1909.大魔王エヴィの告白
「い、いったい何があったのでしょう……?」
エイジを自分の膝の上に寝かせて介抱しながら、ミスズは静かにそう呟いた。
「クックック、このシギン殿がそこの人間に乗り移っていた『妖魔』を封じてくれたのだ」
ソフィはそう説明を行うと、ゆっくりと『エダ』という人間の元に近づいて行き、先程エイジにかけたように『救済』の『魔法』を再び試みる。
――が、すでにエダという人間の魂は存在しておらず、ソフィの『救済』でも目を覚まさなかった。
どうやら身体を強引に奪い取ったのであろう『斗慧』が乗り移った時には、エダ本人は精神ごと死んでしまったのだろう。
「『理』が生じる発動羅列が見えたが、それは死者を呼び戻す『魔法』なのだろうか?」
まさに興味深々といった様子で、ソフィの手元を見つめていたシギンがそう口にする。
「うむ。我の友人が生み出した『魔法』でな。魂がまだ残っている状態であれば、首が切断されていようが、四肢を失っていようが、即座に完全修復が行われて目を覚まさせる事が可能だ」
「素晴らしい……! 名はソフィ殿と言ったか? わ、私にもその『理』を教えてもらえぬだろうか? 私の頭の中にある知識だけでは、今の『魔』の効力を再現させられぬ!」
背が高い本来の青年の姿をしているソフィの肩にやすやすと手を置きながら、キラキラとした目を見せるシギンであった。
「おい、そんな事は後にしろよ。もう用事は済んだだろうが。さっさとあの王琳って野郎が用意している場所ってところに向かうぞ。てめぇら、ちっとは人を待たせているっていう感覚を持ちやがれ。ここにはお前達以外にも居るんだぞ?」
「むっ、す、すまぬ……。お主の言う通りだ」
「う、うむ……」
まずソフィに『神聖魔法』の『理』の使い方を乞おうとしたシギンが謝罪を行い、次にソフィがそれに続く形でヌーの言葉に頷きを見せるのだった。
やがてソフィが再びエイジに『救済』を行使すると、エイジはミスズに礼を告げて立ち上がった。そしてそんなエイジにミスズも軽く手を上げて応えると、気にしないで欲しいと口にして笑みを浮かべるのだった。
「それでは外に居るエヴィ達と合流して、王琳とやらの指定した場所を目指すとしようか」
「ああ、さっさと全部終わらせて『アレルバレル』へ戻るぞ!」
限界だとばかりにそう告げるヌーに、ソフィとテアは照らし合わせたかのように、同時に苦笑いを浮かべたのだった。
力の魔神も元の次元に戻る素振りを見せず、腕を組んで事の成り行きを見守っているシギンの横顔を睨みつけていた。
その魔神の視線に気づいたのか、ふとシギンも魔神の方を向いた。
「……」
「……」
互いに何も口にせず、魔神もシギンも互いの顔を見つめるのみであった。
しかしどちらも間違いなく、何か深い事を考えている様子なのは、真剣な表情を見せている二人のその顔からも読み取れるのだった。
……
……
……
ソフィ達が洞穴から外に出ると、入り口で待っていたエヴィ達が立ち上がってソフィの元へ向かってくる。
「ソフィ様! どうやら無事に用事を済ませられたのですね!」
「ああ、待たせて申し訳なかったな。少し予想外の出来事があって遅くなってしまった」
「気にしないで下さい! 僕も耶王美といっぱいお話が出来たので、丁度良かったと思っていたんです!」
にこにこと嬉しそうにしてそう告げるエヴィに、本当にこの耶王美という妖狐に気を許しているのだなと感慨に思うソフィであった。
「そうか。エヴィは本当に耶王美殿と仲が良いのだな?」
そう言ってソフィはエヴィの頭に手を置いて撫で始めると、エヴィは気持ちよさそうに目を細めながらソフィに笑顔を向け始める。
「はい! 耶王美を僕たちの世界へ連れて帰って、一緒に暮らしたいです!」
屈託なく笑いながらそう口にするエヴィにソフィだけではなく、言われた張本人の耶王美、そして敵としての大魔王エヴィという存在を知る大魔王ヌーも驚愕の表情を浮かべるのだった。
「え、エヴィ……! お、お前はさっき私にそれは出来ないって言ってたじゃないか……」
「え? それはこの世界でって意味だよ? 僕はソフィ様の元からは離れられないけど、耶王美がついて来てくれたら喜んで僕は君と一緒に居たいって答えてたよ! だって僕、耶王美の事を誰よりも大好きだしね!」
「うっ……!」
そのエヴィの裏表のない正直な告白に、顔を真っ赤にして背けてしまう耶王美だった。
「お前、本当に天衣無縫なのかよ? どっか頭でも打ったんじゃねぇだろうな?」
そう言ってソフィのように、エヴィの頭に手を伸ばそうとしたヌーだったが、その手を慌ててピタリと止めるのだった。
「勝手に僕に触ろうとするなよ、大魔王ヌー。殺すよ?」
「て、てめぇ……!!」
その殺意が込められた視線で睨みつけられたヌーは、やっぱり何も変わっちゃいねぇとばかりに手を引っ込めるのだった。
そしてエヴィが変わった風に見えたのは、耶王美がソフィと同様に特別な存在だったからであり、それ以外に関してはこれまで通りなのだと結論付けた大魔王ヌーであった。
「では、耶王美殿、すまぬが王琳殿の元に案内を頼めるだろうか? こちらの用事は無事に済んだのでな」
「は、はい。わ、分かりました! あ、あの……」
「ん?」
「あ、いや……、何でもないです!!」
耶王美は何かをソフィに告げようとしたが、咄嗟に王琳の顔を思い浮かべると同時に表情を元に戻して、何もないと言い直すのだった。
そしてソフィ達の会話が止むと同時、ガサガサと何やら近くの草むらで物音が聞こえた気がしたが、それに気づけた者は耶王美を除き、他に誰も居なかった。
……
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