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1910.出迎えてくれた妖狐の参姜

(今の気配は肆聖(しせい)か……? だが、私が居るのに挨拶や連絡もせずに立ち去るのはおかしい……か? いや、もしかすると王琳様の命令で山の至る場所に遣いに出されていて、肆聖(しせい)も顔を見せる暇がなかったという可能性もあるか?)


 その耶王美(やおうび)の思い至った可能性は、本来であればまず有り得ないのだが、そもそも今回の強制召集自体も何十年、いや下手をすれば百年以上は経っているだけに、各所に召集の遣いに出されていると考えれば、忙しくならざるを得ないのかもしれないと考えた耶王美であった。


(だが、すでに例の場所にはもう主だった種族の長は集まっているようだ。神斗殿や悟獄丸殿、それに帝楽智(ていらくち)殿はもう省くとして、悪虚に吏伊賀もすでに消し去られてしまっている筈だったか。残りは『鵺』達だけだが、これはどうした事か、全く鵺共の居場所が掴めぬ。間違いなく『結界』を施して何処かに潜んでいるの間違いないのだろうが、感知出来る個体があまりにも少なすぎる。これは誰かの指揮で動いているようだな。肆聖たちもこれに気づいて動向を追っている途中だったのかもしれぬな……。まさかこの辺に鵺共が潜んでいるのか?)


「耶王美、どうかしたの?」


「え? あ、いや何でもない。それでは王琳様の元へ案内しよう」


 思案を続けていた耶王美だったが、エヴィの声に意識を戻すとそう口にするのだった。


(王琳様の()()()()に参加しないという事は、すなわち()()()()()を意味する。このまま集合場所に行ってみれば分かる事だな)


 耶王美はそう結論付けると、待たせてしまってすまないと謝罪の一言を口にして、ソフィ達を王琳の指定した場所に案内を始めるのだった。


 ……

 ……

 ……


 耶王美の案内でソフィ達は妖魔山の禁止区域内の森の中を進んでいく。


 そして森の中に生えている一本の木の前で耶王美は足を止めるのだった。


「王琳様が指定された集合場所はここだ」


「え? 本当にここなのですか……?」


 何も特徴のない森の中、集合場所と告げた一本の木の前で、改めてミスズ達は周囲を見渡すが、何も目印となるようなモノがあるわけでもなく、そこにはただ単に他の場所にもいくつも生えているように思える大きな木が立っているだけであった。


「ああ、ここで間違いない」


 耶王美がミスズの疑問に答えた後、ゆっくりとその大きな木に手を添えながら何かを呟き始めた。すると次の瞬間、大きな木があった場所の周囲一帯がボヤけ始めて景色が一変していくのだった。


「こ、これは……!?」


 スオウやヒノエ達はその神秘的な現象に驚きの声を上げるのだった。


 そして何と先程まで単なる森の中であった場所に、木があった場所から鬼人族の集落と同規模の広さの隠れ里が出現するのだった。


「なるほど……。王琳達の姿が時折見えぬようになっていたのは、こういうカラクリだったか」


 この妖魔山で長き年月を過ごしてきたシギンは、山の中にいくつもこういった場所がある事自体は知っていたのだが、常に中に誰も居る気配を感じられず、これまで誰が用意したものなのかまでは分かっていなかった。


 しかしこれが妖狐達が用いていたモノだと分かった今、何故王琳達がこれまで縄張りというモノを持っていなかったのかを理解出来たシギンであった。


 この場に居る多くの者達が驚きの声を上げている中、突如として数体の人型を取った妖狐達が出現を始めるのだった。


「皆様お待ちしておりました。さぁ中へお入りください」


 この場に現れた数十体の妖狐達は、皆一様に白い着物に赤い袴を履いた人型の姿をしていた。


 一見すると()()()()()に見えた彼女達だが、遠目からでも狐の尻尾が生えているのが見て取れるのだった。


 だが、この場には王琳直属の者達は居らず、あくまで配下の遣いの妖狐達のようであった。


「それでは中へ案内致しますので、私について来てください」


 そう言って耶王美が先頭に立って歩き始めると、ずらりと並んでいた妖狐達が道を開けるように左右へと移動を行い始めていく。


 そのまま遠目に屋敷が見える程の長い道を歩いていくソフィだが、ずらりと並んだ妖狐達の前を通るたびに左右同時に頭を下げていく。


 それはまるで凱旋を行う勇者パーティを迎え入れる王国の兵士達のようであった。


「こ、これは、得も言わぬ程に壮観な光景ですね……」


 屋敷までの長い道を妖狐達の横を通って歩いていくミスズ達だったが、その一糸乱れぬ彼女達の動きに感慨というものを感じてついそう呟いていた。


「た、確かに……」


 ヒノエやキョウカ達もミスズの言葉に同意する様子を見せながら歩いていく。


 やがてソフィ達が屋敷の元に辿り着き、そっと後ろを振り返ってみるが、数十体と居る妖狐達は、その誰もが頭を下げたままピタリと止まっていて、まるで時が止まったかのような錯覚すら覚える程だった。


 そして先頭に立っていた耶王美が屋敷の門を開けると、そこには外に居る妖狐達と少し異なった巫女装束を着た三つの尾を持つ妖狐が頭を下げた状態で出迎えるのだった。


「耶王美様、そして皆様、お待ちしておりました」


参姜(さんぴ)、お前がここに居るという事は、どうやらもう主だった者達の召集はし終えているようだな」


 耶王美がそう告げると、恭しく礼を取っていた参姜(さんぴ)は顔を上げた後に頷いた。


「しかし耶王美様、とある種族だけは誰もこの場に顔を見せていません」


 そう口にする参姜(さんぴ)に耶王美も頷きを返す。


「その事だがお前に後で詳しく話を聞きたい。しかし今は客人達の案内を頼むぞ」


(かしこ)まりました」


 耶王美との会話を終えると、出迎えてくれた参姜はそう言って頭を下げた。


「それでは皆様、ここからは私の代わりにこの参姜が案内を行いますので」


 ここまで妖魔山の中を案内してくれた耶王美はそう告げると、どうやらここからの案内を参姜という同胞の妖狐に任せて、彼女はこのままこの場から離れる様相を見せ始める。


 どうやら先程の参姜との会話から察するに、耶王美は後で参姜から詳しく話を聞く前に、先に何かを確認しに行こうとしているのだろう。


 ここに来るまでの案内の最中にも、彼女はさりげなく周囲に視線を這わせていた。どうやら参姜の言っていたとある種族がこの場に現れていない事が関係しているのかもしれなかった。


「ここまで案内してもらって感謝している、耶王美殿」


 ソフィがそう言って感謝を口にすると、耶王美はソフィに軽く会釈を行い、エヴィを一瞥した後に忽然とこの場から姿を消すのだった。


「それではここからは耶王美に代わり、この参姜が皆様をご案内させて頂きます。どうぞ、こちらへ」


 彼女はにこりと微笑みながらそう告げて、ソフィ達を屋敷の中へと案内するのだった。


 その表情はここに来る前に使者を行っていた時とは別人の様相であった。


 ……

 ……

 ……

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