1935.目を覚ました妖魔神
※誤字報告ありがとうございます!
この首のない神斗の身体に上手く『魔』の技法によって、隠蔽を施して魂を残していたと理解したソフィは、彼の持つ『蘇生』の『魔法』である『救済』を行うべく、手に『魔力』を集約させ始めていく。
この神域領域の『救済』の魔法の出自は、古くに大賢者エルシスが編み出した禁忌の『神聖魔法』である。
そしてソフィが王琳の方に手を翳すと、その集約されていた『魔』の力が手から放たれて、緑色の光が神斗の身体を包み込んだ。
――神聖魔法、『救済』。
眩い光を放った直後、王琳の抱く神斗の身体に次々と変化が生じていく。
エヴィによって失われた首や、煌阿との戦闘中に負っていたのであろう傷や痣などが消えていき、やがてみるみる内に神斗の表情に生気が宿り始めるのだった。
どうやらまだ目を覚ますまでには至っていないが、ソフィはその生気に満ちた神斗の顔を見て、直ぐに目を覚ますだろうと確信する。
過去の経験から魂が存在しない死体の場合、痣などといった外傷は今のように綺麗に修復されていくのだが、その顔に生気が戻る事はなく、まるで精巧な人形のように動かぬ身体が出来上がるだけとなるのだ。
まだ目を覚ましていないが、すでにこのソフィの『救済』という『魔』の概念技法によって生前のように神斗の首が元通りになった事で、この魔法を初めて見たこの場に居る者達は驚愕に目を丸くするのだった。
やがて、ゆっくりと神斗の瞼が開かれるのだった。
「こ、神斗様!」
この場に居る者達の中で、一番最初にその声を上げたのは三目妖族の『十戒』だった。
どうやら首が落ちている状態の神斗の身体を見ていた十戒は、蘇ると口にされていてもまだ半信半疑だったのだろう。
先程の緑色の光が包み込んだ時にようやく、もしかしたらという気持ちを抱いたようだが、こうしてその死体であった神斗の目が見開かれた事で思わず声が出てしまったといった様子であった。
「ふふっ、ようやくお目覚めですか? 神斗殿」
「王琳か……。はは、まさかこうしてまた自分の身体で話が出来るとは思わなかったよ」
「どうやらその様子では、煌阿の支配から精神だけは維持し続けられていたようですな?」
目を覚まして開口一番に王琳に対して会話を行ってみせた神斗の様子に、王琳は直ぐに状況を正確に把握しているのだと確信したようであった。
「ああ……。君の言う通り、煌阿に身体を乗っ取られる前に『透過』を用いて精神と意識だけは維持し続けられていた。何があったのか、そして煌阿が何を考えていたかもボクは理解してここに居る……。王琳、下ろしてくれるかい?」
「ええ」
どうやらあのような状態になっていても、その意識だけはしっかりと神斗は保っていたようであり、何の説明をせずとも状況を正しく理解している様子であった。
そして神斗は自分の足でしっかりと立って見せた後、直ぐにソフィの方へと向き直った。
「君のおかげでこうしてボクは生き返る事が出来た。非常に感謝をしている。ありがとう」
そう言って妖魔神である神斗は、自分とは違う種族であるソフィに深々と頭を下げて感謝の言葉を口にするのだった。
妖魔神が人間ではないといっても他種族に対して頭を下げながら感謝を告げる姿を見て、古参の妖魔である十戒は再び驚いた様子を見せる。
「礼であればそこのシギン殿に言うと良いだろう。我はすでにお主の身体には魂が宿っていないものだと考えて蘇らせるつもりはなかったのだからな」
シギンが居なければ暗に『魔法』で蘇らせる事すらしなかったと告げるソフィに、神斗は頭を上げた後に小さく頷いて、今度はシギンの方に視線を向けた。
「また君に助けられたね。もちろん君にも感謝している。しかしよく気づけたね? ボクは君が七耶咫に行った時とは異なり、単に『魔力』の一部を存在させるだけではなく、時空干渉による『時間術』を用いて事象そのものを隠して、煌阿本人にも気づかせぬ程の『隠蔽』を施したと思っていたけど、内に居る煌阿ではなく、外に居る君に気づかれるとは思わなかったよ。ま、そのおかげでボクは助かったんだけど……」
「あまり私を舐めないで頂こうか……と、言いたいところだが、素直に言って煌阿と戦う前の私であれば気づけなかったかもしれぬな」
「ほう……?」
これまでのシギンという人間を省みた神斗は、シギンが『魔』の概念に関して分からない事があるのだと素直に認めるとは思っていなかったようであり、こうして目の前で知識不足を認めた事に驚きの声を上げるのだった。
「私は煌阿を通して先祖の生み出した『理』の内容の一部を知った。お主が傾倒している『魔』の部分である『透過』にしてもそうだが、何より『隔絶空地入法』なる技法に『間隙幽閉』に用いる『時空干渉』の『時間術』。これらの代物は『卜部官兵衛』独自に編み出した『理』のものであり、私だけでは辿り着く事が出来なかった境地だ。奇しくも敵であった煌阿がいたからこそ、私は新たな『魔』の知識を得る事が出来た上で、お主がまだ生きているという事に気づけたのだ」
「成程ね。まぁ、君程の『魔』の概念理解者であったならば、寿命を迎える前には辿り着けていた可能性も否定は出来ないけど。でも間違いなく煌阿の存在は君に『卜部官兵衛』の『理』の真理に近づくための近道を用意したと見て間違いなさそうだね」
「ああ。おかげで生きていられる間に、まだいくつかは新たな『魔』の技法を生み出せそうだ」
その言葉に神斗と隣に立つ王琳が同時に笑みを浮かべるのだった。どうやらその笑みの意味は呆れだけではなく、感心の意も込められていた事だろう。
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