1870.先手を取られた煌阿と、内に秘める怒り
※誤字報告ありがとうございます。
「ふふっ、これは面白くなるぞ」
「王琳様、やはりあれは神斗様ではないのですね」
機嫌良さそうに口笛を吹いてそう告げた王琳に、七耶咫が抱いていた疑問を口にする。
「ああ、どうやら山の頂で俺と別れた後、神斗殿はその身体を乗っ取られたようだな」
「か、身体を乗っ取る……?」
「お前が妖魔召士にされた事と同じような事をされたんだろう。しかしこの世界で一番の『耐魔力』を誇っていたであろう神斗殿の身体を奪える程の『魔』の理解度を持っていた事に驚きだ」
耐魔力の有無以前にそんなに簡単に、他者の身体を奪えてしまうという事に七耶咫は驚いたようだ。
「で、では、神斗様の身体を奪った者は何者なのでしょうか?」
「少しばかり想像していたより早く出てきたようだが、あれは『煌阿』で間違いないだろうな」
「!?」
(煌阿という者は確か耶王美様が私たちに絶対に近づくなと口にしていた洞穴の監視対象だった筈……! ではこの場に奴が現れているというのに、この場に耶王美様が現れない理由とは、ま、まさか……!?)
その王琳の出した名に思うところがあった七耶咫は、先程よりも大きく驚いてみせるのだった。
…………
「「神斗様!!」」
ソフィに殴り飛ばされてそのまま壁に激突した煌阿に、安否を確かめるために配下の妖魔達が近づいていく。
しかし彼らが煌阿の元に辿り着くより先に、その神斗の身体をした煌阿が『オーラ』を纏いながら、崩れてきていた岩や石をどかしながら立ち上がって見せるのだった。
「やってくれるじゃねぇか……」
立ち上がった煌阿は右手で首元を押さえながら、コキ、コキと音を鳴らしてソフィを見る。
「だ、大丈夫ですか!? 神斗様!」
ソフィ達を取り囲んでいた妖魔数体が心配して煌阿の元に辿り着くと、矢継ぎ早にそう告げる。
「ああ……、問題はない」
そして煌阿が一言そう告げたと同時、空から新たな妖魔がこの場に現れる。
「神斗様、遅れてしまい申し訳ありません!!」
そう言って空からこの場に現れた妖魔は、山の頂で煌阿に報告を行った妖魔であった。
この妖魔は『竜翼族』程にまでは速くはないが、それでも『天狗族』よりも速い『鴉族』で、煌阿に報告を行った後に直ぐにこの場所を目指して飛び立っていた。
本来であれば先に自分がこの場所へ辿り着いていた筈だったが、いざこの場に来てみれば、すでに神斗の身体をした煌阿がこの場で何者かに吹っ飛ばされるところであった為、慌てて空から急降下してきたところなのであった。
「構わん。それよりお前が報告してきた黒羽は俺を殴り飛ばしたアイツで間違いないな?」
「は……、はい! どうやら我々が人型を取るように黒羽も自在に姿を変えられるようですが、あの顔を見るに天狗共と戦っていた者で間違いありません!」
「そうか、分かった。お前らはこのまま本鵺達と協力して、周りの人間共を片付けておけ。アイツは俺が仕留める」
「「わ、分かりました!」」
普段とは明らかに言動が違う神斗の様子に、煌阿と気づいていない妖魔達はどこか違和感を感じつつも、今はそんな違和感に構っている場合ではないとばかりに頷いて見せるのだった。
…………
煌阿は配下達に指示を出した後、ゆっくりと自分が殴り飛ばされた場所へと再び辿り着く。
「立ち上がったのならば、さっさとエヴィの元へ案内するがよい」
いつまで待たせるのだとばかりに、腕を組んでじっと煌阿が歩いてくる様子を眺めていた大魔王ソフィが、一層厳かな雰囲気を出しながらそう告げるのだった。
「残念だが、その必要はないな。この俺に手を出しておいて、楽に死ねると思うなよ? お前の意識がある内に四肢を引き千切り、内臓の一つ一つがぐちゃぐちゃになっていく様と激痛をくれてやる」
その言葉を聞いたソフィが溜息を吐き、何かを言葉にしようと口を開いた瞬間、ソフィの肩に煌阿の手が置かれるのだった。
「もうお前は終わりだ――」
――魔神域『時』魔法、『空間歪曲』。
煌阿の口角が思いきり吊り上げられたかと思うと、ソフィの周囲の空間がブレ始めていく。
「むっ――!?」
――瞬間、その場からソフィと神斗の身体をした煌阿の両名が、忽然と消え去るのであった。
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