1873.いつかのような両組織の共闘と、妖魔山の妖魔達
王琳やヌー達が『次元の狭間』の中へと『概念跳躍』を用いて消え去った後『神斗』の姿をした『煌阿』の命令を受けた妖魔達が動き出した。
まず『本鵺』が大きく息を吸いこんだかと思えば、鵺特有の『呪詛』を場に齎し始める。
ひゅう、ひゅうという息を吸いこむ音と『呪い』の言葉が交互に囁かれ始めるが、徐々に吸い込む音と声が同時に合わさるかのように周囲に伝播していく。どうやらその吸い込み音が『呪詛』を相手に伝える上で重要な因子となるのだろう。
シゲンやミスズのような妖魔退魔師達は、 『本鵺』の『呪い』が始まると同時にその場から離れて『本鵺』の正面を避けるように迂回し始める。
逆にその場から動かずに正面を維持し続けたのが、妖魔召士の『ゲンロク』と『エイジ』達であった。どうやら彼らは『本鵺』の呪詛に対して、捉術といった『魔』の技法を用いて直接封じようという判断なのだろう。
エイジが二本の指を口元に持っていきながら、こちらも『本鵺』の呪いと見紛うように詠唱を始めると、その背後からゲンロクが高速で手印を結び始めていく。
やがて『本鵺』の影から禍々しい紫色の煙のようなものが噴出し始めたかと思うと、徐々に空気に混ざりあうように溶けていき、闇となってエイジ達を覆い隠し始めていくのだった。
「エイジ、こちらの準備は整ったぞ! いつでも発動可能じゃ!」
「こちらもだ! ゲンロク、直ぐに小生に合わせよ!」
互いに掛け合いを行い、息を合わせるように『捉術』を重ねていく。
エイジの前に『結界』が張られたかと思えば、彼そのものを覆い隠そうとしていた煙をその『結界』がはねのけてみせる。
続いて詠唱を終えたエイジが、ゲンロクの張った『結界』の内側からその『結界』ごと貫くように『魔』の技法である『捉術』を展開する。
――僧全捉術、『雲散絶疫掌』。
ゲンロクの作った『結界』の内側から放たれたエイジの『捉術』によって、迫りくる『本鵺』の『呪詛』の類であろう紫色の煙を晴らしていく。
それを見た『本鵺』は訝しそうに眉を寄せると、直ぐにその場から離れていく。
しかし離れながらもまた攻撃を行おうとしているのか、ひゅうひゅうという音がエイジ達の耳に届いてくる。
「ゲンロク! 奴は下がりながら追撃を準備しているようだが、小生の正面からは動いておらぬ!」
「応、ワシに後は任せるがよいわぁっ!」
ゲンロクの言葉を聴いたエイジは前を向いたまま、ゲンロクの次なる一手の邪魔にならぬように真横へと勢いよく飛んで移動する。
次の瞬間、エイジの『捉術』によって雲散して場に『魔力』だけが残った、本鵺の一度目に放った『呪詛』そのものに対して準備していた『捉術』をゲンロクは放った。
――僧全捉術、『返魔鏡面掌』。
紫色をしていた煙がエイジによってただの砂塵に変えられた直後、場に残った本鵺の『魔力』を消え去らぬように固定させるかの如く、青い光を伴ったゲンロクの『捉術』が放たれた。
そして本鵺の『魔力』そのものが、ゲンロクの捉術によって持ち主の元に帰っていくかのように勢い良く戻って行く。
しかしゲンロクによって跳ね返された本鵺の『魔力』は、その持ち主であった本鵺を消し去ろうとするかの如く、威力と勢いを持っていた。
どうやら本鵺の『呪詛』を目的として使われた『魔力』が、ゲンロクの『捉術』によって完全にその本鵺を消し去る『魔力圧』へと変貌を遂げたようであった。
しかし今度は本鵺が、ひゅう、ひゅうという音と共に再びその跳ね返された『魔力圧』を相殺するかの如く、新たな『呪詛』で迎え撃つのだった。
再び噴出された紫色の煙が『魔力圧』を包み込むと、音もなくしかし勢いは殺された『魔力圧』が、今度こそ完全に跳ね返される事もなく雲散してやがては消滅していった。
だが、再び砂塵と化したその煙が晴れていく最中、移動を行い本鵺の間合いに入り込んでいた妖魔退魔師の『スオウ』が、一刀のもとに斬り伏せようと得物をその場で振り切ってみせる。
確実に本鵺を殺ったと考えたスオウだが、その手応えは予想していたものとは異なっていた。
「残念だったな、チビの人間」
『狼人』本来の姿に戻った事で全身が体毛に包まれている『悪虚』が、そのスオウの腕を丸太のような太い腕で掴んでみせると、鵺の身体へと戻った事でスオウの衝撃波から身をかわす事に成功した『本鵺』が、何事もなくそのスオウの間合いから離れていく。
そしてその場に残ったスオウと悪虚の更に背後から、二人の妖魔退魔師が現れ始める。
「残念なのは――」
「お前の方だぁっ!!」
スオウの腕を掴んでいる悪虚の腕を妖魔退魔師のキョウカが切り落とすと同時、真横から更に妖魔退魔師のヒノエの太刀が『狼人』の固い皮膚ごと胴体を豆腐のように真っ二つに切断して見せた。
「かっ――!」
悪虚の恨みがこもった視線を真っ向から受け止めつつヒノエは、返す刀を悪虚の首に向けて放つ。
そしてその恐ろしい程までのヒノエの腕力によって、首はあっさりと胴体から刎ね飛ばされるのだった。
「スオウ組長! 今すぐにそこから離れなさい!!」
間髪入れずに離れた場所からミスズの声が場に響き渡る――。
その声にはっとしたスオウは、後ろを確認すらせずにミスズに言われた通りに前方に向けて回転受け身を取るのだった。
その直後――。
悪虚に気を取られていたスオウを背後から狙っていた『本鵺』目掛けて、瑠璃色のオーラを纏ったミスズが『霞の構え』から一直線に刺突してみせるのだった。
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