1931.妖魔山の新体制と決定権を持つ王琳
今後、どの種族が天狗族に代わって山の中腹までの管理を任される事となるのか――。
この中央堂の間に居る妖魔達は、恐る恐ると言った様子で王琳の言葉を待つのだった。
「それで天狗族の『帝楽智』殿に代わる山の管理者だが、三目妖族の『十戒』殿に任せようと考えている」
その王琳の言葉にこの場に居る者達は色々な様相を見せたが、言われた張本人である十戒だけは、王琳に睨まれた時のまま、表情を変えずに目を伏せたままだった。
先程自分が選ばれると思っていなかった十戒は、叛意を抱いていた。
そしてその時の目を王琳に見られてしまい、剰え返された視線には『要らぬ事をするな』という気持ちが込められていた。
三大妖魔に続く古参の種族である『三目妖族』が、新たな妖魔神となる存在に次ぐ形で山の管理者になる事は、表向きは体裁を保つという意味でも適しており、本意では今後王琳に対して叛意を持つ者達の共謀の首謀者となり得る十戒を今の内に抑えつけておこうという考えだろう。
――これは王琳が三目妖族を体よく利用する為の選別であり、延いては十戒達を監視下に置くという意味も込められている。
それを分かっていて尚、十戒には王琳に拒否を行う事は出来ない。
こうして即断で返答をせぬ事が、唯一この場で十戒に出来る王琳への反抗の意志だった。
その十戒の無言の抵抗に気づけた者は少なかったが、僅かながらに理解を出来た者達も居た。
しかしそんな連中が何かを口にする前に、決定的な言葉が王琳から告げられる。
「この場に居る者達も知っての通り、俺は神斗殿とは非常に親しい間柄でな、先日も共にこの山の安寧の為に互いに意見を交わし合い、良くしていこうと誓い合ったばかりだったのだ。それが今回の襲撃に現れた鵺達の首謀者である煌阿に身体を乗っ取られてしまい、このような結末を迎えてしまった……。せめて俺に出来る事は神斗殿の意思を引き継ぎ、この山をより良くしていく事だけだ。十戒殿、協力をしてくれないか?」
この会合が開かれる前まで、全くそんな態度と口振りを見せなかった癖に、いけしゃあしゃあとそんな事を口にする王琳だったが、妖魔神達と誰よりも懇意の間柄であった事は間違いなく、神斗の直接の敵ではないが、煌阿と同じ鵺族を森の中で討ってみせたのは確かに王琳である。
そんな王琳に本音ではないといっても協力を申し出られた以上は、断る事は内外に拘らず今後の山に影響を来す。
そうでなくとも拒否を行えば間違いなく、この後に何らかの形で十戒は山から姿を消す事になってしまうだろう。
つまり十戒に用意された答えは、たった一つしかなかった。
「た、賜った……」
十戒は断腸の思いといった様相を浮かべながら、額に玉のような汗を浮かべてそう王琳に返答するのだった。
「お前らもしかと聞いたな? 今後は俺達『妖狐族』と『三目妖族』の十戒殿がこの山の管理を行う。そして先程の約定通りに人里と人間達を襲う事も今後は禁ずる」
王琳がそう告げると、部屋に居る数多の種族の長たちは、一斉に王琳の方に向き直った後に平伏するのだった。
……
……
……
会合を終えると直ぐに禁止区域に居る種族の長たちは、今回の内容を同胞達に知らせに戻って行った。
厳密には王琳達に強引に部屋を出されたのだが、強引ではなくとも早く伝えなければ自分の命が危ないと考えたのだろう。
すでにもう先程決まった会合の内容は履行されている状況下にあり、少しでも同胞が人里へ近づくだけでその同胞の者達だけではなく、種族の長である彼らの命も危ない状況なのだから。
そしてこの場に残されたのは、ソフィ達と三目妖族の長である十戒だけとなった。
今後の妖魔山の中腹の管理を任される以上は、十戒がこの場に残されるのは当然と言えたが、十戒は下手をすればこの場で殺されるのかもしれないと考えていた。
妖狐族の中には他者に化ける事も可能な者も居る為、三目妖族の十戒が妖魔山の管理を任されたのだと山中に伝わった以上、後は本物を殺害して配下に挿げ替えられてもおかしくはないからである。
こんな事を三目妖族に行える種族など、ほとんど皆無と言える程に少ないが、それを行えるのが『妖狐族』であり、妖狐を束ねる『王琳』なのである。
どれだけ三目妖族の十戒に山に於ける力や、横の繋がりがあろうとも『王琳』はその全ての力を上回る。
先程の会合で定まった内容が覆される機会がないのと同じで、王琳の気が変わるまでの数百年は『妖狐族』と『三目妖族』による山の管理体制が崩れる事はないだろう。
この場に残された十戒は、何故こんな事になったのかという気持ちを抱きつつ、王琳を前にしてこれみよがしに大きな溜息を吐くのだった。
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