1951.目を覚ますイダラマ
「――ここは、何処だ……? 一体何があった……」
会合を終えた後に中央堂の間から個室へと移されていたイダラマは、魔力枯渇を引き起こして死の一歩手前であったが、長い眠りの末にようやく意識を戻せるまでに回復が出来たようである。
「ようやく目を覚ましたか。命に別状がない事は私も触診して分かっていた事だが、並の最上位妖魔召士程度の魔力値であれば、死んでいてもおかしくなかったぞ」
「な、何故、あなたが……!?」
まだ完全に覚醒出来ていなかったイダラマだが、彼に声を掛けたシギンの顔を見て直ぐに身体を起こすと、信じられないとばかりにそう告げるのだった。
「め、目覚められましたかっ! イダラマ様、よ、良かった!!」
「良かった……! よ、よくぞご無事で!」
そしてイダラマが身体を起こすと同時、シギンと同様に移されたこの部屋でイダラマの看病を行っていたウガマや彼の護衛の退魔士達も喜んで声を掛けたのだった。
「お、お前達、無事であったか! い、いやそれよりもだ、一体何があったというのだ? ここは何処で、な、何故シギン様が生きて、お前達と共に居るというのだ……!?」
流石に普段は冷静沈着を絵に描いたようなイダラマであったが、流石に想像が出来ない光景の連続に、狼狽する様子を見せざるを得なかったようである。
…………
「そ、そのような事が……!」
ウガマ達やシギンのここまであった経緯等々を説明をされた事で、ようやくイダラマは現状の理解が出来た様子であった。
「すまなかったな、お前の大切な仲間を悟獄丸の手から救い出す事までは叶わなかった」
そのシギンの言葉によって、この場にアコウが居ない理由を理解するイダラマであった。
「いえ、シギン様が謝られる事ではありません。そもそも全ては私の計策の甘さが招いたのが原因。妖魔神を私程度が従えよう等とは、あまりにも無謀過ぎたようです。妖魔神共の『魔』の概念理解度や、魔力の高さを含めて全てが私の想定していたモノを遥かに上回っていた……。まさか完璧だと思えた私の『魔利薄過』でさえ、あんな始末では……。本当にお主らや私の為に死んだアコウには何も詫びる事は出来ぬ……」
今は長い髪の毛も縛っておらず、またやつれたその表情からは、イダラマがまるで亡霊のように見えてしまうのであった。
「わ、詫びる必要などありません! 俺達は貴方に付き従ってきた事に何の後悔もありませんでした! むしろ貴方のおかげで俺達は、一度は諦めた夢の代わりを見る事が出来たんです! アコウの奴も絶対に俺と同じ気持ちだった筈です! だ、だから奴は最期に俺にイダラマ様を頼むと託したんです……!!」
ウガマはアコウの事を口にした事で色々と思い出したのだろう。最後の方は涙を浮かべながら必死に訴えかけるように告げたのだった。
そして他の護衛の退魔士達も一様に涙を浮かべて頷いていた。
「本当に良き者たちに慕われておるようだ……。お前も一人前になった証拠だな」
「し、シギン様……。はい、こやつらは、本当にこんな私には勿体のない者達です……」
「「イダラマ様……!!」」
イダラマのその言葉に、感極まるウガマ達であった。
「ひとまずお前は起きたばかりだ。仲間たちとの話もそこそこにしてもう少しゆっくりと休むがいい。だが、もう少し後にお前の元にゲンロクやエイジ達が此度の事で話をしに来るだろう。その時はしっかりとあいつらの言う通りにしろ。それが今後のお前の為だ」
「はい、それは勿論です。もう妖魔に怯える理由もなくなったんでしょう? だったら、もう私は……」
「イダラマよ、さっきも言ったがしっかりとゲンロク達の話に耳を傾けて、あやつらの言う通りにするんだ。決して自分だけで結論を急ぐな。お前とて、人間達の事を思って行動を起こしたのだろう? やり方が正しかったとは言えないが、それでもお前なりの正義があっての行動だった筈だ。それを私は否定するつもりはない。むしろお前に『力』があるが故に、選択肢が人よりも多かっただけの話なのだ。いいな? 絶対にゲンロク達に会ってしっかりと話をしろ。これはお前が属した妖魔召士組織の長からのお前だけに告げる言葉だ。私の事を少しでも尊敬していてくれたというのであれば、せめて私の最後の言葉だと思って受け止めておいてくれ」
「シギン様……」
「立派になったな、イダラマよ。お主の『透過』……、魔利薄過という『魔』の技法は、相手が相当に『魔力干渉』領域に秀でた者でもなければ非常に効果的な『魔』の技法だ。全てが片付いた後、私がその先にある知識を授けてやる。お前はまだまだ伸びしろがあるからな」
「し、シギン様……!」
イダラマは先程と同様にかつての組織の長の名を呼んだが、その意味合いは大きく異なるのであった。
「その先を楽しみに今はゆっくり休むといい。ではな」
そう言い残してシギンは、イダラマの居る部屋から出ていくのであった。
そのシギンの出ていく後ろ姿に、イダラマだけではなく、ウガマ達も主と同様に頭を下げるのであった。
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