1855.再びの響くノックの音
「ではソフィ殿、早速出発をするとしようか?」
腕を組んで立っていたシゲンはずっと何かを思案し始めたソフィを待っていたが、ようやくそのソフィの表情が落ち着いたところを見計らって声を掛けるのだった。
こうした気配りを当たり前のように出来るからこそ、シゲンはあのミスズからも一目置かれているのだろう。
「む、ではすまぬが、もう少し我の都合に付き合って欲しい」
「もちろんですよ、それにソフィ殿の都合だけというわけではありません。エヴィ殿を探す事が我々の禁止区域の調査にも繋がっているのですから、これは我々にも利がある事なのです。ですからソフィ殿、頭を上げて下さい」
そう言ってミスズはソフィの頭を上げさせると、慈しむような笑みを向けるのだった。
そこに横で立っていたヒノエが口を開いた。
「ソフィ殿の仲間を探す事には何の異論もないですが、外に居るあの妖狐も本当に同行させるのですか? 何だか私にはあの妖狐と行動を共にする事でよからぬ事が起きるような予感がするんですが……」
一度は王琳の同行を受け入れていたヒノエだが、ここにきて何やら不穏な事を口にして、王琳の同行に対しての疑問をあらためて呈するのだった。
「ヒノエ組長、それはもう先程シゲン総長がお認めになられた事ですので……」
「いや、少し待てミスズ。ヒノエ組長、よからぬ予感とは具体的にどういうものだ?」
やんわりと異議を唱え始めたヒノエを静止しようと口を開きかけたミスズだったが、被せるようにシゲンがヒノエに質問をしたことで彼女はその開きかけた口を噤むのだった。
「シゲン総長……。上手く説明は出来ねぇんですけど、何だかあの妖狐はこれまでの妖魔達とは何かが違うように感じるんです。見ていてゾワゾワとするっていうか、何か奴自身がというより、奴が良からぬ災いのようなモノを引き寄せちまうんじゃないかと感じちまうんです。別にこれといって何かあるわけでもねぇんですが、避けられる災いなら最初から断ち切っておいた方がいいような気がして……」
「ふむ……」
これがヒノエではなく、他の者が口にしたのであれば何を言っているのだと一蹴して終わりだったのだが、これまでもヒノエがこういった言葉を口にした後、本当に彼女の言う事が正しかったなと思える出来事が、多々あったのである。
第六感というものが本当にあるのだとしたら、まさにヒノエが感じるその違和感らしきものがそうなのかもしれないと思える程であった。
真剣に考え始めたシゲンを見たソフィは、王琳を同行させる原因を作ったのが自分である為に、奴とはまたの機会に戦う事にして、今回の同行はなかったことにしようと口を開いて伝えようとした。
――しかし、その瞬間にまたもや扉を叩く音が部屋に響き渡るのだった。
「はい、何でしょう?」
どんっ、どんっと、さっきよりも一際大きいノックの音が響くと、一番扉の近くに居たキョウカがその扉の前で大刀に手を充てながらノックの主に声を掛けた。
「お、お話の途中に申し訳ない、玉稿です! み、皆さんに会わせろと妖狐達が人間を連れてここに現れました! ど、どうかお会い頂けないでしょうか!」
この集落の長である玉稿の慌てた様子のその言葉に、シゲンとソフィは顔を見合わせた。
「分かりました、直ぐに向かいます」
「お、お願いします! 何とか妖狐達を門の前で待たせておきますので!」
ソフィ達が首を縦に振ったのを確認したキョウカが玉稿にそう伝えると、玉稿はそう告げて扉から離れて行くのだった。
「外で待たせている連中に何かあったのだろうか?」
「それは分からぬが、我達が出て来るまで大人しく外で待っていると言っていた奴らが、わざわざ集落の中に居る我達に何かを伝えようとしているという事は、それなりの出来事があったのかもしれぬな」
同じ三大妖魔である『妖狐』の王琳が、同じ三大妖魔である『鬼人族』の縄張りの中に入れば、何かと体裁が悪いだろうと口にした為に、彼と七耶咫の二体の妖狐だけは集落に入らずに外で待っていてもらっていたのであった。
「ひとまず我々も外へ行きませんか。先程の玉稿殿の様子をみるに、あまり待たせるのは得策ではないと思われます」
眼鏡をくいっと上げながらミスズがそう進言すると、シゲンやソフィ達も頷くのだった。
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