1821.妖魔召士シギンの編み出した殺傷捉術
※誤字報告ありがとうございます。
次元の狭間内では、その詠唱者と同じ『空間魔法』や『時魔法』に覚えがあるものでなければ意識を持つ事は出来ない。
中にはソフィのような感覚だけで意識を持つ事や、動く事も出来る例外の存在も居るが、そんな例外はほんの一握りである。
そしてそのひと握りの中に入っていた煌阿は、更に『卜部官兵衛』との戦闘の経験も有り、同じ『魔』の概念の理解者としてこの『次元の狭間』であっても現在の出来事を目で追う事が出来ている稀有な存在となっている。
つまり今の煌阿は『空間魔法』を使えないにも拘らず、その『空間魔法』によって作られた『次元の狭間』という道の中である程度の制限はあるが、動く事も『魔』の技法を扱う事も出来る状態である。
しかし当然にシギンは煌阿が動けるようになる可能性を考慮して戦闘に臨んでいたが故に、現在は一度目の時とは違って、いくつもの『魔』の技法によって生まれた枷を煌阿に施して可能な限り身動きを取れなくする事に成功していた。
――それこそが『蒙』『輝鏡』『魔重転換』の三つの『魔』の技法の存在である。
この三つの枷を強引に付与された煌阿は、現在『次元の狭間』の中でシギンのやろうとしている事を見えてはいるが、防御を取る事が非常に困難な程に『魔力』そのものや、行動速度を制限されてしまっていた。
これがまだ『蒙』と『魔重転換』だけであったのならば、直ぐに『透過』や『呪い』で『空間魔法』自体の解除を行えていただろうが、この『次元の狭間』に入る瞬間に仕掛けられた最後の『魔』の技法であった『輝鏡』が余計であった。
この『輝鏡』の『魔』の技法のせいで、空間の解除に必要な最低限の『魔力』さえ、僅かに足りなくなってしまったのである。
『蒙』と『魔重転換』の効力を解除する為の『透過』に用いる『魔力』はまだ残されている煌阿だが、それを解除している内に、手痛い一撃を繰り出そうと接近してきている『シギン』の攻撃をまともに喰らってしまうだろう。
妖魔ランクが『8』や『9』程度の『魔力』からなる『魔』の技法程度であったのならば、直撃させられたところで煌阿は難なくその後に、その一撃を放った事を後悔させる反撃をぶつけられただろうが、残念ながら煌阿から見ても『卜部官兵衛』の血筋である人間の纏っている『魔力』から推算して、あれが直撃すれば間違いなく即死は免れないと判断が出来た。
そして単にその一撃から身を守るだけならば、まだ何とかなる見込みは残されていると考える煌阿だが、そんなものは結局は一時しのぎに過ぎず、やり過ごせたとしても直ぐにあの『魔』にある程度精通している『卜部』の子孫に見破られて、追加の一撃を放たれてしまって終わりとなるだろう。
仕留めようと迫ってくるシギンを見ながら煌阿は、取れる選択肢の中での最善を考え始める。
今の残されている『魔力』と『時間』で行えるとするのならば、確実なのは『蒙』や『魔重転換』の解除のどちらかだけとなってしまうだろう。
せめて『次元の狭間』でなければまだ他にも選択肢はあったのだろうが、それを封じる為に色々と周到に準備を行って、実際に現在の状況を実現してみせたシギンには最早、見事の一言に尽きると煌阿を以てしてそう言わざるを得ないだろう。
「――認めてやるぞ、卜部の血筋の者よ……」
そして、次の瞬間――。
――僧全捉術、『裂身修劫』。
妖魔召士シギンが右手の指二本で煌阿の蟀谷に触れた瞬間、煌阿の身体が突如として膨れ上がると、瞬く間の内に風船が割れるかの如く破裂するのだった――。
「結局は抵抗すらせずに諦めたか……。だが、まぁ出来る事が限られていた以上は、それも致し方なしだろうな」
シギン以外に誰も存在しなくなった『次元の狭間』の中でそう独り言ちると、彼は二本の指をそのまま口元に持っていき静かに呟く。
すると次の瞬間には、彼以外に誰も居なくなった『次元の狭間』が解除されていき、やがては目の前に再び妖魔山の景色が現れ始めるのだった。
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