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最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。  作者: 羽海汐遠
妖魔山編

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1910/2216

1893.人間と妖魔が交わした固い握手

 ミスズは自分が言い終えた後、どういう結論を下すのかとばかりにシゲンの表情を窺い見たが、そのシゲンは自分を見ておらず、ソフィが居る方向へと視線を伸ばしているようだった。


 慌てて彼女もシゲンの視線の先を追いかけると、そこにはソフィとエヴィだけではなく、とある一体の妖魔が彼のもとへと近づいてきているところであった。


 …………


(総長は一体何を真剣にご覧になられてい……!?)


 ミスズが胸中でそう疑問に思い始めた頃、ソフィのもとに近づいてきていた王琳が、驚くような言葉を吐くのだった。


「ここにいる連中はお前がその少年を探す事に全面的な協力を申し出ていた。つまりこれでお前の目的は達成したのだろう? では次はこちらの目的を果たさせてくれないか?」


「それはここに来る前にしっかりと伝えていた事だろう? あくまでシゲン殿は我の私情を優先してくれたに過ぎぬのだ。本来はこの山の調査が優先事項にあった。お主が我と戦いたいという気持ちは分かっているが、まずはシゲン殿たちの調査を終わらせてからにしてもらおうか」


「……」


 そのソフィの言葉に王琳は直ぐに言い返す真似をせず、腕を組んでじっくりと何かを思案し始めるのだった。


 …………


「ミスズ、これは好機(チャンス)かもしれんぞ」


「え!?」


「ソフィ殿の仲間を無事に見つけられた以上、あの妖狐は直ぐにでもソフィ殿と戦いたいと考えている筈だ。それは今の会話でも察する事が出来るだろう?」


「は、はい……。しかしどうやらソフィ殿は我々を慮って下さるつもりのようでしたが……」


「ああ。元々はこの妖魔山での作戦の第一優先は我々の山の調査だった。そこをソフィ殿の仲間の捜索を優先させたのは、我々とゲンロク殿にエイジ殿たちだ。つまりこの時点でソフィ殿の中では次の優先対象は我々の調査と考えてくれている。つまりあの妖狐が如何に自分達を優先してもらおうとゴネたところで、あのソフィ殿が話を覆す真似をするとは思えない。それは短い間であったとはいえ、あの妖狐も一緒に居て理解している筈だ。つまりは我々が少しばかり高い要求を妖狐に突きつけたとしても高い確率で従う筈だ」


「なるほど。あの妖狐がソフィ殿と戦いという気持ちが強ければ強い程、我々の要求にも応えてくれるというわけですか」


 ようやくシゲンの言葉に納得が出来たのか、ミスズは口元に手をあてながら頷きを見せるのだった。


「後はあの妖狐の影響力がこの山で何処まであるかによるが、少なくともこれまで奴に付き従っている女妖狐達の強気な態度と、我々が戦った『禁止区域』に居た妖魔共の低姿勢な態度を省みるに、王琳という妖狐の存在感は相当なモノである筈だ。ここは我々も一切譲歩などせず、提案は強気に出た方がいいだろうな」


「仰る通りです。最初に口にする言葉が我々との今後の話し合いの焦点となり、主軸となるでしょうからね」


「ではミスズよ、()()の方を頼むぞ」


「御意!」


 …………


『王琳』が思案顔を浮かべている間、シゲンとミスズがこそこそと話し合っている様子と、その話の内容までもが『魔族』としての耳を持つソフィや、考え事を行っていた妖狐の『王琳』にも伝わっていた。


 実は王琳の思案の方は直ぐに終えていたのだが、シゲン達がコソコソとこちらを見ながら何かを口にしていた為、あえてそのまま長考する演技を続けながら、シゲン達の話の結論が何であるかを探っていたのであった。


「少し良いでしょうか?」


 まだ思案を続けている様子を見せている王琳と、じっとその王琳に視線を送っていたソフィの元へ、新たな提案を口にしようとばかりにミスズは、シゲンの言伝を届けるのだった。


 ……

 ……

 ……


「なるほど。つまりお前らは俺に、()()()()()()()を務めろと言いたいのだな?」


「ええ、その通りです。ここまで同行を共にしていた事で、貴方がたが如何にこの山に影響力を持っているかをある程度は知る事が出来ました。我々の調査に是非協力をして頂きたい。これは二体居たとされる妖魔神たちが居なくなった事で、我々は貴方にしか託す事が出来ない内容であると判断しています」


