1956.シギンの提案と、それに乗る大魔王
「我々妖魔召士組織が代々管理してきた『転置宝玉』だが、元々は刻印が刻まれぬままの未使用の状態で管理されてきていたのだ。しかし何時の時代からなのかまでは分からぬが、私が管理する時にはすでに未使用の状態と、この『リラリオ』の世界に向かうように設定された『転置宝玉』の二種類が用意されていた」
どうやらシギンが今回ソフィ達を集めた理由とは、この刻印が刻まれた『転置宝玉』の事を話す為だったのだろう。先程までとは少し異なる真剣さをシギンは表情に浮かべていた。
「お主らがこの世界の住人ではなく、別世界から『ノックス』の世界にやってきたという事を聞き、今回この『転置宝玉』に刻まれた世界に心当たりがあるようであれば、可能であればこの世界に私を運んで貰えないかと頼もうとしたのだ」
シギンがこの刻印が刻まれた『転置宝玉』を使えば『リラリオ』の世界へ向かう事は出来るようになるが、今度は『リラリオ』の世界から『ノックス』の世界へ戻る方法がない為、無事に帰還する為にソフィ達に転移を頼もうとしたのであった。
「なるほどな。だがソフィは『概念跳躍』を使えねぇから、別世界へ行きたいなら結局俺に頼むしかなかったわけだな。しかし悪いがよ、俺はこいつの最後の戦いを見届けた後は『アレルバレル』の世界へ戻るつもりだ。それがこいつとの契約だったんでな。そして俺は今後『リラリオ』の世界へは二度と行くつもりはない。だから観光気分や物見遊山で別世界へ向かいてぇだけなら諦めるんだな」
話は終わりだとばかりにヌーが立ち上がろうとしたが、そこで待ったをかけるかの如くシギンが口を開いた。
「決してそのような理由で向かおうと考えたわけではない。この『リラリオ』の世界には先に『転置宝玉』を用いて転移を行った筈の『サイヨウ』と、その『サイヨウ』が『式』にしたであろう『真鵺』が居る筈なのだ。私は詳しい事情を『サイヨウ』から聞かねばならん。今となっては『鵺』という種族を決して見過ごす事が出来ぬ厄介な種族と私は認識している」
煌阿と斗慧の二体の『鵺』に苦渋を舐めさせられたシギンは、その両者よりも更に『魔』の概念理解度が高く、非常に危険な存在である『真鵺』を『式』にしてしまった愛弟子のサイヨウに、詳しい事情を聞こうと考えた様子であった。
「だったら勝手に『転置宝玉』でも何でも使って会いに行けばいいだろう? 俺がてめぇに協力するメリットはこれっぽっちもねぇし、そもそも行く手立てがあるんなら、後先考えずに行ってから考えればいいだけだろうが。最初から無事に戻ってこれる事を前提に考えて、剰え自分本位で他者を頼ろうなんざ甘い考えと覚悟で別世界へ向かおうとするんじゃねぇよ」
「確かにお主の言う通り、これは虫が良すぎる話だったな……、すまぬ」
普段のヌーも他者に厳しい性格をしているが、今回は隣で聞いていて特に厳しく感じられたソフィであった。
「だが、それでも少しだけ転移を考えてくれぬだろうか? もちろん無償でというつもりはない。お主にも納得出来る話があるのだが」
「ほう? それは俺が聞いて満足が出来るような話なんだろうな?」
あれほど厳しい言葉を用いて否定をして見せたヌーだったというのに、直ぐに条件を話し出したシギンに耳を傾けたところを見ると、元々ヌーはシギンの頼みを断るつもりではなく、あくまで一度断ってみせておいて、その上で好条件となる話を引っ張り出そうと駆け引きを行ったようであった。
「それは間違いないと約束しよう。お主がここに来た時、会合を行う部屋に行くまでの廊下で私に質問を行った時の事は覚えているな?」
「あ? ああ……」
ヌーはちらりとソフィの方を一瞥しながら頷いた。
その時のヌーからシギンに行った質問とは、シギンに対して『ソフィに勝てると思うか?』とヌーが尋ねた時の事を言っているのであった。
「もしこの世界へ無事に戻ってこられるように協力してくれるというのであれば、私もお前が成し遂げたいと考えているであろう『事』に対して協力をしてやろうと思うがどうだ?」
「な、何……!?」
シギンが直接的に言わずに遠回しに言葉を選んで言う理由とは、ヌーが聞かれたくないであろう張本人がこの場に居るからであった。
ヌーがソフィに聞かれたくないだろうなという事は、彼が先日シギンに尋ねた時に『結界』を用いた上で、小声で話をしていた事からも十分に理解に及ぶ。
そしてこう言えば彼は間違いなく乗ってくるであろうと、まさに確信すら抱いているシギンであった。
当然彼の思惑通り、ヌーから返ってきた言葉とは――。
「いいだろう、その条件を認めてやる。貴様以外の奴が言っても断っていたが、てめぇだけは別だ。その代わり俺が納得するまで協力しやがれ。それがこの世界に転移させてやる条件だぞ」
「約束しよう」
そう言って互いに頷き合うのだった。
ソフィやこの場に居る他の者達は、何が何だか分からなかったが、当人同士が納得したのであれば、それでいいかと無理やりに納得している様子であった。
※シギンの提案は、ヌーにとって垂涎ものであったようです。
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