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1894.妖狐族の王琳の強制召集

 人間達が定めた『妖魔山』の禁止区域には、すでに過去の調査で明るみとなった山の中腹までとは異なり、まだまだ多くの未開の地が存在しており、そこにはこれまで妖魔召士達が見た事もない妖魔の種族達も数多く居る。


 そんな種族の妖魔達はあえて表舞台に立つような事をせずに、これまではひっそりと目立たぬように過ごしていた。


 もちろん『神斗(こうと)』や『悟獄丸(ごごくまる)』といった妖魔神達に命令をだされる事があれば、彼らも仕方なく動く事にはなっていたのだろうが、(つい)ぞそんな命令が出される事はなく平和に今日を迎えていた。


 ――しかしそんな彼らの元に『王琳』の遣いが現れ始める。


 それも単なる妖狐による招集ではなく、それぞれが『王琳(おうりん)』の()()()()を持った妖狐達による強制の意味のある『召集』が行われたのである。


 妖狐族の長である『王琳(おうりん)』には、最側近である『耶王美(やおうび)』や『七耶咫(なやた)』だけではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 当然そんな眷属たちには王琳から直接名付けが行われており、かつては天狗族に鬼人族、それに翼族や鵺族達を相手に、王琳と共に妖魔山の支配を目論んだ事もある古参の『妖狐』達である。


 すでに表舞台から去った当時の時代を知る妖魔達のもとに、再びそんな王琳の眷属たちが現れた事により、召集を掛けられた種族の代表達はただ事ではないと誰もが懸念を抱いた。


「――これは王琳様からの正式な召集である」


「王琳殿……か。どうやら今回の出来事に大きく関与する内容のようだな」


 額に目のあるその種族の長は、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべて、遣いの三尾の妖狐に向けて呟いた。


「これが召集場所を記した紙だ。この紙自体がお前達が召集を認められた資格証書と思え。失くせば『三目妖族(みめようぞく)』は今後、この山での存在意義を失う事になる。それを努々忘れぬよう注意されたし」


 一方的にそう告げた『()()』の妖狐は、使者としての役割を果たした後に『三目妖族』の長の会話に付き合うことなく忽然とその場から姿を消すのだった。


「くっ……! 今更ワシのところにまで遣いを送るという事は、王琳殿は山の全域に一斉召集を掛けたのであろうな。これは面倒な事になったわ……」


『三目妖族』の長である十戒(じっかい)は、この場から去った三尾の妖狐の居た場所を見ながら溜息を漏らすのだった。


『王琳』が遣わした場所に居る種族は、単に『妖魔山』に生息しているだけの種族達ではなく、過去に三大妖魔にまでは届かずとも、古くからこの山にそれなりの影響力を持つ妖魔達であった。


 そもそもが人間達が立ち入る事が出来ぬ程に強力な妖魔達が生息する『禁止区域』の中なのだから、ここに居る者達がどのような種族であっても、ランク『8』を下回る事のない妖魔達で間違いない。


 ――そんな高ランクの妖魔達だからこそ、妖狐の『王琳』の召集には逆らえない。


 天狗族、鬼人族、妖狐族、鵺族、翼族とこの『妖魔山』に絶大な影響を与えた種族達の中でも、一際目立っていたのが、王琳が率いる好戦的で手がつけられない『妖狐族』だった。


 恐ろしい事に種族間同士の戦争が始まり、妖狐族と直接敵対関係となった過去の種族の長達は、その全てが首を刎ねられて絶命を果たしている。


 一度戦争が勃発してしまえば、まず王琳が種族の代表である長を仕留めて、その種族の幹部や長の側近についている者達を四六時中追い回して殺害を繰り返していき、その種族の中である程度の決定権を持つ程の幹部を一体だけ残しておき、全面降伏か種族の絶滅の二択を迫るのである。


 妖狐族には決まった縄張りというものをもっておらず、普段は王琳達が山の何処に生息しているのか、同じ妖魔山に住む妖魔達にもよく分かっていない。


 そして報復をしようにも『妖狐族』が普段は何処に潜伏をしているのか分からず、そういった空気を妖狐達に知られてしまえば、逆に報復を行おうとした種族に、昼夜を問わずにどれくらいの種族数が居るのかすら分からぬ『妖狐』達が、一斉に襲い向かってくる。


 妖狐の数は定かではないといっても、その長である『王琳』は『妖魔神』達と遜色のない強さを持っている事は間違いなく、更に彼の直属の眷属である『一尾』から『八尾』達もそれぞれが『眷属』を有していると、一部で囁かれており、戦争となれば一体どの眷属の『妖狐』にやられたのかすら分からぬままに、目を覆いたくなる規模の襲撃が、種族の降伏宣言をするまで行われ続ける事になるのである。


 何より恐ろしい事はこの『妖狐族』の長である王琳が、実際の寿命がどれ程なのかが分かっていない事にある。


 最側近である『耶王美』や『七耶咫』、それに神斗といった妖魔神は、王琳が転生を繰り返す事で新たな身体だけではなく、寿命そのものも再び一から数えられていく事を知っているが、他の種族の者達は、身体だけではなく寿命も新しいものだとまでは想像出来なかったようである。


『妖魔山』の中でも古参の種族である『三目妖族』の十戒でさえ、まだ彼自身が生まれて直ぐの頃にはもう『王琳』という妖狐は山で暴れまわっていたくらいだというのに、今の『王琳』はその暴虐の限りを尽くした時よりも遥かに強さを増した状態で、十戒より遥かに若い年齢の状態で生存しているのである。


 王琳からすればもう『神斗』や『悟獄丸』、それに『煌阿』や『真鵺』を除けば、この『妖魔山』に生息する妖魔達は自分より遥か年の若い子供のような感覚だろう。


 つまりは古参の種族であればある程に、王琳という『妖狐族』の恐ろしさを十二分に理解しているというわけである。


 なにより困るのが今回の彼らのように、何の前触れもなく唐突に使者が遣わされて召集が行われる時である。


 過去にも同じ召集が行われた時は、十戒らと同様に『妖魔神』である筈の『神斗』や『悟獄丸』も王琳の召集に応じて参加させられていた時もあり、そんな『妖魔神』が参加するような召集を他の種族の代表が辞退するわけにもいかないのは当然の事である。


 過去に現実のものとしてあった恐ろしい事が、妖魔山に生息する妖魔の種族間戦争が行われていた時に、その戦争を行っている張本人たちが、同じ場所に集められた事があったのだ。


 互いに刺し違えてでも相手の命を奪おうとしている者同士が、同じ場所に居るというのに当然ながら彼らは手が出せない状況に追いやられた。


 いくら恨みや憎悪を抱いて戦争相手を殺したいと願っていても、そこで先に手を出してしまえばその召集に参加した『妖魔神』達や、召集をかけた張本人である『王琳』の顔に泥を塗ってしまう。


 そんな事になればいくら戦争相手に勝てたとしても、もう妖魔山に居る事は出来なくなる。


 ――それ程までに『王琳』の正式な召集は重く、絶対参加が義務付けられているのであった。


 今回の召集は前回からそれなりに時が経っており、凡そ数百年ぶりといえるものであったが、 『三目妖族』の元にも直近の諸々の出来事の情報は届いている。


 だからこそ十戒は非常に嫌な予感を抱きつつも、その紙に書かれた召集場所を目指し始めるのだった。

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