1947.再確認する互いの絆
ソフィが決意を新たに三日後の試合に意識を向けていた頃、別部屋に案内されて先に部屋で寛いでいた大魔王ヌーは、自身の相棒と言える神格持ちのテアと今後について話を進めていた。
「ソフィの野郎が三日後の戦いを終えた後、直ぐに俺達は元の世界に帰るつもりだ」
「――」(ああ、いつもお前が言っていたからもう知ってるよ?)
「そうだな……。それでよ、ここからが本題なんだが……」
今更分かっている事をあえて確かめるように口にしたヌーだが、どうやらこれから話す内容の為の前置きだったようだ。そしてそれはとても話しづらかったようで彼は、テアの顔色を窺うように見つめるのだった。
「――」(お前がそんな難しそうな顔をしている時は、だいたい私の事を慮っている時だよな。私達は共に前を向いて歩いていこうと誓い合った盟友だ。今更何を言われたって動じないし、お前の事を信用してる。言いたい事があるならハッキリ話をしてみろよ?)
「盟友……か。ああ、そうだなテアよ……」
普段であればここまで悩む素振りを見せないヌーが、テアに言われて尚、まだ話す事を渋っている様子を見せるのであった。
「――」(はぁっ……。そこまで話すのを躊躇う理由は、ソフィさんとの会話でお前が言っていた『契約』に関する事なんだろう?)
「!」
どうやらテアもある程度は察しているようで、言い出しにくそうにしているヌーに助け舟を出すようにそう告げるのだった。
「ちっ! ああ、そうだ。俺は前にお前と『ダール』の世界で戦った事があっただろう? あの後に俺はソフィ達に捕まっちまってな。本来ならまだ俺は奴の魔王城の地下深くの牢の中だったんだが、ソフィは別世界へと放り出された自分の仲間共を助ける為、この世界の座標を知っていた俺に同行するように告げやがったんだ」
「――」(それでお前はソフィさんと行動を共にしていたんだな。最初の頃は今みたいにソフィさんと仲良さそうじゃなかったから、何で一緒に居るんだろうって思ってたんだが、成程な……)
「別に今も最初の頃とそんな変わっちゃいねぇよ。まぁ、気に入らねぇ野郎だが、今は殺してやろうとまでは思わなくなったし、そもそもあの野郎とやり合うにはまだまだ時期尚早だしな。それに基本的に奴の一本筋の通った性格っつか、確固たる信念は嫌いじゃねぇ。仲間を助ける為にここまで普通は出来ねぇよ。へへっ、エヴィの野郎があの野郎に恩を返そうと必死になる気持ちも少しは分かるぜ……っ、じゃなくてよ!」
(いやいや、コイツ本当はソフィさんの事好きになっちまってるだろ。でも今までの事があって中々素直になれねぇんだろうなあ……)
ヌーが笑ってソフィの事を話し出したのを見て、これまでこの世界で誰よりもヌーの事を観察してきたテアは、その彼の感情の変化に目聡く気づくのだった。
「話を戻すがよ? エヴィの野郎を無事に見つけて元の世界に戻るまでがソフィとの契約なんだが、話はそこで終わらねぇんだ……」
「――」(なるほどな……。ソフィさんと『契約』の事を話していた時に、お前はそんな表情は見せなかった。つまりここからが本題ってわけか)
「元の世界に戻ってソフィとの『契約』を終えた後、今度はお前の『死神界』の主と契約を交わしていやがる大魔王と殺し合うんだよ」
「!」
流石に直属の主君である『死神皇』絡みだとまでは気づかなかったテアは、ヌーがこれまで言い辛そうにしていた理由をようやく知るのであった。
「大魔王フルーフは間違いなく、俺との戦闘で再び奴を出すだろう。そもそも奴と俺ではもう力の差は歴然だ。だが、それでも奴を見下す事が出来ない理由は、お前と同じ『死神』が居ると分かっているからだ」
単なる死神が相手であれば、確かに今のヌーの敵ではない。そもそもそんな死神達は『呪文』でヌーは使役が出来る契約も結んでいる。
しかし大魔王フルーフの使役する死神とは、そのような単なる死神達ではなく、死神界の王たる『死神皇』なのである。
つまり大魔王フルーフの使役する『死神皇』と相対するというのであれば、死神貴族を含めた全死神を相手にするという事である。
――当然、直接ヌーと契約を交わしている『テア』は、フルーフが使役する『死神皇』が更に使役する『死神』達の枠組みには当てはまらない。何事も契約が優先されるが故にそこは問題ではない。ないのだが、ヌーがフルーフと戦う以上は、ヌーと契約を交わしているテアが共に戦う事は当然の事であり、詰まるところそれは『死神皇』と『死神貴族』が直接敵対するという事に繋がってしまうのである。
「分かってる。てめぇをフルーフとの戦闘で使役するつもりはねぇ。俺だけでフルーフの奴も奴の使役する『死神』共も纏めて相手をするつもりだ。だが、契約を解除しちまえば、お前とも戦わなくてはならなくなる。それだけは避けてぇからよ、悪いが契約だけはそのままにさせてもらいてぇんだ……」
これがまだノックスの世界に現れた直後の契約の関係性のままであったのならば、このヌーの言葉でテアも黙って従えただろう。しかし、つい先ほどテアはヌーの事を盟友と呼んで共に歩いていこうと口にしたばかりなのである。
「――」(待てよ、あんまり私を舐めるなよ!)
「!?」
今のテアのヌーに向ける目は、かつてダールの世界で彼自身に向けてきた『殺意』に近しいものであり、その久方ぶりの自分に向ける相棒の目を見たヌーは、目を見開いて声を失うのだった。
「――」(私に同じ死神や、死神皇様と戦わせたくないから戦闘で使役するつもりはない? そうじゃないだろう! お前は何も分かっちゃいない! この私はお前と並び立って共に歩むと決めたと言っただろうが! そう決意をした時点で相手が同じ死神だろうが、死神皇様だろうが関係ない! お前が死神皇様と契約を交わした大魔王と戦うというのであれば、この私はお前を勝たせるために全力で戦ってやる!!)
そのテアの怒号に近い啖呵を聞いたヌーは、全身に震えが走るのだった。
「――」(だから、私を慮るんじゃなくて、そこは頼ってくれよ……?)
ヌーは震える手で拳を握りしめると、思いきり唇を噛んでみせた。
「本当にお前は頼りになる女だよ……」
そう言ってヌーは大きく溜息を吐いた後、再び正面から自分を睨みつけているテアを見据えるのだった。
「俺と一緒に戦ってくれ、お前の力が必要だ」
そして大魔王ヌーは、自分と契約をしている死神貴族に向けて、改めてそう告げたのだった。
「――」(任せろよ、親愛なる大魔王。この私が必ずお前を勝たせてやる!)
そう言ってテアは拳を作った右手をヌーの前に差し出すと、ヌーも嬉しそうな笑みを浮かべながら、自分の拳をそのテアの拳にぶつけたのだった。
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