「ふむ……。耶王美(やおうび)七耶咫(なやた)、お前達はどう思う?」


「私はそこに居る人間達に協力すべきだと具申しますわ」


 唐突に王琳(おうりん)に話を振られた妖狐の二体の内、まず最初に答えたのは王琳とエヴィの傍に立っていた耶王美だった。


「その理由は?」


「貴方の一番大事な目的を達する為には、必要な事だと考えたからですわ」


 耶王美はしっかりと王琳に伝えた後、エヴィに微笑みかけながら片目を閉じて合図を送るのだった。


 勿論王琳の事を考えての発言ではあったのだろうが、耶王美は同類と認めているエヴィの事も考えて、分かりやすい話にしてくれた様子であった。


 その耶王美のウインクを受け取ったエヴィは、嬉しそうに耶王美とは反対の方の目を閉じて合図を返した。


 まるで長年付き添った夫婦のように分かり合っている様子を見せたエヴィ達に、王琳は少しだけイタズラを覚えた子供のような笑みを浮かべて見せるのだった。


「確かにそうかもしれないな。七耶咫は?」


「は、はいっ! 私も耶王美様と同じ気持ちです。それに私もここまで同行してきた人間達の様子を見ていて感じた事ですが、この者達は山に生きる我々に悪意を持っていません。あくまで自分達の人里を守ろうと純粋な気持ちで提案していると判断が出来ました!」


 ウガマや今も眠ったままのイダラマ、そしてコウエンの同志達の方を順次見た後、ここに来るまで眼鏡をかけていたミスズ達に視線を向けながら七耶咫はそう言い切るのだった。


「お前達の気持ちは分かった。お前達がそう言うのであれば、人間共の提案を呑んでやろう。しかしあくまで俺は『妖狐』という山に生きるいち種族の代表に過ぎぬ。神斗殿や悟獄丸殿のような妖魔神ではないのだから、過ぎる信頼を寄せられても困るぞ? そもそも天狗共と親交のあった種族や、神斗殿達を慕っていた種族も多いのだから、俺が如何に圧力をかけたところで怨恨そのものを抑えられるとは限らぬのだからな」


 この王琳の言葉には、特に『鵺』の一族の存在を仄めかされているのだった。


呪い(まじな)』を得意とする『鵺』は、その恨みや不幸に対して『()』や『()』の気持ちを孕んだモノを『呪い』に込めてぶつけてくる。


 いくら王琳という山に存在感を示す事の出来る『妖狐』が圧力をかけたところで、表立っては何も出来ないとしても裏の部分全てにまでその影響を届けられるとは限らないのだ。


 ――しかしそれでも実際には、今の王琳に逆らえる者も少ないのは事実である。


 この場に現れた『本鵺(ほんぬえ)』『悪虚(あうろ)』『吏伊賀(りいが)』と呼ばれる妖魔神に全幅の信頼を寄せていた妖魔は、すでにシゲン達によって討たれており、その鵺の代表であった『煌阿(こうあ)』や『真鵺(しんぬえ)』も居なくなり、三大妖魔であった天狗族はソフィによって種族そのものが絶滅し、鬼人族は代表である玉稿に百鬼、そして集落に居る者達もソフィや人間達を信用している状態にある。


 そんな中で現存する三大妖魔の中で、唯一『妖魔神』になり得た可能性のあった『妖狐』の種族の代表である王琳が人里を襲うなと一声掛ければ、山に生きる妖魔達は色々な思惑を抱きつつも、結局は大人しく従わざるを得ないだろう。


「結構。それでは貴方の協力を以て、我々の今回の山の調査という任務は完遂という事に繋がります。要求を呑んで頂いた貴方に多大なる感謝を」


 そう言って妖魔退魔師副総長ミスズは、妖狐の代表である王琳に向けて手を差し伸べるのだった。


「ふんっ、お前達人間に協力するのはそこに居る『ソフィ』と戦う為だ。そこだけは間違えぬようにな? もしそこを違えれば、後世に生きる者達が後悔する事になるぞ」


「ふふっ、それは恐ろしい事です。では貴方が約束を守る事の出来る妖魔として、しっかりと後世に伝えられるように努力をさせて頂きたい」


 その強気な言葉に王琳は、ここにきて人間である『ミスズ』を認めるような視線を送ったかと思うと、その差し出された手を握って握手を交わすのだった。


 ――そして固く結ばれたその握手は、これまでの『ノックス』の世界にはなかった妖魔と人間の結びつきとなる第一歩だったとして、後世に広く伝わっていく事になるのだった。

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