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1963.爆弾発言

「こちらの部屋を使って下さい。安心して下さい、私は外に出ておりますので」


 中央堂の間から少しだけ離れた場所にある部屋を案内してくれた五立楡(ごりゆ)は、そう言ってソフィ達を部屋に残して去って行こうと背を向けた。


「すまぬな」


「いえ、私こそ先程は差し出がましい事をしてしまいました。お許しください」


 その五立楡の言葉は、先程ソフィに向かって突っかかってきた『ヒナギク』を止めた時の事を言っているのだろう。


 単に止めただけではなく五立楡は、咄嗟の事であった為に手を首筋に当てるだけのつもりだったが、勢いを殺しきれずにヒナギクの首の皮を薄く切り裂いてしまったのであった。


「いや、五立楡殿が動いてくれたおかげでエヴィ……、我の配下の動きを止められた。あのままであったのならば、確実に厄介な事になっていただろうからな、感謝している」


 もちろんソフィであれば、最悪の結果を迎えたとしても何とでもなったのだろうが、行い自体を止められた事が大きかったと彼は言いたいのであった。


 ソフィのその言葉を聞いた五立楡は、ソフィに再び深々と頭を下げた後、静かに部屋を出ていくのだった。


「さて、それではヒノエ殿も落ち着いたようだし、ヒナギク殿の目を覚まさせるとしようか」


「そ、ソフィ殿、ほ、本当に申し訳なかった……」


「構わぬよ、それにしても顎の骨が完全に砕けておるな。これは『救済』を使わねばならぬな」


 目を覚まさせるだけならば『偽騙救済(フェーキ・ヒルフェ)』で十分間に合うところだが、砕けた顎が完全に粉砕されていて、元の状態に戻すのならば『救済(ヒルフェ)』の方が手っ取り早いとソフィは考えた様子であった。


「そ、それもすまねぇ……。あの時は咄嗟の判断で、つ、つい……」


「クックック、それは構わぬがな。こやつが目を覚ました後にまた、力いっぱい手を出さぬように頼むぞ?」


「わ、分かった……!」


 ――神聖魔法、『救済(ヒルフェ)』。


 ソフィが『救済(ヒルフェ)』の魔法を使うと、ヒナギクを光が包み込んでいく。


 やがて砕けた顎や首に至るまでのあらゆる裂傷した箇所の傷が、みるみる内に治っていくのだった。


 完全に傷が癒えた後、ゆっくりとヒナギクは目を覚まし始める。


「うっ……。えっと、わ、私はいったい……?」


 目を覚ましたばかりでまだ完全に覚醒していない様子のヒナギクは、目を擦りながらゆっくりと身体を起こし始めると、辺りを見回し始めるのだった。


 そしてそこで自分を見ているヒノエやソフィに気づくと、はっとして立ち上がるのだった。


「ひ、ヒノエ様! そ、それに貴方は……!!」


「ヒナギク! 今度またソフィ殿に手を出そうとしたら承知しねぇぞ!」


「! も、申し訳、ありませんっ!」


 眉をひそめてソフィを睨みつけようとしたヒナギクだが、その瞬間にヒノエから怒号を発せられて、慌てて背筋を伸ばしながら謝罪を口にするのだった。


「謝るのは私にじゃないだろう! まずソフィ殿に謝れ!」


「は、はい。ソフィ殿、先程は申し訳ありませんでした。お、お許しくださいませ……」


「いや、構わぬよ。それより一体どういう事だったのかをもう一度詳しく教えてもらえぬか? 先程お主は我がヒノエ殿を誑かしたと口にしておったようだが……」


「そうだ、ヒナギク! 手前は一体何を――……っ!」


 ヒノエがヒナギクに詰め寄ろうとしたが、ソフィがヒノエを制止させる。


「ヒノエ殿、まずはヒナギク殿から話を聞こうではないか。お主がそんな剣幕のまま騒ぎ立ててしまえば、ヒナギク殿を委縮させてしまう」


「ソフィ殿……」


「ヒナギク殿は余程にヒノエ殿の事を想っておるようだ。だからこそお主の為にヒナギク殿は、我に詰め寄ったのだろう。まずはヒナギク殿からしっかりと話を聞くべきであろう」


