1946.高まる大魔王ソフィの戦闘意欲
会合が終わった後にソフィ達は、王琳の別荘と呼べる隔絶された空間にある屋敷の中で、それぞれが個室を与えられた。
そして今ソフィは王琳の眷属の妖狐にして、六尾の『六阿狐』に部屋を案内してもらっていた。
すでにヌー達は先に別の妖狐に案内されていて、最後に案内されたのがソフィであった。
何故彼が最後に案内されたかと言えば、五尾の『五立楡』と隣でソフィと手を繋げて上機嫌の様子で歩く六尾の『六阿狐』が、最後までどちらがソフィを案内するかで争っていた為である。
どうやらソフィは相当に五立楡と六阿狐に気に入られている様子であり、何も事情を知らない他の妖狐がソフィを部屋に案内しようとすると、この二体の妖狐が凄い剣幕で同胞達を睨みつけて、妖狐達を遠ざけてしまう程であった。
結局言い争いの末、七耶咫に早く決めろと叱られて仕方なく公平に運で決めようという話になり、ジャンケンで六阿狐が勝利したというわけである。
会合が行われた『中央堂の間』からここまで、六阿狐に言われて手を繋いで歩いていたソフィだが、単に手を繋ぐだけではなく、その繋がれたソフィの腕に六阿狐は頬ずりをしたり、指を絡ませて恋人つなぎをしたりとやりたい放題であった。
ソフィは何故ここまで六阿狐に気に入られたのかが分からず、かといってあれだけ熱心にどちらがソフィを案内するかで取り合っていた彼女が、死闘(?)の末に勝ち取った権利であろうこの時間に対して、ソフィがやめてくれと言うのも憚られてしまい、仕方なくされるがままになっていた。
やがて長い廊下の一番奥まった部屋まで案内されたソフィは、ようやく六阿狐から解放されたのであった。
「ここまで案内してくれて感謝するぞ。六阿狐殿」
「いえいえ! 何かあればいつでも仰って下さい! 部屋の前をずっと監視……じゃなかった、えっと、こちら側の廊下の警備担当を私が任されていますので、何かあればいつでもお呼び下さい!」
そんな話をいつしたのだろうかと、ずっと同じ会合の場に居たソフィは訝しんだが、まぁ元々そういう取り決めだったのかもしれないと思い直して素直に頷くのだった。
来た道を去って行く六阿狐の後ろ姿を見送った後、ソフィは宛がわれた部屋の扉を開ける。中はエイジが居たケイノトの長屋のような畳張りの部屋であったが、広さは比べ物にならない程にこの部屋の方が広かった。
「さて……」
ソフィは部屋に入るなり、直ぐに魔神を呼ぶ為の詠唱を行い始める。
三日後に王琳との戦闘を行う事を伝える為と、それに伴う『結界』を頼もうとしたのであった。
やがて詠唱を終えると、直ぐ様『力の魔神』がその姿を顕現させるのであった。
「――」(ソフィ、呼んでくれるのを待っていたわよ!)
「うむ、何度もすまぬな。この世界に来てからお主には頼りっぱなしで申し訳なく思っているぞ」
「――」(いつも言っているけど、遠慮せずにいつでも呼んで頂戴? なんなら毎日でもいいと私は考えているから)
「う、うむ」
本来、魔神という存在が下界に訪れる時というのは、世界の危機に瀕した時に『執行者』として天上界から派遣される時が通例であり、こんな風に話をする為だけに現れるという事は有り得ない事なのだが、あらゆる意味でソフィの場合はその通例から外れていると言わざるを得なかった(※そもそも魔神と契約をしている点からすでに常識外れなのだが)。
「だが、今回お主を呼んだのは、この世界の為を思えば非常に大事な事だからだ」
ソフィがそう返事をするなり、魔神の表情が真剣さを帯びていく。
「――」(それは……。遂にあの超越者と戦う決断をしたのね?)
