1848.大魔王エヴィの本質と、その強さの理由
「それで耶王美に聞きたいんだけどさ、僕はイダラマっていうこの世界の人間からこの世界には『理』はないと聞いていたんだけど、これはどうみても『理』から用いられている『結界』だと思うんだよね。改めて聞いておこうと思うんだけど、この世界に『理』や『魔法』は存在するのかな?」
いつの間にかエヴィは『耶王美』の事を名前で呼んでおり、その事に彼女も内心で嬉しいと思いながらもエヴィの質問を真剣に考え始めた。
「『理』というのが『魔』の概念の事を指しているという事は分かるが、私はあまり詳しくは知らないんだ。ただ言える事は、この『結界』を張った『煌阿』殿は人間が使っていた術を用いて私たちをこの場に閉じ込めているようだ」
「また人間……か。それはイダラマの事じゃなくて、他の人間が使ったっていう事なんだよね?」
「そうだ。その人間の事は私もこの山で観察をしていたが、名をシギンと呼ばれていた。意識を失っていたエヴィを『空間魔法』とやらで運んでいるのもこの目で見たよ」
説明を行う中で彼女もまた当たり前のようにエヴィの事を名前で呼んでいた。どうやら二人は互いに名を呼び合う事を認めた様子だった。
その説明を受けたエヴィは、直ぐに『結界』を深く調べるように『魔力』を外側へ送り出そうと『透過』を用いたのだが、何も干渉が出来ずに自身の放った『魔力』が内側へ戻る感覚と消失する感覚を同時に覚えた。
「はぁ、なるほど『空間魔法』……ね。どうやらそれは『煌聖の教団』の奴らが使っていた『時魔法』と近しいモノなんだろうな。つまりこの『結界』は、在るべき場所から切り離された空間内であって、僕らが使う『結界』と呼ぶものとは全く異なるモノなんだろうね。だからここでは普段通りに『オーラ』や『魔力』を使えるわけだ」
大魔王エヴィはブツブツと言葉に出して思考の海へと潜り始めると、その言葉を聞いていた『耶王美』は、この同類と認めたエヴィは、自分よりも『魔』の概念とやらに詳しいと理解するのだった。
「最初にも言ったけど、私は戦闘面を有利に運ぶ程度の『魔』の知識しか持っていない。元々私たち妖狐はそこまで『魔』の概念に頼っていなかったからね。だから私はエヴィの知識には遠く及ばないけど、何か私に協力が出来る事があれば、遠慮せずに何でも言って欲しい」
その耶王美の言葉にエヴィは笑みを浮かべた。
「その時は頼らせてもらうよ。でもごめんよ、僕もそこまで『魔法』に詳しいわけじゃないんだ。本来の僕は『呪法師』だからね。こういった事に詳しいのは僕と同じ仲間の『ブラスト』先輩や『ディアトロス』のじっちゃん。そしてユファ先輩とかなんだよねぇ……」
「『呪法師』……? それは鵺の一族が使うような『呪い』を使う者達とは違うのかい?」
「どうだろう。耶王美の言う鵺の一族って奴をよく知らないから同じかどうかまでは分からないけど、僕が本気で『呪法』を放てば、視界に映る存在全員から一瞬で命を奪う事も出来るし、相手の魔力の強さに比例して呪いも強められるから、死ぬ覚悟で挑めばどんな格上であっても、一部を除いて誰でも呪い殺せるよ」
「誰でも……、か」
「そう、誰でも……だよ」
耶王美の知る『呪い』は鵺達が用いるモノではあるが、鵺以外にも『呪い』を使える存在の事は知っている。そしてその存在達は誰もが例外なく他者を恨んだり、自分を恨む程の不幸を経験しているという事も。
そしてその『呪い』の強さに比例して、経験してきた不幸度も高いのだ。
先程エヴィは自分の事を『呪法師』と呼んでいた。つまり『呪い』の強さに相当の自信を持っているという事に他ならないだろう。それに最後の『誰でも殺せる』と言い切れる程の強い『呪い』も使えると言った。それが意味する事とはつまり……。
自分と同じ苦しみを抱えているエヴィの本質の部分を理解している彼女はエヴィの元に寄っていき、肩に手を置いた。
「なぁ、エヴィ。もしここから無事に出られたら私と一緒に生き……」
「――耶王美、僕はソフィ様の忠実な配下なんだ。この世界にソフィ様が居ると分かれば、今後の僕の在り方は君になら分かるだろう? 残念だけどそれは出来ないよ」
「……そう、だな」
『一緒に生きていかないか』という耶王美の誘いの言葉を最後まで言い切らせる前に、大魔王エヴィは被せるように彼女の名を呼び最後には拒んでみせるのだった。
「今はここから抜け出す事を二人で考えよう。確かに簡単に出られるようなものじゃなさそうだけど、それでも僕達は普段通りに『魔力』も使えるし、何か方法があるかもしれない」
色々と思うところがある様子の耶王美だったが、再び顔を上げる頃にはエヴィに強く頷いて見せるのだった。
……
……
……
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!
 




