1961.決戦当日
そして遂に妖狐族の長である王琳との決戦当日を迎えた。
魔神と今日の事について話を行っていたソフィだったが、部屋の扉を叩くノックの音にそちらを振り向いた。
「入ってよいぞ」
ソフィの返事に扉が開かれると、そこには見慣れた妖狐が顔を見せたのだった。
「ソフィさん、おはようございます! もうすぐ我が主と戦う戦場を案内しますので、ご準備をお願いします!」
「おお、知らせてくれて感謝するぞ、六阿狐殿。こちらはもういつでも構わぬよ」
「そうでしたか! では、このまま私がご案内させて頂きますね!」
姿を見せた六尾の『六阿狐』に準備を終えている事を伝えると、彼女は満面の笑みを浮かべながらそう告げるのだった。
「うむ、よろしく頼む」
「はい!」
ソフィが部屋を出るなり、直ぐに六阿狐はそのソフィの腕を手に取って、上機嫌に『中央堂の間』を目指して歩き始めるのだった。
やがて六阿狐の案内で『中央堂の間』に辿り着くと、すでに部屋の中には三日前に別れた『シゲン』や『ミスズ』を初めとした妖魔退魔師の最高幹部達が勢揃いしていた。
どうやら王琳の命令によって彼の眷属の妖狐達が山の麓に赴き、先の取り決め通りにシゲン達を迎えて来てくれたのだろう。
ヒノエはソフィの顔を見るなり、顔を赤らめながら手を振ってくれた。ソフィはそんなヒノエに手を振り返したが、そのヒノエの隣には、三日前にはこの場に居なかった見慣れぬ若い女剣士が立っており、ヒノエとソフィのやり取りを見て何処か不満そうな表情を浮かべてソフィを見ていた。
そしてその若い女剣士が意を決して、ソフィに話し掛けようとしたその時だった。
「あー! 何で六阿狐がここまでソフィさんを案内しているのよ! 私がソフィさんを呼びに行くって約束だったでしょ!?」
ヒノエの隣に立つ女剣士が口を開こうとした瞬間、五尾の『五立楡』がソフィの腕に頬ずりしながらこの部屋に入ってきた六阿狐に、大声で怒鳴り声を上げるのだった。
「もうソフィさんは準備を整え終えていらっしゃったのよ。だから私が案内しただけよ。それとも五立楡は自分がソフィを案内したいからって理由だけで、ソフィさんをずっと待たせても良かったと言うのかしら?」
「ぐっ……! そ、そんな事は言ってないけど、でも、私がソフィさんを案内するって約束だったのに……!」
どうやらソフィの案内を自分が行う予定だったところを直前になって、六阿狐がソフィの様子を見てくるという体で勝手に案内された事に不満を抱いたらしい。
やがて悔しさから涙を目に溜め始めた五立楡を見た六阿狐は、勝ち誇っていた表情から心配するような表情へと変えていった。
「ちょ、泣く事はないじゃない……。わ、分かったわよ、次の機会があれば五立楡に譲るからさ……」
「元々私の番だったのに、それだけじゃ足りないわよ!」
「わ、分かったって、もう……! 五立楡がやる予定だった山の監視を代わってあげる。それに五立楡はこの後の例の場所までのソフィさんの案内を譲ってあげるわよ!」
どうやらこれからソフィ達が向かう戦場は、こことは別の隔絶された空間内であったらしく、王琳の眷属同士であっても全員がそちらに向かうのではなく、妖魔山の中の監視及び、何かあった時の対処を行う者と別れて警備を行う予定のようであった。
「えっ、本当! いいの!?」
この様子を見るに五立楡には、山の監視を行う役割が与えられていたのだろう。それを代わってくれると六阿狐に言われた為に悲しそうな表情を一変させて、非常に嬉しそうにしながら、その場でぴょんぴょんと飛んで喜びを全身で表現するのだった。
そこに王琳と七耶咫、そして耶王美が中央堂の間に現れるのだった。
「この大事な日に、貴方達は何を騒がしくしているのですか!」
「ひっ……!?」
「「す、すみませんっ……!」」
五立楡と六阿狐は同時に全身を震え上がらせた後、七耶咫の怒号に背筋を伸ばして謝るのだった。
七耶咫が五立楡たちを叱りつけている横では、耶王美がソフィの元に居るエヴィに笑顔を向けて手を振っていた。
そしてエヴィも耶王美に手を振り返しているのを見て、ソフィと王琳は同時にその光景を微笑ましそうに見届ける。
やがて二人の様子を見ていた王琳は、同様にエヴィ達を眺めていたソフィに声を掛けてくるのだった。
「ようソフィ、調子はどうだ?」
「うむ。お主の用意してくれた部屋は非常に過ごしやすかったぞ。おかげで今日は万全な体調で臨む事が出来そうだ」
「ふふっ、それは重畳。俺にとって今日は何よりも特別な日だ。お前には万全であってもらわなくては困るからな」
ソフィはその王琳の言葉を聞いて、自分だけではなくこれから戦う相手である王琳も同じ気持ちを抱いてくれていたのだと気づき破顔するのだった。
「クックック、お主にも伝わっておるか? 今の我は自分の逸る気持ちを抑えるのに精一杯だ」
「それは俺もだ……。今俺の配下共が最後の準備を整える為に山の警備を行っている。もうしばらくここで待ってもらう事になるが構わぬか?」
「うむ、構わぬ」
「悪いな。今日だけは邪魔が入らぬように、山の管理の方も万全を期す必要があるからな。もうしばらくここで寛いでいてくれ。連絡が入り次第、直ぐに移動を開始するからな」
王琳はそう告げると、会合の時に座っていた場所に七耶咫を連れ立って歩いて行った。
その王琳の後ろ姿を見届けながらソフィは、静かに独り言ちる。
「今日我は本当の自分の『力』に気づけるのかもしれぬな……」
その言葉は誰に聞かせるつもりでもなかったが、当然魔族である『ヌー』と『エヴィ』の両者の耳に届き、同時にソフィの方を見た。
そしてそんなソフィの傍に立っていた『魔神』は、覚悟を決めた目でこの後の闘争に思いを馳せるのだった。
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