185.レイズの頼れる姉
※加筆修正を行いました。
ヴェルトマーが纏っている『淡く青い』オーラを『レドリア』は、これまで見た事がなかったが鬼のような形相をしているヴェルトマーを見た事で、もはやそれどころではなかった。
「……貴方、どういうつもり?」
余りのヴェルトマーの恐ろしい形相に、レドリアは冷静さを欠いてしまい何の事を言われているのか分からなかった。
そして先程の渾身の超越魔法の事を言っているのだろうかと考えて、確かに味方の拠点で放つ規模ではない魔法を放とうとしたのだから怒られても仕方がないと思考は到達点を迎えた。
そして彼女が出した謝罪の言葉は――。
「――すみません、魔法を選ぶべきでした!」
だがレドリアが顔をあげてヴェルトマーの表情を窺がうと、何言ってんだコイツ。と今にも言い出しそうに眉を寄せて彼女はこっちを見ていた。
「え?」
次の瞬間にはヴェルトマーから高速のチョップが、レドリアの額に振り落とされるのだった。
「あ、あいたぁっ!!」
レドリアは目から星が出たような気がするほどの激痛で、その場で額を押さえながら蹲った後に何をするんだとばかりに、ヴェルトマーの方に再び視線を向ける。
「あいたぁっじゃない! あんたは何で私が怒っているのかも分からないの!?」
ヴェルトマーが闇夜に響き渡る程の声で、レドリアを怒鳴りつけるのだった。
「!?」
レドリアは痛みとヴェルトマーの叱咤の勢いでパニックになってしまったようで、咄嗟に口から言葉が出てこない。
「あのね? もうすぐここにラルグ魔国の馬鹿どもが大量に来るのよ?レドリア……、『軍を退役した貴方』が、どうしてここに居るのかと聞いているの!」
「!」
レイズ魔国No.2の『ヴェルトマー・フィクス』が一介の魔法部隊の私の名前を。更に言えば退役していると知っていた事に彼女が驚いていると、決定的な言葉を投げかけられた。
「大方、貴方一人で『エルダー』の敵討ちでもしようとしていたのでしょう?」
「ど、どうしてそんな事まで……!?」
「私はこの国の『フィクス』よ? 軍に所属する者の全ての顔と名前を憶えているわよ! そして貴方が誰よりも『エルダー』の事をとても慕っていたこともね」
自らが大怪我をして昏睡状態に陥っている間に軍を退役させられていたならば、慕う上司の為にレドリアが仇を討つという事をヴェルトマーは察していたのだろう。
そして馬鹿な部下の暴走を止める為に、ヴェルトマーはこの場に現れたのである。
「そ、そこまで分かっておいででしたら、私の気持ちも分かっておられる事でしょう?」
エルダーの事を思い出したのだろう。レドリアは再び復讐者の目に戻しながら、ヴェルトマーにそう告げる。
「そうね……。仇を取りたい貴方の気持ちは分かるわよ」
その言葉にレドリアは頷きを見せる。
「だけど残念ながら、貴方のその敵討ちは認められないわね」
脊髄反射で反論をしようとするレドリアより先に、ヴェルトマーは右手を天に翳した。
――超越魔法、『終焉の雷』。
「えっ?」
天空に雷鳴が響き渡ったかと思えば、いつの間にかこの拠点に迫っていた数百のラルグ魔国兵が、今のヴェルトマーの無詠唱魔法によって一気に爆発四散した。
「貴方が敵討ちをする事は私は認めない。その代わり必ず私が貴方の代わりに、エルダーの仇は討ってあげるからそれで満足しなさい!」
反論は許さないと言う確固たる決意をしたヴェルトマーの目を見て、レドリアは唇を噛み締めながら、葛藤の末に頷いて見せたのだった。
――次の瞬間にヴェルトマーは、レドリアを抱き寄せて頭に手を乗せて撫で始めた。
「いい子ね。後は私に任せて貴方は貴方の道を見つけなさい。探しても探してもそれでも尚、見つけられなかったら、もう一度私に会いに来なさい? 私が最後まで貴方の面倒を見てやるわ」
そう言って屈託のない笑みを浮かべて、ヴェルトマー様は言い放った。
ぽたり、ぽたりと私の両目から涙がとめどなく流れた。
しかし先程までと違い、私の顔には悲壮感が漂わず、嬉しくて仕方が無い泣き顔が浮かんでいた。
どうやら私は自分のこの気持ちを誰かに知ってもらいたくて、理解して欲しかったのだろう。
そんな彼女の気持ちを理解してくれたヴェルトマー様は、私が泣き止むまで優しく優しく撫でてくれるのだった。
――そしてこの時から、私は固く決心する。
死が分かつその日まで、この御方の為に忠誠を尽くす事を。それこそが私の残された道だと信じて――。
※レドリアはこの日から、自分の道はヴェルトマー様に繋がる道として生涯の目標になりました。
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