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1949.恋慕

 ヒノエの返事を聞いた副総長のミスズは、出来る限り音を立てないように気をつけながら、そっと部屋の中へと入ってくる。


「夜分遅くに申し訳ありません。少しヒノエ組長に確かめておきたい事がありまして参りました」


「構いませんよ。ま、座ってください」


 そう言ってヒノエはさっきまで横になっていた布団をぱぱっと畳んだ後、部屋の端にどけて座布団を二つ用意するのだった。


「休んでいるところにすみません、ありがとうございます」


「へへっ、気にしないで下さい。実際、横になっていただけでまだ寝てませんでしたしね」


「それはソフィ殿の事を考えておられたからでしょうか?」


「!?」


 ミスズはさっきヒノエが部屋の端へと寄せた布団の方を一瞥した後、ヒノエの方を向いてそう質問を行うのだった。


 互いに視線を交わらせた後、少し経ってから再びミスズが口を開いた。


「勘違いなさらないで欲しいのですが、ここへは総長に言われて来たのではなく、私個人がヒノエ組長の事が気に掛かり、参らせて頂きました」


 シゲン総長の顔がヒノエの頭に過った瞬間、まるでヒノエの感情を正しく読み取ったかの如く、まさに先手を打つようにそう口にするのだった。


「いや、参ったな……。ええ、確かにここへ来てからはずっと、()()()殿()()()を考えていました」


 ここで下手に隠し事をしたところでこの恐ろしい洞察力を持つ副総長だけは、絶対に誤魔化しきれないと判断したヒノエは、白状するように本当の事を口にする。


「あれは流石に驚きましたよ……。どうやら()()()()()()()というわけではなく、よく考えた上で本音を口にされたのですね」


「ええ、それは間違いないです。私はソフィ殿の事を非常に気に入っていますよ、本気で手放したくないと考える程にね」


 再び互いの視線が交差する。どちらも真剣な表情そのものであり、ぴりぴりとした緊張感が部屋を包み込み始める。


「貴方は多くの組員を束ねる妖魔退魔師組織の『一組』の組長です。その事を理解した上での発言ですか?」


 ミスズは妖魔退魔師組織の副総長として、目の前の妖魔退魔師組長ヒノエを試すようにそう口にする。


「……」


 普段であれば即答するところをヒノエは、悩むように眉をひそめて口ごもるのだった。


 これにはミスズは本当に驚いた様子で目を丸くするのだった。何故ならミスズはヒノエという人間が、如何に組織の事を考えていて、更に言えば総長であるシゲンに、どれ程に恩義を感じているかという事をよく知っているからであった。 


 そしてミスズが驚きながら黙っていると、ようやくヒノエは口を開き始める。


「正直、私とソフィ殿では()()()()()()()()()()ってのは私も理解してるんですよ。私には私の住む世界、ソフィ殿にはソフィ殿の住む世界がある。私自身今日だけで何度その事を考えたか分かりません。何度も住む世界が違うと自分に言い聞かせちゃいるんですがね、結局ソフィ殿を諦めきれずにまた振り出しに戻っちまうんです。別に私がどんだけ悩もうとソフィ殿に断られたらそれまでだっていうのに、もしかしたらって一度希望を抱いちまうと、何もかもをかなぐり捨ててでもソフィ殿のところへ行きたい、あの人と共に歩いて行きたいって考えが過っちまうんですよ……」


「そ、それはシゲン総長よりもソフィ殿を優先しているという事ですか? ま、まさか他でもない貴方が……?」


 本音を言えばここに来るまでミスズは、如何にヒノエがソフィの事を好いているのだとしても、組織やシゲン総長の事を優先するだろうと思っていた。


 しかしそれでも彼女もまた何かを感じたからこそ、こうしてわざわざ部屋まで確かめに来たのであった。そしてどうやらその感じた事は正しかったようで、もしかするとヒノエが本気でこのまま組織を抜けてしまうのではないかという気持ちを抱いてしまい、彼女は内心で心底焦ってしまっている状況であった。


「副総長、どうやら私は本当にソフィ殿に惚れ込んじまったようなんです。こんな気持ちはこれまで抱いた事がなかった。あの声で私の名を呼んだり、微笑みかけられたらどうしようもなくなっちまう。ソフィ殿と一緒に居ると他がどうでもよくなっちまうんですよ……!」


「え、えっと……!」


 顔を真っ赤にして両手で顔を覆い隠しながらソフィへの恋慕を口にするヒノエを見て、どうやらミスズも当てられた様子で頬を朱色に染めるのだった。


「えっと、あ、あの……、そ、そこまで何です……か?」


「……」


 顔を覆いながらもヒノエは必死に肯定するように、何度も首を縦に振るのだった。


 他でもないヒノエという組織に多大なる貢献をしてきた組長が、その全てを投げ打っても構わないとばかりにソフィに対する心情を告白する様を見て、ここまで情熱的な経験をした事がないミスズは、いつものようには冷静に対処する事が適わなくなってしまうのだった。

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