「そ、ソフィ殿の言う通りだ。かたじけねぇ……」


 自分が如何に冷静さを欠いていたのかを理解したヒノエは、頭を掻きながらソフィに謝罪を行った後、冷静になろうと深呼吸を行うのだった。


 二人のやり取りを眺めていたヒナギクは、あっさりとソフィの言葉を受け入れて謝罪まで行った自分の組の組長であるヒノエに驚き、そして何かを悟った様子を見せた後に小さく顔を俯かせた。


 やがて僅かな時間の後、小さく息を吐いたヒナギクは意を決して内に秘めた思いを吐露するかの如く、口を開くのだった。


「今思えば以前の妖魔召士のサカダイ襲撃後辺りからヒノエ様は変わられた。これまでヒノエ様が殿方の話をする時は、些細な一夜限りの関係を持った者の話か、我が妖魔退魔師組織の総長であるシゲン様の事に関してのみだったのに、最近はずっと貴方の事ばかり私に話されていた」


「お、おい! 待て、ヒナギク!」


 これからヒナギクが話すであろう内容に一抹の不安を感じ取ったヒノエが、一旦止めようとしたのだが、ヒナギクは感情が乗ったようで口を閉ざす素振りを見せずに話し続け始めるのだった。


「最初は副総長と互角に渡り合える者が居るといった程度の話だったのが、どんどんと貴方個人の話ばかりされるようになった。でもその時はまだ、多分に物珍しさが含まれた、強い御方に関心があるといった程度の話だった。しかし先日総長達が無事に妖魔山の調査から戻られた時、私がいつものように任務からお戻りになられたヒノエ様に労いの言葉を掛けようとしたら、そんな私の言葉を遮る勢いで『ソフィ殿はとても勇ましいのに、それだけじゃなくて優しくて約束を忘れない情に溢れた素敵な御方』だのと言った内容の言葉を、聞いてもいないのに日が暮れるまでずっと私に語られていた……」


「ちょっ、待てってぇ……!」


 突然に隠しておきたかった話をヒナギクの口から出されて、赤面させた顔を両手でソフィから隠し始める。


「逆に私が貴方の事をヒノエ様に尋ねると、顔を綻ばせながら、ふにゃふにゃと何を申されているのか全く要領を得ない言葉で貴方を褒め始めたり、嫌という程に惚気られ続けました。こんなヒノエ様は長らく共に組を支えてきた私ですら見た事がない程でしたね……。それでこれはマズイと判断した私は、実際に貴方の正体を暴こうと総長達に無理を言って、今回連れて来てもらったのですが、実際に貴方と話せると思ったら色々と感情が溢れてきて、あのように詰問してしまい、そして今こうなっています……」


 どうやらヒナギクは、尊敬の感情を超える程に慕っていたヒノエが、これまで彼女ですら見た事がない姿を現した事で、ソフィに騙されてしまっているのだと思い込んでしまい、感情が昂ってしまっていたという事なのだろう。


 だが、こうして自らが内容を言語化してソフィ達に説明を行った事で、徐々に冷静さを取り戻したのかヒナギクは、自分が如何に失礼な事をしていたのか、そしてヒノエに対しても信頼を欠くような出過ぎた真似をしてしまったのかと、殴られても仕方のない事をしてしまったと後悔し始めているようだった。


「成程……。つまりお主はヒノエ殿を心配するあまり、我がヒノエ殿によからぬ事を企んでいると思い込んで、我をヒノエ殿から遠ざけようとしたわけか」


「は、はい……」


「て、手前は本当に馬鹿な奴だな! ソフィ殿が私を騙そうとするわけがねぇだろう! そ、それによ、勝手に私がソフィ殿に、ほ、惚れちまって告白までしちまっただけだよ! 手前だって惚れた男に好かれたいと思った事くらいはあるだろうっ!?」


「いえ、全くありませんね。私はヒノエお姉さまだけを愛しております故、男に恋をした経験はありませぬ」


 ヒノエはヒナギクから思ってもいなかった言葉を聞かされて、少しだけ驚いた様子であった。


 ……

 ……

 ……

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