1927.禁止区域に居る妖魔の思惑
この場に集められた妖魔達は、妖魔山に居る数多の種族の中でも影響力がある種族達であり、先程のソフィを睨んでいた若い妖魔でさえ、その種族ではそれなりの地位に居る者で間違いない。
神斗や悟獄丸といった妖魔神の召集の時でさえ、種族の長から任命されての名代であれば、その会合での参加を許されていたが、この王琳の強制召集の場合は、そんな代理となるような者の参加は決して許されない。
その理由として今回のような人間達を交えて行われた大切な取り決めを周知させる時に、その名代で会合に参加した者が種族の中で長と同様の権限を持つ者でなければ、後々問題が生じるからである。
そもそも王琳が強制召集を掛ける時というのは、本当に大事な時だけとなる為に、百年単位となる事も多く、余程のことがなければ開かれる事はないのだ。
そんな大事な会合が開かれる時に行われる大事な取り決めの際に、何も決定権を持たない者が参加していたとすれば、他の種族の者達と足並みを揃えられなくなる為、当然といえば当然の事である。
それが分かっている為に、王琳の開く会合の召集の際は、その種族の長かその次の序列に居る者が必ず参加するのが常となっている。
ソフィを睨んでいた若い妖魔もその種族の中では序列も高いのだが、少しばかりこの場に居る他の種族の者達よりも比較的最近その地位に就いた事で、今回の王琳の会合にも初参加という形であったわけだが、その若者のよく知る大妖魔と呼べる種族の長たちが、揃いも揃ってこの会合を開いた王琳に怯える姿を見た事で如何に『妖狐』の長がとんでもない存在なのかという事を再認識しているところであった。
(み、三目妖族の大長でこの山に古くから君臨し続けている十戒殿でさえ、王琳殿の言葉に一切の反論すらみせない……。そ、それに先程この『結界』の外側に大勢現れたであろう『鵺族』たちもあっという間に全員やられてしまったところをみるに、先代様がたから言い伝えられてきた話は本当だったという事なんだろうな。決して『妖狐』にだけは逆らうな。何があろうと『王琳』だけは敵に回すなと耳にタコが出来るくらいに聞かされてきたが、ようやく今日その意味が分かったぜ……!)
ソフィを睨んでいた若い妖魔は、力こそはこの場に呼ばれた他の種族の猛者達には劣るが、その分明敏な頭脳を持っており、ミスズが王琳に対して物を申した瞬間に多くの者が彼女に視線を向けたが、この彼だけは王琳の表情の始終に注視していたのだった。
(あの女が王琳殿に食ってかかった瞬間、僅かに何か思案するように目を細められたと思ったら、直ぐにあの男に視線を向けて口角を上げて笑ってみせていた。きっとあの瞬間にはもうこの展開に持っていこうと決めていたんだろうな……! 話がついた後に再度あの妖魔召士の男を一瞥していたところからもそれは明らかだった。あの妖狐の長は、力だけでこの山に君臨し続けてきたんじゃない。咄嗟に機転を利かせて、唐突に起こる出来事とその物事の対処までをワンセットで考えられる頭脳を持っているんだ。だ、だからこそ王琳殿に妖魔神としての立場になってもらえる事には素直に喜べるんだが、どうしてもあの得体の知れない黒羽だけは相手にして欲しくはないな……)
その若い妖魔は王琳が自分達山に生きる者達を纏める『妖魔神』を名乗っても構わないと、むしろ相応しいとさえ考えたが、その当人である王琳が『帝楽智』や『神斗』といった者達を相手にあっさりと勝負を決めた『黒羽』に演技ではなく本当に執着しているところを見て、戦う事だけは止めて欲しいと考えるのであった。
――彼自身、何故そう思ったのかは分からない。
むしろ今この場で『王琳』という妖狐の長が、本物の強さを持つ妖魔神に相応しい『存在』なのだと認めるに至った筈なのである。
咄嗟の頭の機転に一体でも恐ろしい『鵺族』を大勢に相手どって、あっさりと片をつける程の強さを有する妖狐だというのに、何故だかは分からないが、黒羽を相手にすればこの山は終わってしまうというような荒唐無稽な光景が彼の頭を過ったのであった。
しかしそんな彼の思惑とは裏腹に、この後の王琳の発言で否定したかった事が、避けられぬものとなってしまうのであった。
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