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1972/2213

1955.イダラマは心の中でソフィに感謝する

「話が逸れてしまったが、今回集まってもらったのはこの『転置宝玉』の事なのだ」


 そう口にしながらシギンは、自分自身が持っていた『転置宝玉』をソフィ達に見せてくれた。


「これは元々私が持っていたものだが、この『転置宝玉』に向かう場所を脳内で描きながら『魔力』を込めると、その場所へ転移する事が可能というマジックアイテムなのだが、それを踏まえた上で今度はこちらを見て欲しい」


 そう言って取り出した『転置宝玉』には、先程とは異なり何やら文字が刻まれていた。


「こちらはイダラマがゲンロクの里から持ち出した方の『転置宝玉』でな。刻印が刻まれているのが見えるだろう? つまりこれは歴代の妖魔召士の長の誰かか、もしくはその関係者がこの刻まれた文字の名が示す場所を思い描いた後のモノなのだ」


 その『転置宝玉』には確かに文字が刻まれているのだが、何が描かれているのかソフィ達が見ても分からなかった。


「ふむ……。何と刻まれているのかは分からぬが、その『転置宝玉』に『魔力』を込めると、我達はその場所へ向かう事が出来るというわけだな?」


「その通りだ。この『転置宝玉』の描かれた文字を読む為には、相応の『魔力』が必要となるが、それ程大きな『魔力』が必要というわけではない。少しだけ『魔力』を使ってみてくれ。そうすれば文字が読めるようになるはずだ」


 シギンに言われた通り、この場に居る者達全員が『魔力』を伴いながら、改めて『転置宝玉』に描かれている刻印を見つめる。


 すると先程まで解読が出来なかった『転置宝玉』の刻印の文字が読めるようになるのだった。どうやら『魔力』を用いれば文字が翻訳される仕組みなのだろう。そしてその『魔力』を用いた者の出身の世界の文字に自動的に翻訳が行われるようであった。


 そしてその『転置宝玉』の刻印にはこう記してあった。


 ――『リラリオ』。


「なっ!?」


「何だと……?」


 その世界の事を知っているソフィとヌーは、同時に驚きの声を上げるのだった。


「ねぇ……? さっきこの『転置宝玉』はイダラマが持っていたものって言っていたよね? って事は本来はこの僕がイダラマから譲り受けるモノだったって事?」


 未だにソフィとヌーが驚いた様子で『転置宝玉』を見ていたが、大魔王エヴィだけは単に驚くのではなく、刻まれたその刻印の文字を見た後にイダラマを睨みつけながら口を開くのだった。


「ま、待て、麒麟児よ! は、話を――!」


「君はこのマジックアイテムを僕に盗ませる時、僕を元の世界へ……、ソフィ様の居る世界へ向かう事が出来るって言っていたよね? でもここに書いてある『リラリオ』って世界は僕の知らない世界だ。それって最初から僕を騙すつもりだったって事?」


 エヴィはそう言って殺意を孕んだ視線をイダラマに向ける。


 ――彼がこんな視線をイダラマに向けたのは、この世界に来て初めての事であった。


 脂汗を額に浮かべているイダラマの様子を見るに、どうやら本当に図星だったようである。


「失望したよ、イダラマ。僕は耶王美に出会うまでこの世界で君を一番に信頼していたし、それなりに気に入っていたんだ。だからあの山で君だけは殺さずにおこうと考えていたし、山の頂では君を助けようとまでした。それなのに君は最初から僕を騙すつもりだったんだね。許せないや、もうお前を殺すね?」


 そう言ってエヴィは、イダラマに弁解させる前に『金色』を纏い始めるのだった。


「少し待つのだ、エヴィよ」


 大魔王エヴィがイダラマに対して処刑を行う準備を整え始めた時、彼の主であるソフィから静止の声が入るのであった。


 まさに鶴の一声と呼ぶに相応しく、ソフィのたった一言であれだけ怒りに満ちた目をしていたエヴィは、そのオーラを完全に消した上で、戸惑った様子を見せながら自分の主に視線を送るのだった。


「この『リラリオ』という世界は、確かに我が居た世界なのだ」


「そ、それは真の事なのですか、ソフィ様!?」


「うむ。もちろん大賢者ミラの策略のせいだろうが、勇者マリスたちに使われた『転置宝玉』で我は、その刻印に刻まれている『リラリオ』の世界に跳躍()ばされたのだ」


「で、では、イダラマが僕に渡そうとしていた『転置宝玉』を使っていたら、僕は間違いなくソフィ様の居た世界に辿り着けていたという事なのですね……」


「そこに描かれている『リラリオ』が我の居た世界の事であれば、間違いなく我が居る世界へ送られていたであろうな」


 ソフィにそう言われたエヴィは、再びイダラマの顔を申し訳なさそうに見るのだった。


「う、疑ってごめんよ、イダラマ……! でもでも君も悪いよ! あんなに焦った素振りを見せられたら流石の僕でも疑っちゃうよ!」


「い、いや……、えっと、気にしないでくれ、麒麟児! 私も目を覚ましたばかりで少し調子が悪くてな……!」


 実はイダラマは先程のエヴィの言う通り、彼に『転置宝玉』を使わせた後は、もう二度と会う事はないだろうと考えて騙すつもりであった。


 単にこの『転置宝玉』の刻印が示す場所と、ソフィがミラの陰謀で跳躍()ばされていた世界が偶然同じなだけであった為、慌てた様子でそう弁解するのだった。


 そんなイダラマの言い訳は、他の者達には直ぐに嘘だと見抜かれたが、肝心のエヴィは直ぐにその言い訳を信じたのであった。どうやら彼が素直に信じた理由は、自分の主であるソフィが直接説明を果たした事が大きかったのだろう。


 大魔王エヴィにとって大魔王ソフィは、まさに『神』のような存在であり、そんな彼の崇拝する『神』が、この世界に自分は居たのだと告げた以上は、言葉以上に信仰のフィルターがかかって信じてしまったというわけであった。


(た、助かった……。流石の私も()()()()()()()()()()()()()()()。ソフィ殿の事はよく存ぜぬが、助けられたことは確かだ。今は礼を言わせてもらうぞ!)


 イダラマはエヴィの殺意を止めてくれたソフィに、心の中で感謝の言葉を口にするのだった。

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