1866.煌阿が見たことのない魔の技法
「もう大丈夫だよ、ありがとう」
ようやく落ち着きを取り戻したエヴィは、彼女に礼を口にして自ら彼女の胸の内から離れるのだった。
「ソフィっていうお前の主と私の主である王琳様は、きっと近しい感情を抱いて生きている。きっとよく話し合えば私とアンタみたいに直ぐに打ち解けられると思う……。そこで何だが、もしここから無事に出られたらお前も私の主と会ってみてくれないか?」
普段の耶王美であれば、妖狐以外の者を主に会わせようとは決してしないだろう。しかしどうしても耶王美は、自分と同じ考え方を持つエヴィを主に会わせてみたくなったようである。
「ああ、いいよ。というか僕も耶王美をソフィ様に会わせたいなって考えていたところだったんだ」
そう言って笑みを浮かべるエヴィに満ち足りていくような、どこか気が安らいでいく感覚を覚える耶王美だった。
「ふふっ、やはり私達はとても相性が良い。お前と出会えてとても嬉しいよ」
耶王美が屈託のない笑顔を見せながらそう言うと、エヴィもにこりと笑うのだった。
そしてそんな二人が笑みを浮かべあっているところに、突如として二人の近くの場所にある空間に亀裂が入り始めたかと思うと、そこから神斗の見た目をした煌阿が出現を始めるのだった。
朗らかな気持ちを抱いていた二人は、直ぐにその存在に気付いて同時に振り返るのだった。
「ふんっ、相当参っているだろうと様子を見に来てみれば、随分と余裕そうじゃないか、耶王美」
「またお前か……。急に現れて僕たちの話の邪魔をしないでよ、殺すよ?」
どうやら見た目が神斗のままであった為、山の頂の上空での事を思い出したであろうエヴィは、先程まで耶王美に向けていた表情とはまるっきり違う、まさに言葉通りの殺意に満ちた目で睨むのだった。
「また……? ああ、どうやらお前は神斗の知り合いのようだな。だが、残念だが中身が違う」
「エヴィ、気をつけろ。こいつは神斗殿の見た目をしているが、奴の言う通りに神斗殿を乗っ取り、私たちを閉じ込めた張本人だ」
その耶王美の言葉を聞いたエヴィは、小さく舌打ちをするのだった。
「初めましてエヴィ。そういうわけだから、分かったらそのまま死ね」
そう言って煌阿は右手を前に出しながら、エヴィに向けて『魔力波』を放つのだった。
『理』が通った『魔法』と呼べるようなモノでさえない、単なる『魔力』を放出しただけの煌阿だが、その『魔力波』の殺傷能力はまともに食らえば致死を免れないと思わせるだけの威力を誇っていた。
「エヴィ!」
直ぐ近くに居た耶王美が、エヴィの盾になろうと煌阿の『魔力波』の方へと一歩前へ出た瞬間、エヴィはその耶王美の方を掴むと強引に下がらせながら詠唱を開始する。
――神域『時』魔法、『次元防壁』。
「な、に……!?」
煌阿の放った『魔力波』が、エヴィの用いた『透過』ではない『魔』の技法によって、そのまま掻き消されていくところをみて驚きの声をあげるのだった。
エヴィの放った『次元防壁』の『時魔法』は、当然にこの世界には存在していない。
同じ『時魔法』に分類されるとしても『卜部官兵衛』や『シギン』の生み出した『理』から生み出された『時魔法』ではない為に、煌阿が驚くのも無理はなかった。
(卜部やその血筋が使っている『空間魔法』とは明らかに異なっている効力だ。俺の『魔力』に『透過』で干渉して打ち消したというわけでもなく、あの卜部の血筋のように何らかの『結界』を作用させたというわけでもない。あの距離で何の『スタック』も用意せずに無詠唱で俺の攻撃を凌いで見せた以上、無視をする事は出来ぬが、このタイミングではどうするべきか……?)
煌阿は自分の攻撃が、如何に相手にとっての脅威となるのかを自覚している。
卜部やシギンのような『魔』の理解者達でさえ、煌阿の攻撃を捌くにはそれなりに『スタック』やあらゆる防衛の手立てを用意しなければいけない程なのである。
そうだというのに人間の少年にしか見えない若者が、彼が殺すつもりで放った『魔力波』を食らって平然としている以上、シギンに続く更なる脅威が現れたのだと判断しても何もおかしい事ではない。
(札はすでに消してしまっているのだ。今この『結界』を解いてしまえば、隣で俺と同様に驚きつつも戦闘準備態勢に入っている耶王美を閉じ込めるには、また別の手間がかかってしまうだろう。それに今は妖魔共の報告を待っている状態だ。やはりここは下手に卜部の血筋に続くような存在と、耶王美を同時に相手どる余裕はないだろうな……)
どれだけ不透明な強さを持っていようが、あの『結界』からは逃れられない様子の両者を見て、ひとまずは閉じ込めておけば問題はないだろうと煌阿は判断した様子であった。
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