1895.少しずつ変わっていく大魔王達の関係性
十戒の元に王琳の眷属の『三尾』が遣わされる少し前、ミスズから出された条件を呑んだ王琳は、この山の古参の妖魔達を集わせる為の手筈を整え始める。
元々この場に居た五尾から八尾の妖狐達だけではなく、新たに一尾から四尾までの妖狐達も王琳の命令で集められていた。
七耶咫や五立楡に六阿狐が真剣な表情で、王琳と共に今後について話し合っている最中、耶王美だけはエヴィと共に歓談を行っていた。
先程のエヴィと耶王美の合図のやり取りや、何をするにも互いを慮っている姿を見た王琳から、お前はソフィの側近と自由にしていてよいと命令が下されて、今後の手筈を整える為の妖狐達の会議から外れたのだった。
これはエヴィと居る事に楽しそうな在り様を見せる耶王美へ王琳なりの配慮だった。
王琳も長らくこれまでの生涯を共にしてきた耶王美の気持ちを理解はしていたが、今更自分の生き様を変える事も出来ず、また変えるつもりもない王琳は、その耶王美の気持ちを理解していて尚、仕方ないと割り切って過ごしていた為、自分が一戦交えたいと考える相手の配下と非常に仲のいい様子を見た王琳は、彼女の大事な時間を少しでも長く過ごさせてやろうと考えたのである。
そしてソフィもまた再会の時には、長くエヴィと共に言葉を交わし合い、抱擁を交わして喜んだが、そんな配下にずっと視線を送りながら見守っている耶王美の姿に気づき、こちらもまた王琳と同様の気持ちを抱いて二人きりにさせてあげたのだった。
今もエヴィは再会出来た事を心の底から喜んでいるのだと、耶王美に必死に伝えながら胸中を明かしており、その様子を自分の事のように喜びながら、彼女は優しくエヴィの頭を撫でていた。
「てめぇとの再会を喜ぶ事は予想していたが、あの女は一体何なんだ? エヴィの野郎があんな風に他者に気を許すところを俺は見た事ねぇぞ」
「クックック、ヌーよ。それは我もだ。どうやらこの世界で奴も気の置けない仲間というモノが出来ていたようだ」
「てめぇら魔王軍と戦争を起こしていた時、俺は『九大魔王』の中で奴が一番厄介だと思っていた。てめぇを除いて殺しても死なねぇだろうなと思えたのは、これまででミラの野郎と奴くらいだったからだ。世の中の不幸を全て抱えているっていうような表情を浮かべながら、俺の部下共を呪い殺しまわっていたあの野郎が、今じゃこんな朗らかに笑っているとはな。全く信じられねぇよ」
アレルバレルの世界に居る魔族の中でも、このエヴィの事を敵としてよく知っていた大魔王ヌーは、本当に同じ野郎なのかとばかりに疑惑の目をエヴィに向けるのだった。
「クックック! ヌーよ、それはお主にも言える事なのだぞ?」
「あ? そりゃどういうこった?」
「我から直接聞かずとも、お主にも自覚があるだろう? なぁ、テアよ?」
「ちっ! まぁ、そう言う事にしておいてやるよ」
「――」(何々? ソフィさん私に何て言ったの?)
「うるせぇよ! お前はいつも通りそこらをうろつきながら、ぴゅーぴゅー口笛でも吹いていやがれや」
「――」(何だよ! それじゃ私が空気が読めない奴みたいじゃないか!)
「あーもう、うるせぇ、うるせぇ!」
「――」(なんだとー!)
ヌーとテアが仲良く口喧嘩をし始めたところを眺めながら、ソフィはリーネとの『セグンス』にある自分の屋敷でのやり取りを思い出すのだった。
(テアとリーネの奴は、何処となく雰囲気が似ておるように思う。他者から見ればこのように我の事も映っていたのだろうか?)
リーネとのやり取りを思い出して少しばかり感傷的な気分になったソフィだが、そこで仲睦まじく会話を交わしていたエヴィ達がこちらを見ている事に気づいた。
「むっ、どうかしたのか?」
「あ、えっと……。この先にある洞穴の中で人間が『結界』に囚われながら閉じ込められているって耶王美に教えてもらったんですけど、少しだけ確認をしにいってもいいかをソフィ様に尋ねようとしたら、凄くソフィ様が切なそうな顔をされていたんで、何かあったのかなって……!」
何処かオロオロとしながらエヴィは、ソフィを心配そうに見つめながらしどろもどろにそう話すのだった。
「ふむ……。少し我の妻の事を思い出しておったのだ。気を使わせてしまってすまぬな。それでまだ人間がこの山に居るのか?」
「つ、妻……!? ちょ、ちょっと待ってください、ソフィ様! いつソフィ様はお妃様を娶られたのですか!?」
そういえば『リラリオ』の世界で起きた色々な出来事をまだ、エヴィには話していなかったなと考えるソフィであった。
「うむ……。勇者共に『リラリオ』の世界に跳ばされた後にな。まぁその話はまたゆっくりとお主にも話そう。今はお主らの言っていた人間の方を優先したい」
どうやらこの妖魔山に人間が囚われていると聞いたソフィは、何とか助けてやりたいと考えたのだろう。案内をしてくれとエヴィに伝えるソフィであった。
「わ、分かりました。それじゃ耶王美、そのシギンって人間の元へ案内してくれる?」
「ちょっと待ってね、先に王琳様に事情を伝えてこないと」
そう言って王琳の元へと歩き出した耶王美の背中をソフィ達が眺めていると、先程までエイジと何やら話をしていたゲンロクが血相を変えながらこちらへ向かってきた。
「そ、ソフィ殿! 先程の話は真か! シギン様が居られる場所が分かっているのならば、ワシ達も連れて行ってくれ!」
「うむ。お主らの事情は集落で聞いておる。それにその『結界』に囚われているという人間が無関係とは思えぬからな。我と共についてくるがよいぞ」
「かたじけない、ソフィ殿!」
「す、すまぬ!」
王琳に報告に行った耶王美がソフィ達に向けて笑顔で頷いたのを見て、この後に向かう場所が決まったソフィ達であった。
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