1892.再会と抱擁
「ようやく見つけた。エヴィよ、よくぞ無事でいてくれたな……」
「そ、ソフィ様……!!」
エヴィは耶王美の手を優しく解くと、その場に片膝をついて主であるソフィに『九大魔王』達の礼を取ってみせるのだった。
「そのような真似をせずともよい。さぁ、もっと我にお主の顔を見せてくれ」
ソフィはエヴィにそう声を掛けると、エヴィと抱き合い優しく彼の背中を叩いた。そしてエヴィもまた、ソフィとの再会に涙を流しながら喜ぶ姿を見せるのだった。
…………
「やれやれ……。これでやっと俺も無事に解放されるぜ」
「――」(ふふっ、そんな事を言って本心では、ソフィさんと別れるのが惜しいって顔をしてるように見えるぜ?)
「あ!? んなことあるわけがねぇだろうが!」
ヌーはその揶揄うようなテアの言葉に、彼女の頭に手を置いたかと思うと、桃色の髪をわしゃわしゃと搔き乱すのだった。
「――」(わぁっ!? 何をするんだ、やめろよぉ!)
テアは慌てて頭を抱えたまま、ヌーの手から必死に離れるのだった。
「総長、ひとまずソフィ殿の件は、これで無事に片付いたようですね」
「ああ。しかしまさかあの時の少年が、ソフィ殿が探していた人物だとは思わなかったな」
ソフィ達が再会を喜び、その近くでヌー達の見守りたくなるようなやり取りを眺めながら、シゲンとミスズは会話を交わし始める。
「はい。もう少し早くソフィ殿達と出会っていたら、ここまで色々と複雑な状況にはならなかったのですがね」
「まぁ、そう言うな。その色々と複雑な事情があったからこそ、我々はこうして妖魔山に入る事が出来たのだ」
「はい、仰る通りです」
ミスズは眼鏡を上げる癖が出そうになり、そこで自分が眼鏡をかけていない事に気づいて、少しだけ照れた様子を見せながら手を下ろした。
そのミスズの仕草を盗み見ていたシゲンは静かに微笑むと、空を仰ぎながら小さく息を吐いた。
(あれがソフィ殿の持っている力か。先程の戦闘で妖魔神はどうにか出来そうに思えたが、どうやらソフィ殿だけは今の俺でも勝ち目はなさそうだ。あれでまだ本気ではないのだとしたら、いったいソフィ殿は普段からどれ程の力を隠しているのだろうか? ふふっ、もうこの妖魔山よりもよっぽどソフィ殿の方に関心を抱きそうになってしまうな……!)
妖魔退魔師組織の総長であるシゲンは、内心でそう考えると目をギラつかせながら、エヴィと再会の抱擁を交わしているそのソフィの背中を見つめるのだった。
「しかし総長、この後の事が少し心配になります。実は総長はエヴィ殿の捜索に協力する形であの妖魔神を捕縛しようと目論まれているのではないかと考えていたのですが、あのように絶命してしまってはそれも出来ませんし、何より妖魔神を利用したこの妖魔山に生きる妖魔達への抑止にも使えなくなりました。それが何より私は懸念に思っています」
ソフィを見ていたシゲンは隣に立つミスズの言葉を聞いて、やはり自分と同じ考えを持っていたかとばかりに、その視線をミスズに移すのだった。
「仕方あるまい。すでにここでの戦闘は山に居る妖魔共にも伝わっているだろう。そしてこの日を境に妖魔神の存在が消えたとあっては、我々がその原因なのだと奴らも察する筈。奴らはきっと近い内に俺達人間に報復しようと動き出すだろう。ミスズよ、ここからが我々の本当の正念場となるぞ」
「はい……。出来れば妖魔神を捕縛した後に説得して、彼の解放を条件に人里への妖魔の侵攻を抑制してもらいたかったところですが、仕方ありません」
ミスズはシゲンに返事をしながらも、すでに今回の事だけではなく、この後に起きる妖魔山達への対処として、今回のような妖魔召士組織との一時的な協力ではなく、昔のような同盟関係を結び直す必要があると思案し始めるのだった。
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