1825.続くシギン達の会話
※誤字報告ありがとうございます。
その神斗の様子を見たシギンは、やはり洞穴で見た時に抱いた印象は正しいものだったかと、改めて神斗と煌阿の関係性に興味を持つのだった。
そしてそれなりに長い沈黙の後、神斗は渋々といった表情で口を開き始めた。
「私と煌阿の関係性を話すのならば、私自身の種族の話もしなければならないだろう。こんな話を今更になって他者に……、それも君のような人間に話す事になるとは思わなかった。君は忙しいと言っていたけど、少し話が長くなっても大丈夫なのかい?」
「ああ、問題ない」
(あの場で出来る事はしてきたつもりだ。後は俺の呪符を持ってゲンロク達の元へ向かえば、彼らも問題なく山を下りられるであろう)
そこまで考えたシギンだが、彼自身が『魔』の概念以外の事にこれだけ興味を持って他人と会話をしようとする事など、本当に久方ぶりだと実感するのだった。
「煌阿は私の事を『翼族』と呼んでいたが、実際には私は『竜翼族』という種族なんだ」
「竜……翼族?」
どうやら煌阿の言っていた『翼族』というのは俗称で、正式には『竜翼族』というのが神斗の本当の種族名だったようだ。
「今を生きる君たち人間には、聞き慣れない種族だろうね。もう私の同胞はこの世界を見渡しても、そんなに多くは残っていないだろうしね」
「確かに『竜翼族』という者達はこれまで一度も聞いたことがないな。それにお前が普段から人型を取っているだけだからかもしれぬが、煌阿がお前を翼族と呼んだ時も私にはピンと来なかった。戦闘態勢の時にもその姿のままだったが、あの黒羽のようにお前も本気になれば羽が生えてきたり、姿を変貌させたりするのか?」
この人型が仮の姿で本来は羽が生えたり、竜の姿になるというのであれば、確かに『翼族』や『竜族』と納得が出来るとばかりにシギンがそう告げると、神斗は少し考える素振りをみせた。
「私達は竜翼族という種族ではあるが、別に龍族というわけではないから竜の姿になったりはしないけれど、確かに形態は変えられるよ。但し姿形は変わっても別に『帝楽智』たちの縄張りに居た黒羽のように強さ自体は変わらないけどね」
(まぁ、強さそのものが変わるのならば、空の上で戦ってみせた時にその姿を取っていただろうしな)
その神斗の言葉に腑に落ちた様子を見せるシギンであった。
「元々煌阿と私はこの山で初めて知り合ったんだけど、直ぐに意気投合してね。鬼人族の『悟獄丸』と、私と煌阿はいつも一緒に居たんだ」
(なるほど。俺がこの山に居着いた時には、煌阿はもう洞穴に『封印』されていた。もし煌阿が卜部官兵衛に封印されていなければ、今も山の頂で悟獄丸が神斗と共に居たように三体で行動していたという事か)
「そういえば、君は煌阿が何の種族か知っているのかい?」
突然に話を振られたシギンだが、その首を横に振った。
「いや、俺がかつて奴を見た時はすでに精神体の姿であったし、最近では鬼人族の姿形をしていたからな。奴が元々どんな姿だったのかすら知らぬ」
「そうか……。まぁ、そうだろうね。彼は私と同様に普段から人型を取っているけど、本当の種族は『鵺』なんだよ」
「……」
その話を聞いたシギンは戦闘の時に、煌阿が一度だけ鵺の『呪い』を口で発した瞬間を思い出すのだった。
(ああ、やはりあれは『鵺』達が使う『呪い』で間違いなかったのか。それにしても煌阿が鵺だったとはな。道理で堂に入っているわけだ)
「元々、私たち『竜翼族』と彼ら『鵺』達は仲が悪くてね。あ、勘違いをして欲しくはないから最初に言っておくけど、あくまで種族間で仲が悪かっただけで、私と煌阿が仲が悪かったわけじゃないよ」
「そうか……」
シギンが何かを思案している様子を見て、慌てて断りを入れてきた神斗だが、そもそも竜翼族自体を知らなかったシギンは、鵺と竜翼族が仲が悪いという情報も今知ったくらいであり、煌阿と神斗の関係が何故悪くなったかと邪推していたわけではない。
だが、少し長い間シギンが沈黙していた為に、洞穴の中で神斗に敵意を向けていた理由について考えていると神斗は勘違いをしたようである。
しかしそんな風に断りを入れてくる神斗を見てシギンは、この問題が繊細でどうやら神斗自身が気にしている事に他ならないのだろうと判断するのだった。
そんな事を考えているとは思ってはいないであろう神斗は、再び続きを話し始めるのだった。
「私と煌阿は別に互いの種族を憎んでいたわけじゃないから、同胞達が殺し合いを始めても別に我関せずを貫き続けていたんだけど、結局私以外の『竜翼族』は『鵺』達に全滅させられてしまったようでね。彼らは最後には私にも手を出そうとしてきたから、殺される前に私を手に掛けようとした鵺達を皆殺しにしてやったんだ。そうしたら鵺の生き残り達も本気で私を殺そうと考えたようだけど、私は他の『竜翼族』達と違って『金色の体現者』だったからね。単なる鵺程度の『呪い』では、私の『耐魔力』を貫く事は出来なかったようで諦めたみたいだ。もちろん私を殺そうと画策した連中も纏めて全員殺してやったから、以降に鵺達が私に手を出してくる事はなくなったけどね」
淡々とそんな事を口にする神斗だが、自分の同胞達がやられたというのに、事もなげにそんな話をする辺り、やはり自分たち人間と妖魔は、根本的に思考に隔たりがあるのだとシギンは考えるのだった。
「そしてそんな出来事があった後、最後の生き残りとなった私はこの山の色々な種族達に狙われたけど、その全てを消滅させ続けていくと、最終的には誰も私に逆らう事がなくなってね。また悟獄丸や煌阿たちと堂々と行動を共にし始めたんだよ」
当時の神斗が今のように『魔』に精通していたかは知らないが、どうやら『金色の体現者』であった彼は、その妖魔神と呼ばれる前の時であっても、この妖魔山では一目置かれる立場となっていたようである。
「でも突然ある時に煌阿は私たちの前から姿を消してしまってね。悟獄丸は煌阿が気分屋だから山を去ったんだろうと言っていたけど、それまで何年も共に居た彼が、私たちに何も言わずに山を出ていくとは思えなくてね。それで気にはしていたんだけど、まさか今まで同じ山に居たとは思わなかったよ。それも君が仕掛けを講じていた何て更に驚きだった」
神斗と煌阿の種族や、その種族の関係性については理解が及んだシギンだったが、一番気になる点はその先であった。
「つまり煌阿とは敵対関係にあったわけではないのだな?」
「ああ。さっきも言ったけど種族同士で争いはあったけど、別に私と煌阿が敵対関係にあったわけじゃない」
神斗は演技をしているようにも嘘を言っているようにも思えない程に、純粋な目をシギンに向けながらそう口にしたのであった。
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