1928.王琳という新たな妖魔山の王
「さて、それでは互いに無事交渉の座に就けたところで改めて確認を行うが、お前達の交渉内容の優先事項は、人里に妖魔を近づけさせないという事でいいな?」
今度は演技で行っているわけではなく、ちゃんと確認の意味を込めて確かめるようにミスズにそう告げる王琳であった。
「少し異なりますね。厳密には町民達を襲わせないようにして頂きたいのです。王琳殿、貴方の力を我々も今更は疑ってはいませんが、妖魔達の中には本能に従って人間を襲おうとしている者も居る筈です。そんな妖魔に対して口で説明を行うだけでは難しいと判断しますので、その場合は予めその妖魔の生態や種族の情報を私共人間に教えておいて頂きたい」
ミスズは冷静さをしっかりと取り戻せたようで、くいっと眼鏡を上げながら堂々と王琳に言葉を返すのだった。
「襲わせなければ構わんのだろう?」
「え……?」
ミスズは自らが行った質問で少しの間は、王琳が説明をする為に内容を長考するだろうと考えていたが、間髪入れずに返事があった為に、気の抜けた声が咄嗟に出てしまうのだった。
「襲わせたくない場所を最初に俺に知らせておけば、その付近を俺の同胞と眷属共に見守らせる。その場所に妖狐以外の妖魔が近づけば皆殺しにしておいてやる。だからさっさとその場所を……」
王琳が言い終わる前に、今度はミスズではなく妖魔側の方から声が上がった。
「お、お待ちくだされ! 王琳殿、貴方がこの山の長の立場となる事に異論はない。し、しかし人里に近づくだけで皆殺しにされては困る! 同胞の中には何も知らぬ内に近づいてしまう者も……」
「殺されたくなければ、その前にしっかりと伝えておけばいいだけの話だ。それよりお前、俺の話を途中で遮るな。次はないぞ?」
分かったなとばかりに射貫くような視線を向けられたその妖魔は、信じられないとばかりの驚愕の表情を浮かべると、そのまま目を伏せるのだった。
「この場所にお前達を眷属共に集めさせたのは、お前達がその種族の長やそれに近しい立場だからだ。この場で俺が口にした内容を一語一句、違わぬように自分達の同胞に伝えろ。聞いておらぬ、知らぬは通用せんぞ? 今後人里にお前らの同胞が近づけば、有無を言わさずに皆殺しだ。一切の異論を認めるつもりはない。ああ、それと一度目は近づいた連中の命で済ませてやるが、二度目以降はこの場に居るその種族の長であるお前らの命を奪わせてもらう」
「なっ――!?」
「ば、馬鹿な……!!」
「ふ、ふざけ……!!」
この場に居る妖魔達の数体が王琳に物申そうと立ち上がろうとした瞬間に、部屋の襖が開け放たれたかと思えば、外に控えていた人型の妖狐達が、殺意を抱きながら次々に中に入ってくる。
気が付けばこの広い部屋の中は妖狐で埋め尽くされてしまうのだった。
――その数は元々この場に居た妖魔達の三倍は下らない。
中には王琳から直々に名付けが行われた王琳直属の『眷属』の妖狐の姿もあり、この眷属に手を出せば今度は『王琳』が報復に動く事となるだろう。
つまり立ち上がりかけた妖魔達は、出鼻を挫かれただけではなく、今の発言に対して反論すら許されなくなったという事と同義であった。
「これでいいな、人間? おっと、俺の同胞共が里に近づくのは許してくれよ? 今の言葉通り、お前らの里を襲わせないようにする為なのだからな」
妖魔達が口を閉ざして大人しくなったのを見計らい、ミスズにそう告げる王琳であった。
「け、結構。ひとまずは今後の様子を見させて頂く事になりますが、約束を違わぬようにお願い致します」
この場で発言を行った妖魔達を取り囲むように現れた妖狐達の姿に、ミスズもまさかここまで統率が取れているとは思っていなかったのか、少しだけ妖狐達に恐ろしさを感じつつも、何とか王琳に言葉を返すのだった。
「それはこちらの台詞だ。俺にここまでさせて満足の行かぬ結果を齎せば、直々にこの俺がお前らを一人残らず殺して廻ってやるから覚悟しておけよ」
座椅子の肘掛けに片肘をつきながらそう告げる王琳の目が、本気だと告げているように映ったミスズであった。
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