1916.禁止区域の妖魔達が抱く、それぞれの思惑
※誤字報告ありがとうございます。
王琳が強制召集をかけて開かれた会合の場では、すでにソフィやシゲン達人間側も集い、妖魔側も三目妖族や山の主だった種族の妖魔達も集められていた。
この場に『王琳』がまだ現れていないという事に加えて、妖魔退魔師といった刀で戦闘を行う人間達がその武器を取り上げられている現状を鑑みて、妖魔達の中にはブツブツと苦言をこの場預かりの七耶咫にぶつけていたり、天狗族や妖魔神に手を出したソフィを睨む者も現れているが、実際に行動に起こすところまでには至っていなかった。
ソフィの事はすでに『黒羽』として禁止区域に居る者達の間で浸透しているが、どうやら人間たちと共に居ることで完全に人間側としての扱いを受けている様子であった。
ここに居る妖魔達が山の中腹に至る前までに生息する妖魔達であったのならば、天狗族や神斗を相手にしていたソフィに恐れをなして手を出そうとは考えていなかったかもしれないが、ここにいるのはそもそもが妖魔ランク『8』を下る事はない『三目妖族』を中心とした、古くから山に君臨してきた古参の妖魔達なのである。
自分達の居る山の代表である『神斗』や『悟獄丸』をやられて黙っているだけで済ませる筈もなく、この後の妖狐族の王琳の登場に際して、どのような発言が出るか次第では後先考えずに行動に出る者も出て来る恐れがあった。
それでも今すぐに行動を起こさないのには、やはり強制召集を行った王琳の存在を軽視出来ないのが理由にある。
それは会合の場を作った王琳の顔を潰せないという建前の理由だけではなく、当時の暴君時代の『王琳』を知る者が、古参の者達の間に多く居る事が要因の大半を担っているだろう。
過去の王琳は相手が誰であろうが、自分が気にくわないと思った者を例外なく消滅させてきた。
相手がどれだけ強大な力を持っていようが、想像を絶する程の同胞の数や同盟を持つ種族の妖魔達がいようが、一切関係ないかの如くに歴史に葬ってきたのである。
一対一であっても『妖魔神』と互角以上に渡り合う事が可能である事に加えて、信じられない規模の数を誇る『妖狐』の眷属たちが山の至る場所に生息している。
特に王琳から直接『名付け』が行われた一尾から八尾までの妖狐達は、恐ろしいまでの忠誠心を王琳に持っていて非常に厄介な事この上なく、この種族と事を構えるという事は『種族の存亡』をかける程の覚悟を持たなければならないのだった。
それを理解していて尚、今ソフィ達を睨んでいるような『覚悟』を持った妖魔に、三目妖族の『十戒』は困ったとばかりに表情を歪めながら事の成り行きを見守っているのだった。
(こんな強制召集の場が開かれては、まず間違いなく碌な事は起きないだろうと思ってはいたが、まさか『王琳』殿が現れる前からして、こんな一触即発の空気が流れるとまでは思わなかった……。確かにあの『黒羽』がやった事は無視出来ることではないが、あまりに相手が悪すぎる。妖狐の『王琳』とこの『黒羽』以外にも侮れぬ存在感を示す者もちらほら居るし、何より問題なのはあの『黒羽』の隣で涙を流している少年だ。先程の奴がオーラを纏った後にぞわりときたのは『呪い』の感覚だ。あれは間違いなく『鵺』と関係性を持っている事だろう。この山で誰よりも多くの種族をこの目で見てきたワシには分かる)
どうやら額に目のある三目妖族を束ねる長の十戒は、先程のエヴィの『魔力』の奔流から、鵺と同じ『呪い』を司る存在なのだと判断した様子であった。
この世界の妖魔達が『呪い』と呼ぶ『魔』の技法は、ソフィ達の居る『アレルバレル』の世界や、フルーフ達の済む『レパート』の世界にも存在している。
当然世界が違えば『魔』の概念に用いられる『理』も違う為、世界そのものによって特色が異なってくるが、この『ノックス』の世界では『理』は存在せず、この世界で使われている『呪い』には、大きく分けて天狗族の扱う『呪い』と、鵺族の扱う『呪い』に分けられている。
天狗族の使う『呪い』に多いものが『呪詛』と呼ばれる詠唱を行う事で、その場で影響を来すモノが多く、対象者の動きを止める事に主に使われている技法である。
対して鵺族の使う『呪い』は、その場で直接影響を与えるものだけではなく、数時間後、数日後、数年後と、使われた『呪い』の種類によって、忘れた頃に影響が及ぼされる場合がある。
どうやらこの妖魔山で長く生きてきた十戒は、エヴィの『呪い』による『魔力』の扱い方から『天狗族』ではなく、どちらかと言えば『鵺族』の扱う『呪い』に分類される技法を用いようとしたのだろうと判断した様子であった。
しかしこれは当然に十戒の勘違いであり、エヴィが使うのは鵺の使う『呪い』とは全く関係のない『呪法』と呼ばれる別世界の『魔』の技法である(※『呪い』と『呪法』は単に呼び方が違うだけである)。
妖魔神の『神斗』や『悟獄丸』でさえ、煌阿や真鵺の扱う『呪い』の危険性を重要視しており、防ぐ事が難しいと結論を下している程の恐ろしい『魔』の技法であるとされていて、当然ながらこの山で古くから生きてきた『三目妖族』の『十戒』も『呪い』の恐ろしさを身に染みて理解しているのであった。
(王琳殿が来るまではせめてこの場で勝手な真似をせず、大人しくしていてもらいたいものじゃ……)
『三目妖族』の長である十戒は、同じ山の『禁止区域』に生息する妖魔達を見ながら、何も起きないようにと一人静かに願い始めるのだった。
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!




