1940.ソフィと戦う事を何よりも優先した者
(思えばこの世界に来る少し前、ラルフやリディア達はサイヨウに修行をつけてもらっておった。異形の者達に加えて、動忍鬼のような角を生やした鬼人と呼ばれた妖魔や妖狐の姿もあったように思う。どうやら妖魔団の乱で『式』にした者達をサイヨウが使役していたという事であろうな)
この世界に来る前までは『妖魔』という存在の事をよく知らず、魔王達が使役する『魔物』と似たようなモノという感覚を抱いていたソフィだが、この世界で実際に退魔士や妖魔召士が『式』にした妖魔と戦い、更にはそんな妖魔達の中にも動忍鬼のように本心では戦いたくないと考えている者も居るのだという事を知った。
サイヨウに使役されていた者達は、動忍鬼のように無理やりに従わされているといった様子ではなく、自分達の意思でしっかりとサイヨウの指示にも従っているように思えた。
この目の前に居るシギンがあのサイヨウの師だという話を聞いたソフィは、やはりあれだけ人間が出来ている者には相応の者がついていたのだなと、改めてサイヨウが師事していた人物を感心するように眺めたのであった。
しかしそこでふとソフィは、この場で何度も耳にした『真鵺』という妖魔だけがサイヨウの『式』の中で記憶にない事に気づくのだった。
(王琳やシギン殿の話では『真鵺』も先に戦った煌阿と同じ鵺だというが、煌阿のように他者に幻覚を見せたり、身体を乗っ取る事を可能とするのであろうか? 我も煌阿を相手したから分かるが、あやつの『魔』の技法は幻覚なのだと理解して何とかなるものではなかった。かかった瞬間はまだ、現実で起きているモノではないと我も判断が出来ていたように思うが、時間が経つに連れて幻覚の中の魔神の言動や、実際に与えられている痛覚に徐々に違和感がなくなり、現実味を帯びていった。我が望む展開を与えられているのだから、抵抗する力が弱まるのは当然なのだが、裏を返せば誰であっても、簡単には耐えようと思って耐えられるものではないだろう。シギン殿もそうだがサイヨウの奴もまた、我以上の『耐魔力』を持っているからこそ、鵺の持つ『魔』の概念技法を跳ね返せたという事であろうか……?)
そしてその事に思考が行き着いたソフィは、見る者に怖気が走る程の笑みを浮かべた。
(クックック! ここ最近の事を思い返せば、色々と我とは異なるあらゆる分野の『力』の最高峰を有する者達が現れ始めてきている。ヌーのように日々研鑽に邁進していく中で正当な進化を遂げる者も居れば、煌阿といった感じた事のない『力』を体験させてくれた者も居る。そしてサイヨウやシギン殿は、エルシスやフルーフのような『魔』の概念理解度で並び立っておる。ここにまだレキのような魔族の存在や、内に底が見えぬ『力』を宿すシスに、我の魔法を剣で斬ってみせたリディア。それに僅かな期間で戦力値を大幅に上げて成長の一途を辿っているラルフ達も居る。そして何よりもまずはこやつだな……!)
笑みを浮かべていたソフィは、真鵺の事で頭を悩ませていた様子の王琳に視線を向けると、直ぐにその視線に気づいた王琳が、ソフィに視線を合わせて笑みを返すのだった。
「真鵺の奴がこの世界から居なくなっているのなら、もう別に俺としてはどうでも良くなった。神斗殿が妖魔神に戻りたいと考えているなら好きにしてもらって構いませんよ? 理由なんざどうにでもなる。後から俺が転生させてやった事にして、何食わぬ顔で戻してやることも可能なんで」
突然の王琳の物言いに言われた本人である『神斗』だけじゃなく、これからどうしようかと考えていた十戒もきょとんとした表情を浮かべるのだった。
「ははっ……。本当に君はいい意味でいい加減だね。どうやら真鵺がどうこうっていうより、君は彼と戦う事を何よりも優先したって感じかな?」
ソフィと視線を交わし合って互いに笑みを浮かべているところを見た神斗は、溜息を吐きながらも楽しそうにこちらも笑ってそう口にするのだった。
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