「そういう事だ。一応あやつはこの場所のような『空間』が隔絶されている場所を用意すると言っていたが、お主にも前もって言われていたのだし、改めて知らせておいた方が良いと思ってな」
「――」(ええ、そうしてもらえて助かるわ。確かにこの場所も『結界』を用いられた特別な空間だけど、残念ながら貴方や、超越者達の戦闘の際には何も影響を及ばさないでしょうしね)
本来であれば『魔神級』同士の激突であっても下限付近であれば、外側に余波を及ぼさない程の『結界』がこの場所には張られているのだが、魔神の言う通りにソフィや王琳程の『超越者』の激突ともなれば、何の意味も為さないだろう。
王琳の用意している場所が、ここよりは耐久性に優れた場所だとしてもソフィが自身で出せるであろう『力』の五割程の開放でさえ耐えられない筈である。それは前回の『次元の狭間』でのソフィを見ていれば、直ぐに分かる事であった。
あの場所はシギンの張る実際の『結界』に比べれば、凡そ七割程の耐久性しかない『煌阿』の疑似的なシギンの『次元の狭間』ではあったが、それでも今居るこの場所よりは更に耐久性は上であると断言が出来る。
『次元の狭間』とは別の世界へ繋ぐ『道』の役割があり、単なる『結界』が施された別空間という次元の領域ではないのだ。
何かの間違いで空間の狭間に落とされてしまえば、二度とその次元から脱出する事が不可能な空間と空間を繋ぐ、まさに神格を持つ神々の通る『道』と呼べる代物であり、そんな空間を下界に居る存在の個人の力で内側から強引にぶち破り、外側に連なる穴を開ける事など本来は不可能なのである。
そんな場所でソフィは凡そ五割の力で『次元の狭間』に穴を開けて、六割の力で『次元の狭間』そのものを維持出来ない程までに消し潰してしまった。
対する王琳もまた、そんな『次元の狭間』で普通に意識を保ちつつ、普段通りに動く事を可能としていた為、彼もまたあの時のソフィに勝るとも劣らない程の『力』を有していた筈であり、紛う事なき『超越者』としての力量を有しているのだろう。
そんな『超越者』同士が、全力でぶつかってしまえば、隔絶された場所であろうとなかろうと、何も関係がなくなってしまうのは自明の理である。
神格を有する者達の通る『道』と呼べる『次元の狭間』、更にそれよりも耐久性を誇るであろう『力の魔神』の固有結界を伴って尚、戦いが収束するまでの間を抑えられるかと言われれば、流石に天上界の元『執行者』である『力の魔神』にも守りきれると断言は出来ないだろう。
それでも『天上界』の守りの要と呼ばれた過去を持つ『力の魔神』にも魔の神としての矜持がある。
「――」(ソフィ、本来の私は世界の崩壊を防ぐ立場にある神だけど、それ以上に今の私は貴方の願望を叶えたいと願っている。今度の超越者との戦いが、貴方の本当の願いだというのであれば、私は何としても貴方の為に『結界』を維持し続けてみせる。だから貴方は何も考えずに思いきり戦いなさい。貴方にはこの私がついているのだから!)
――その芯のある魔神の言葉にソフィの心が打ち震えた。
「クックックッ! 本当にお主は素晴らしい。我はお主と契約出来た事が何より誇らしいぞ。分かった、ではお主を信頼して存分に戦いに臨ませてもらおう」
ソフィが湧き出る意欲をそのまま言葉に変えるようにそう言い遂げると、無意識にオーラが伴われてしまったのだろう、彼の周囲に三色の光が交ざり合っていき、やがて部屋全体にミシ、ミシと軋む音が響き始める。
「今から三日後が楽しみだ……!!」
高揚感に包まれたソフィは、こちらもオーラと同様に無意識に『第二形態』の姿となりながら、最後にそう告げるのだった。
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