめようと今回、無理を言って副総長に同行を許可してもらったというわけです」
先程より幾分落ち着いた様子を見せたヒナギクは、もう一度分かりやすく伝える為、話の筋道をしっかりと立てながら事の詳細を説明してくれたのだった。
「お前に説明しなかったのは謝るが、それはこちらもまだ結論を出せていなかったからなんだよ。私はお前達組織の幹部達を集めた『一組』を預かる組長という立場に居る。結果がどうなるのか分からない状態で、無責任な事は言えはしない。だ、だから、今日ソフィ殿から返事を貰えたなら、結果はどうであれお前達に伝えようと思っていたんだよ」
照れを隠すようにヒノエは、頭を掻きながらヒナギクにそう口にする。
実際にヒノエはソフィが王琳との戦いを終えれば、直ぐにこの世界から去ってしまうのだという事を意識はしていた。しかし告白の結果を本日告げられるとまでは思っておらず、早くても数日後になるだろうと考えていたのだった。
だが、まさかヒナギクがここまで思い切った事をするとは予想がつかず、こうしてソフィ殿にとって大切な日に自分の事情を押し付けるような出来事を生じさせる事になり、彼女はソフィに対して余計な事をしたと申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、おずおずと彼の方に視線を送った。
「ふむ……。ヒノエ殿、まずは我に興味を抱いてくれた事を嬉しく思う。本来であれば別れ際にお主から言葉を貰った時に、直ぐ伝えておかねばならなかった事があるのだが――」
「は、はい!?」
ヒノエは突然のソフィの話の切り出しに、背筋を伸ばして緊張感を漂わせ始めるのだった。
「我は妻帯者だ。この世界に来る少し前、我は共に歩んでいこうと心に決めた者が居る。だからお主の想いに応える事は出来ぬ」
ソフィは心にリーネの姿を思い浮かべながら、ヒノエの告白に対する返事を言葉にするのだった。
告白の返事を受けたヒノエは咄嗟に何かを口に出し掛けたが、その唇を噛みしめると必死に冷静さを取り戻そうと目を瞑る。
――彼女のその様子からは、一切の悲壮感といったものが感じられなかった。
むしろ隣でソフィからヒノエへの返事を聞いていたヒナギクの方が、相当に動揺している様子であり、一度はヒノエを支えようと出し掛けたが、彼女の真剣な表情を見た事で手を止めて、やり場のなくなったその手を宙に彷徨わせてしまうのだった。
やがてヒノエは思案が纏まったのか、その目を開くと決意を胸にソフィに口を開くのだった。
「ソフィ殿、誤魔化す真似をせずに、しっかりと私の告白に返事をくれた事を感謝する――」
決意を秘めたその目を見たソフィは、ヒノエがその言葉で終わらせようとしていない事を理解した。
「だが、貴方のくれた返事の中にある『私の想いに応える事が出来ない』という言葉には、私は納得が出来ていない!」
ヒノエはその場に跪くように片膝を地面に着くと、右手でバシンと床を叩きながら啖呵を切るように声を張り上げた。
「恥を承知でソフィ殿に申す! この私を貴方の最愛の御方に会わせて欲しい! なんなら、遠くから一目見させてくれるだけで構わねぇっ! 絶対に貴方の奥方に迷惑をかけないと約束する。だから、だから御頼み申す!」
そう言ってヒノエは両手と頭を床につけながら、ソフィに『リーネ』の居る『リラリオ』の世界へ連れて行って欲しいと、土下座をして頼み込むのだった。
突然のヒノエの行いにソフィだけではなく、ヒナギクも驚いた様子で床に頭を擦りつけるヒノエを見るのだった。
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