1905.斗慧達の策略と目的
エイジやゲンロク、そしてソフィと会話を交わしたシギンは、そのまま視線を『結界』に閉じ込められている斗慧の方へ移した。
「さて、お前からは色々と話を聞きたかった。先程お前は『斗慧』と名乗っていたな。その名は我々の代の妖魔召士達の間でも知らぬ者は居ない程に有名だった」
「で? それがどうかしたか?」
すでにその話は別の妖魔召士から耳にした為、斗慧は同じ話を聞かされても何とも思わなかった。そして明らかにその先の話をしようとしている妖魔召士の態度に斗慧は、さっさと話せとばかりに目と口で先を促したのであった。
「お前はそこで倒れている人間と契約関係にあったと口にしていたが、契約内容はとある妖魔召士を殺害する事にあったのではないか?」
「何……?」
どうやらそのシギンの質問の内容は斗慧にも予想外だったらしく、これまでは興味なさそうにしていた斗慧だが、この質問を皮切りにその目に光を宿らせるのだった。
「今から数十年程前の話になるが、当時の妖魔召士組織に属する若い妖魔召士数名が、この山に生息する名だたる妖魔を禁術で従えて、その当時の組織を束ねる長を殺害しようと目論んだ。そこに倒れている『エダ』という人間は、その時の組織の『改革派』の妖魔召士だ」
「それで……?」
「これは私自身が最近に知った話ではあるが、お前達『鵺』の中にはとても『魔』の概念に優れた個体が居るのだろう? そしてそんな奴らは種族としての『魔』の技法である『呪い』や『呪詛』を扱うだけではなく、自身の『魔力』の一部を他者の『魔力』に交ぜ合わせる事で憑依を可能とし、強引にその相手の身体を奪い、精神すら支配する。お前はそうして『改革派』の妖魔召士から契約の取引を持ち掛けられたが、実際には契約を交わさずにその人間の身体を奪い、妖魔召士組織に潜り込んでいたのだろう?」
「中々面白い考察をするじゃないか。確かに俺はその人間の身体を乗っ取ったが、残念ながらお前の考えている妖魔召士の長だとかいう人間を殺めてはおらぬぞ?」
「それは分かっている」
「何?」
「実際にお前はエダの契約に応じるつもりは毛頭なかったのだろう? 単にお前の本来の目的に妖魔召士の身体を奪う事は都合が良かったから乗り移ったといったところか」
「俺の本来の目的?」
「お前はこれまで卜部官兵衛の手によって封印された『煌阿』を外に出さぬように、卜部官兵衛の『結界』の解除を行えそうな、有望な妖魔召士の元に奪った身体で近寄って殺害をしていたのだろう? そして今一番組織の中で可能性のあった『イダラマ』と『コウエン』が『妖魔山』に入り込むという情報を掴み、エダの身体を利用して潜り込んだ。しかし山を登る途中で王琳に見つかってしまい、事に及ぶと王琳の同胞の妖狐共に情報を漏らされると判断して今回は殺害を断念したといったところだろう?」
「お、お前は一体何を根拠に、そんな事を――」
斗慧は図星だったのか焦った様子で何かを告げようとしたが、それを言い終える前にシギンが更に言葉を被せる。
「計画の立案者は『翼族』か? それともお前がさっき使った技法を編み出した『真鵺』の命令か?」
「!?」
斗慧は弁明しようとしていた口を閉ざしてしまい、絶句した様子でシギンに視線を向けたのだった。
「その様子を見るに、どうやら図星だったようだな?」
呆然とシギンを見ていた斗慧は、その言葉に我に返ったかと思うと、忌々しそうに眉を寄せながらシギンを睨みつけた。
「貴様、一体何者だ? 何故、翼族や真鵺の事まで知っている?」
「私はお前たちが長らく探っていた卜部官兵衛の血筋の者だ。お前達は『煌阿』を謀り、私の先祖である卜部官兵衛と争わせて殺害、若しくは大怪我を負ったところを闇討ちでもしようと企んでいたのだろう。煌阿を狙った理由としては、力をつけすぎた奴を邪魔に思って始末したかったといったところか?」
「……」
「本当ならば煌阿を始末したかったところだろうが、先祖の卜部官兵衛でさえ『魔』の概念に長けた煌阿を仕留める事は出来ず、この洞穴に『結界』で幽閉される事となった為に、お前達は計画を企てた『翼族』から情報が漏れるのを恐れて『翼族』共を手に掛けて、お前たちでは敵わぬ妖魔神の『神斗』を煌阿に始末させようと計画を変更したといったところか。そして最終的に神斗達の代わりにお前や真鵺といった『鵺族』が妖魔山を支配しようとしていたといったところじゃないか?」
シギンの言葉に何も反論をせず、黙って睨みつけ続ける斗慧であった。
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