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1932.一変する空気

「ふふ、会合の時よりも今の方が堂々としておるように見えるぞ」


「いえ、覚悟が決まっただけですじゃ……。もうこうなった以上はどうにでもなれという思いでね」


 先程大袈裟な溜息を吐いて見せた十戒は、話し掛けてきた王琳にそう告げるのだった。


「ふふ、そうか。まぁそう思ってくれた方が俺としても楽だ。さて十戒殿、これからここで見る事は他言無用で頼むぞ? その為にお主だけをここに残したのだからな」


「は、はぁ……。それは構わぬが、何をワシに見せようというのですかな?」


 十戒の言葉に返事をせず、王琳はこの場に残っているソフィの方を一瞥した後、部屋の外の方に視線を向けて口を開いた。


耶王美(やおうび)肆聖(しせい)。もう入ってきて構わんぞ」


 王琳の言葉の後、直ぐに『中央堂の間』の襖が開かれて、二体の妖狐が姿を見せるのだった。


「はぁ……。もっと早く呼んで頂きたかったですわ。私は構いませんけど、ずっと貴方に言われて持たせられているこの子が可哀想でした」


 姿を見せた耶王美が王琳に向けて開口一番にそう告げると、隣で首のない死体を大事そうに抱えながら、肆聖は困ったように苦笑いを浮かべて見せるのだった。


「ああ、それはすまないな。思った以上に会合での話が長引いてしまったんだ。肆聖も悪かったな」


「い、いえ! お気になさらないで下さい。そ、それより、このままお渡ししてもよろしいのですか……?」 


 肆聖は首をブンブンと振って主に返事をすると、手の中に抱いている首のない死体に目を落とすのだった。


 肆聖が抱くその死体に部屋に居る者達全員の視線が注がれる。


「それは……。こんなものを持ってきて、一体どういうつもりだい?」


 この首のない死体を作った張本人であるエヴィは、何故またそいつを持って来たんだと非難するような視線を王琳に向けながらそう口にする。


 そして十戒はこの首のない死体をじっと見つめると、ある想像に思い至ったのか目を丸くし始めるのだった。


「ソフィの忠臣よ、まず落ち着け。お前がこの身体に手を出した時、すでに煌阿によって本来の持ち主である神斗殿は乗っ取られていたんだ」


「ああ、道理で。そいつと会話をしていて、何処かちぐはぐだなとは僕も感じていたんだ。でも別人だったとしても僕と耶王美が閉じ込められたのは変わらない。そいつに報復した事に僕は今でも後悔はないよ? 今更僕に責任を押し付けようとしてそいつを持ってきたんだとしたら……」


「ちょっと待つんだ。王琳様はお前を咎めようとして神斗殿の身体を持って来たわけじゃない。だから落ち着いてくれ、エヴィ」


 自分が責められているのだと勘違いしそうになったエヴィが、王琳に詰め寄ろうとしたのを見た耶王美は、慌てて主にはそういうつもりはないのだと、王琳の代わりに弁論を行って制止するのだった。


「あ、そうなの……? また早とちりしちゃったよ、ごめんね? 耶王美もごめんよ?」


 耶王美が必死に止めるところを見たエヴィは、慌てて王琳に謝罪を行った後、その王琳よりも耶王美に対してオロオロとしながら何度も頭を下げるのだった。


「ふふっ、本当にソフィの忠臣殿は、俺の眷属を大事に想ってくれているのだな」


「我もこやつのこんな姿を見るのは、こやつがユファの奴に叱られた後、好きな菓子類を食べる事を禁止された時以来ぶりだ」


「ソフィ様、あれは()()()()()が悪かったんですよ……」


「うむうむ、分かっておるよ」


 過去のエヴィとユファのやり取りを思い出したソフィは、笑みを浮かべながら、今も弁解を行うエヴィの頭を撫でて宥めるのだった。


 ソフィがエヴィの頭を撫でるところを見ていた耶王美が、何処か儚げに笑うところを見た王琳もまた、そんな耶王美の頭を撫でて見せるのだった。


「お、王琳様!」


「ふふ、羨ましそうに見ていたものだから、お前も撫でて欲しいのかと思ってつい、な」


「お戯れを……! そんな事より、早く話をなされては如何ですか? ずっと肆聖も待っていますよ」


「はわ、いえいえ! お姉さまが主に頭を撫でられて嬉しそうにしている姿であれば、何時間でも見ていられま――」


()()!」


「はわわっ! も、申し訳ありません!」


 耶王美に大きな声で叱られた肆聖は、慌てて自分の頭を押さえながら謝罪するのだった。


 先程まで行われていた会合の時の殺伐とした空気とは、まるで正反対と言えるような和やかな空気に、他の者達は呆然とした様子で王琳達を見つめていた。


「おい、テメェも何やろうとしてんだよ?」


「――」(いや、お前も撫でて欲しいんじゃないかって思って……)


「んなわけねぇだろうがっ!」


「――」(あいたぁっ!)


 ヌーは自分の頭を撫でようとばかりに、必死に手を伸ばしていたテアの額に指でデコピンを行うと、テアは恨みがましくヌーを睨みつけた後に痛みを堪えるのだった。


 ……

 ……

 ……

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