1906.斗慧の目論み
シギンに詰められてだんまりを貫く斗慧だったが、まさか『鵺』の中でもごく一部の者しか知らされていない計画の内を単なる人間にここまで正確に言い当てられるとは思わなかった。
「どうやら図星を突かれて何も言えなくなってしまったようだな?」
どうにか逃げる方法は残されていないかと考えていた斗慧に、そうシギンが声を掛けてくるのだった。
「ちぃっ……!」
彼が誤算だったのは何も計画を知られているシギンだけではなく、この場に居る信じられない強さを有するソフィの存在と、鵺の中でも五指に入る程の力量を有する『斗慧』を『結界』に封印して見せる程の『魔神』の存在であった。
この洞穴で虚を衝いて、人間達を利用しながら黒羽に乗り移ろうと企んだ斗慧だったのだが、結局はそれも出来ずに『結界』に囚われてしまった。
(どうにかこの厄介な『結界』を解除させる手立てはないか? 一度でも『結界』から抜け出せれば、まだやり直せる……。何とか間近に居るあの黒羽の一瞬の隙をついて乗っ取る事が出来れば、盤面をひっくり返せる筈だ。それに俺にはまだ数多くの同胞達が残っているのだ。この山にはもう『妖魔神』の『神斗』も『悟獄丸』も『煌阿』も『翼族』も居ない。後は主力の抜けた『鬼人族』共と、王琳くらいなもの。ここさえ乗り切れば……!)
本来であれば、この卜部官兵衛の血筋と名乗る人間の言う通り、煌阿が『結界』を解かれて外に出てきた時点で数百年前から続くある計画が破綻した事を受け入れて、予備の計画であった『煌阿』という鵺を主に据えて、妖魔神である『神斗』と『悟獄丸』の代わりに『鵺族』を妖魔山の支配者にと考えていたのである。
すでにその予備の計画を進めており、計画を知る鵺達と結託した上で『煌阿』を矢面に立たせて、この山の支配における最後の障害である『王琳』と『妖狐族』との全面戦争を仕掛けるつもりだった。
その煌阿は居なくなってしまったが、それはそれで好都合であり、この場面さえ乗り切れば計画を知る同胞達と共に、煌阿の代わりに自分達が表舞台に立てばいいのだ。
煌阿を倒せる程の力を持ったソフィという存在の身体を奪えれば、まだ野望を現実に出来ると希望を抱く斗慧は、何とかして解除させられないかと思案を始めるのだった。
…………
(ふむ。こやつが煌阿と同じ鵺共の技法を用いていた事に加えて、先祖の『卜部』を知っていた事からその時代に居たという『翼族』とやらの話でカマを掛けてみたが、どうやら見事に憶測が当たったようだ。やはり煌阿の言う通り、私の先祖はこの山に生きる古参の妖魔共に多大な影響を与えていたようだな)
確かに判断材料としてそれなりに価値のあるモノも多かったが、あくまでそれは不確かな事実でしかなく、どうやら先程のシギンが自信満々に斗慧に告げた内容は、結局のところは全て彼の憶測で喋っていただけのようだった。
しかしそれでもシギンは、憶測で語りつつも都度斗慧の顔色を窺って話を進めており、煌阿が口にしていた言葉を繋ぎ合わせながら、可能性のありそうな話に筋道を立て進めていったのである。
そうして有り得そうだなと思えた話はどうやら現実のものであったらしく、シギンも最後の方は『斗慧』の動揺して狼狽する様子に、半ば確信を持って言い終えたのであった。
…………
「おいソフィ、目的だった人間も無事に救出したんだ。もういいだろう?」
元々エヴィを見つけるまでの約束だったヌーにしてみれば、今回のシギン救出はあくまでおまけであり、用事が済んだ以上は、さっさと妖狐と合流して話を進めろとばかりにこの場でソフィに催促するのだった。
「むっ、そうだな。しかしこやつはどうする? ここにこのまま置いておくわけにもいくまい?」
そう言ってソフィは、精神体である『斗慧』の方に視線を向けるのだった。
「ではお主らの代わりに私が引き継ごうか? 私であれば『空間』を用いてこの場から運ぶ事も可能だが」
「むっ、そういえばお主は『時魔法』の『理』を得ておるのだったか?」
「流石にお主らは『理』の存在の事も知っていたか。私であれば『次元の狭間』を利用して移動させる事も可能だ」
「そういえば、てめぇには色々と後で聞かせてもらいたい事がある」
「おい、ヌーよ……」
「構わぬ。主らには世話になったからな。私に分かる範囲であればお主の疑問の解決に協力しよう」
遠慮なしに初対面のシギンにそう告げたヌーだったが、当人のシギンは気にした様子もなくそう答えてくれるのだった。
「すまぬな……。それではこやつの事だが、このまま魔神の『結界』を用いていてはお主に不都合があるのだろう?」
「ああ、出来れば一度『結界』を解除しておいて欲しい。色々とお主の『結界』は特殊で干渉が激しそうだからな」
魔神の使っている『結界』は下界には存在しないものが使われている。このまま天上界の『結界』を展開したままでシギンの『空間魔法』を用いて『次元の狭間』を経由すれば、色々と面倒な事になりそうだとシゲンは告げるのだった。
「分かった。それでは『魔神』よ、こやつの『結界』を解除してくれ」
「――」(分かったわ)
ソフィの言葉を受けてじっと値踏みをするようにシギンを見ていた魔神だが、やがてその目をソフィに移しながら頷くのだった。
(しめた! 白い奴が何を言っているか分からなかったが、どうやら話の流れ的に『結界』を解除するつもりのようだ。この機を逃す手はない……!)
どうやら自身の扱う『真鵺』の編み出した技法を用いれば、隙をついてソフィの身体を乗っ取り、後は白い存在の『結界』にさえ気をつければ、この場を上手く逃れられるだろうと算段をつけた様子の斗慧であった。
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