1929.十戒の思惑と、王琳の視線
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ミスズが提示していた交渉内容にひとまずの決着が付いた後、王琳はこの場に入ってきた妖狐達を下がらせた。
妖狐達が立ち去った後、先程立ち上がりかけていた妖魔達も今は大人しく座り直していた。
どうやら王琳が交渉の最後にミスズに対して告げた言葉と向けた視線を見てしまい、彼らは怯えてしまってもうどうにもならないのだと考えたようであった。
そしてこの部屋に居る妖魔達の中で三目妖族の十戒だけは、先程王琳の配下の妖狐達が部屋に入ってこなければ、納得が出来ずに立ち上がりかけていた種族の長たちが、王琳の手によって命を落としていたという事を明確に理解していた。
先程ミスズに対して牽制とも取れる言葉を吐いたのは、殺意のやり場を失っての発言であった事は間違いないだろう。
十戒はこのような恐ろしい事をこの場で平気で行う王琳が、かつて自分が若かりし頃に見た『王琳』と重なって見えるのだった。
(こ、このような王琳殿を見るのは何百年ぶりだろうか……。これも妖魔神の御二方が居なくなった影響か? いや、どちらかといえばあの黒羽が原因と言った方が正しいか。まずいな、ここ最近での態度を見せていた王琳殿が山の長となるのであれば、そこまで問題もなかったように思うが、かつての手のつけられない暴君の頃であった王琳殿が山の長となるのであれば、再びあの息苦しかった頃の山に戻ってしまいかねない……! こ、これは一刻も早く対策を考える必要……っ――が!?)
考えている事を悟られないように下を向いていた十戒が、思案を続けながらも少しだけ顔を上げて、ちらっと王琳の方を向けた瞬間、無表情ではあるが王琳が自分を見ていた。
その視線はまるで十戒の考えをお見通しだと言わんばかりであり、今は見逃してやるが、要らぬ考えを実行に移せば、即座に殺してやると告げているようであった。
(だ、駄目だ……。ワシ程度ではどうにもならぬ。最凶の妖狐がこの山の長となる事はもう避けられぬ。ワシが持ち得る手札を全て切ったとしても王琳殿には届かぬだろう……!)
あらゆる妖魔達の種族の長が、三目妖族の十戒を見れば恐れる程ではあるが、そんな十戒であっても王琳が相手では何も出来ないとこの場で改めて実感するのだった。
王琳はその目を伏せた十戒に満足したようであり、ふっと静かに鼻を鳴らした後に、十戒に向けていたその視線を外すのだった。
そしてそのまま王琳の視線は、大魔王ソフィの方に向けられるのだった。
(やはりこの俺を楽しませられるのは奴だけだ……。煌阿を相手にしていた時のアイツが全力だったかどうかは存ぜぬが、俺がある程度本気で放った『透過』でさえ、奴の何らかの結界の効力が伴った『魔』の技法を消すのに時間を要した。それにあの殺傷能力の高そうな、白い光の束で出来ていた技法の方も相殺するのに苦労した。まだ俺も本気ではなかったが、奴も手の内はまだ完全に明かしてはおらぬだろう。奴に本気を出させるのは俺しかいない。そして、俺に本気を出させられるのも間違いなく奴だけだ!)
口角を吊り上げながらソフィを睨みつける王琳に、ソフィも直ぐに気づいて王琳の方に視線を向けた。
王琳は『念話』を使えないが、まるで正確に意思の疎通が取れたかの如く、ソフィも笑って見せるのだった。
(クックック……! どうやらあやつとはそれなりに本気で戦う事になりそうだな。我は少し前の幻覚の中での魔神との戦いで、ある程度は満足が出来たつもりだったが、強き者と戦えるというのであれば、当然にそこに文句など有りはしない。さて、奴がどれ程までに強いのかは分からぬが、願わくば我の想像を超えていてもらいたいところだな)
――ソフィと王琳。双方共にこの場で頂点と呼べる程の『力』を有する者達が、互いに戦闘を望んだ以上は、もう戦う事は避けられないだろう。
そしてこの双方の視線の意味に気付いている『ヌー』や『シゲン』といった者達もまた、非常に興味深そうに彼らを見つめていたのであった。
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