1856.王琳を前に動揺を見せる玉稿
玉稿の話を聞いて直ぐに門の前へと向かったソフィ達だが、そこには確かにここに来るまで共に行動を取っていた王琳と七耶咫の姿があった。だが、それだけではなく、その場には見た事のない女妖狐も二体程増えているのだった。
ソフィ達がこの集落に来た時には閉められていた門は開かれており、少し離れた場所で待機をして待っていると告げていた王琳と七耶咫もその集落の門の前へ移動をしており、ソフィの姿が視界に入ると直ぐに左手を挙げながら、少し申し訳なさそうに頭を下げながらウィンクをして見せるのだった。
そしてその横に見慣れない妖狐達と、赤い狩衣を着た人間が数名程立っていた。
この場に現れたソフィ達の姿に王琳と同様に、赤い狩衣を着た人間達も気づいた様子であり、慌てた様子でその人間達は声を上げ始めた。
「い、いたぞ! ゲンロクにそれもエイジも居る!」
「ほ、本当に居たのか……! え、エイジよ、拙者達を覚えておらぬか!?」
そう言ってこちらに駆け寄ってこようとする赤い狩衣を着た妖魔召士達だったが、門より先に入ろうとするなり若い鬼人達に身体を押し出されてしまい、妖魔召士達数人はその場から集落の外へと放り出されてすっ転んでしまうのだった。
「あはは! 見てみてぇ、六阿狐! あの人間共、大慌てで諸手を挙げながら集落へ入ろうとして、鬼人達に押されてゴロゴロ転がってきたわよ! ふ、踏んでもいい? 軽くなら顔を足で踏んでもいいかなぁ!? ぷふっ……!!」
「だ、駄目よ、五立楡……、ぷ、くくっ……、ここに、は、王琳様達も居るんだから、笑っちゃ駄目……、あはははっ!」
鬼人達の強い力で外へと追い出された人間達が、勢いを増しながらでんぐり返りを行いながら自分達の足元の方へと、すってんころりとばかりに転がってきたのを見てしまった若い妖狐の二体は、必死に口元を押さえて笑いを堪えていたが、やがて堪え切れずに二体共がケタケタと笑い始めるのだった。
…………
「あれは、前時代の者達か? 顔を見た事はあるが、名は思い出せぬな……」
「お前が覚えておらぬのも無理はないな。あの方々はシギン様の代の四天王が一人、コウエン殿の側近だった方々だ。確か名はリクト殿とオブカタ殿と……はて?」
鬼人達に転がされていた妖魔召士達を見て、名を思い出そうとしたゲンロクだったが、直ぐに立ち上がり他の二人に手を差し伸べて起こそうとする者だけが思い出せないようで、ゲンロクも首を傾げていた。
どうやらゲンロクの代になる前にはすでに組織から脱退していた者達だったようで、少なくともエイジは自分の師が在籍していた頃の組織の同志達をいちいち覚えてはいない様子だった。
ひとまずこの場に妖魔召士が現れていた以上、イダラマ達と何らかの関係性がある事は間違いないだろうと考えたエイジ達は、ソフィを一瞥した後に一緒に門へと向かっていくのだった。
…………
ソフィ達がエイジ達と共に門へと辿り着くと、直ぐに玉稿が声を掛けてくるのだった。
「お話し中にお呼び立てしてすみませぬな。少しばかり妖狐共から事情を聴いておったのですが、彼らはそこの人間達の護衛を務めておったそうで、肝心のその人間達はエイジ殿とゲンロク殿に用があってここまで来たのだそうですじゃ……」
「小生達に……? いったいどういう事なのだろうか?」
「え、エイジ……! お、お主に用があって、ま、参ったのじゃ!」
「話を……! おわっ!!」
門まで現れたエイジをみるなり、慌てて立ち上がろうとしたリクト達だったが、裾を踏んで前のめりになってしまい、助け起こそうとしていたもう一人の人間の鼻っ面に思いきり顔をぶつけてしまい、今度は二人纏めて抱き合うように倒れてしまうのだった。
「「あはははは!!!」」
口元を押さえて必死に笑いを堪えていた妖狐達は、それを見て盛大に笑い始めてしまうのだった。
「こら、五立楡に六阿狐! 失礼でしょ!」
そしてそれまで王琳の元を片時も離れずに立っていた七耶咫は、一瞬の内に笑っていた妖狐達の隣へと移動を行うと、その五立楡と六阿狐の頭を軽くはたいて窘めるのだった。
「アイタ! 何をするんですかぁ!」
「ちょっ、痛いですよ、七耶咫様!」
転んでいた人間達を見て笑っていた妖狐達は、突然に背後から頭を叩かれて涙目になりながら非難の声を上げるのだった。
「すまんな、玉稿。そいつらはどうやらそこに居る人間にとあるモノを渡したくてここまで舞い戻ってきたようなのだ。ここが鬼人達の縄張りだという事は理解している。こいつらの事は責任を以て俺が見ておくから、この人間達を少しの間だけ集落に入れてやってやれぬか? そしてそこの妖魔召士達と話をさせてやって欲しい」
「わ、分かりました、王琳殿。我ら鬼人族への配慮、痛み入ります……」
「気にするな、迷惑をかけたのは俺たち妖狐の方だ。しかしここで待たせてもらう事には許しを願いたい。そこに居る奴に用があるものでな」
そう言って王琳はソフィの方を一瞥する。
そのソフィに向ける王琳の横顔を見た玉稿は、震え上がるようにして慌てて視線を王琳から逸らした。
「で、では、宜しければ直ぐに空き部屋をご用意させますが……」
「いや、ここで構わぬ」
「そ、そうですか……」
天狗族たちを前にしても堂々としていた鬼人族の長の玉稿だが、妖狐の王琳には敵対心など全く見せず、それどころか遜るような態度を取ってみせるのだった。
「そ、それでは再び中へ案内致します……」
玉稿の額に浮かぶ大粒の汗を見ながら、素直に応じるソフィ達であった。
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