1816.拮抗する者同士の戦いの有利不利
互いに拮抗状態と呼べる戦闘を繰り広げているシギンと煌阿だが、秀でている部分は両者共に全く異なっている。
しかし間違いなく言える事は、両者共に勝負を決めるモノが『魔』の概念だという事である。
確かに煌阿の打撃は凄まじい破壊力を持っており、更に『青』を纏わせる事でその威力は跳ね上がる事は間違いないが、そんな一撃を『空間』を自在に操る事を可能とするシギンに命中させる事はとても難しい。
それは先に戦った妖魔神である『悟獄丸』がいい例になるだろう。
煌阿も戦闘における打撃は、随一と呼べる程に秀でているが、それでも破壊力だけで見るならば煌阿よりも悟獄丸の方が上であった。
それはシギンが悟獄丸を封じる時に使用した、赤い真四角の結界を力だけで粉々に粉砕してみせた悟獄丸の恐ろしい攻撃力を省みても明らかである。
しかしいくら一撃必殺と呼べる破壊力があろうとも、それを相手にまともに当てられる命中力がなければ意味を為さない。
いや、むしろ攻撃力だけが高いだけの相手など、シギンのような『魔』の概念を用いて戦う相手にとっては、その攻撃力を利用出来る分、とても楽に感じられる相性のいい相手に成り下がるだろう。
この領域に居る者達の戦闘面で肝心な事は、その大きな攻撃力を持つ者が、確実に相手に命中させられる事にある。
いくらそこに攻撃力や魔力を伴った破壊力ある一撃を打つ事が出来ようとも、あたらなければ全く無意味であり、そこで必要なものが『魔』の概念であり、そして『魔』の技法というわけなのである。
そしてその先に必中を行える『魔』の技法を持つ技量者に、その必中を行える者の技法を完全に回避する『透過』といった『魔』の技法が存在し、その『魔』の技法を如何に使わせず、相手の無駄に威力だけが大きな攻撃を無駄な一撃で終わらせられるかが、シギンや煌阿たちのような妖魔ランク『10』という到達戦闘領域なのであった。
かつて王琳がコウエンに対して説くように告げた言葉に、そこまで『魔力値』を高める手立てがあるのであれば、相手の『魔』に対する術を攻撃力だけに向けるのではなく、相手の防御に対する『魔』の要となるものを取り除く事に意識を向けろとあったが、本質的にはこのシギン達の行っている戦闘こそが、王琳がコウエンに言いたかった言葉そのままなのであった。
鬼人族のような物理的な打撃力を誇る種族であろうが、妖魔召士のような『魔力値』の高さがあろうとも、単に殺傷能力が高いだけでは、もう上の存在には通用しないのである。
数千年前といった時代の戦闘局面では、確かに『魔力』や『力』の強さが重要だったかもしれないが、これだけ『魔』に於ける戦闘技術が進んだ時代になってしまえば、単なる『魔力値』の高さや『攻撃力』の高さが重要ではなく、その大きな武器を活かす『技法』こそが重要となってしまっている。
当然、その殺傷能力の高い武器を振り回して万が一にでも当たれば、それで勝負がつくといったレベルの戦いであれば、それはそれでもいいかもしれないが、その万が一がこのシギン達には有り得ない。
妖魔召士である卜部官兵衛やシギンは、それを踏まえた上で戦闘に『魔』を取り入れて戦っている。
かつて卜部官兵衛のような妖魔召士の戦い方を見て、この煌阿も『魔』で戦う事の奥深さを理解し、また独自に『魔』というモノを取り入れて強くなっていった。
現在両者は互いにこうして戦闘が拮抗している状態にあるが、実際にこのまま戦い続ければどちらが有利なのかに焦点をあてるのならば、それは間違いなく――。
――『煌阿』であった。
…………
「『散、空動狭閑』」
そして遠くの場所から一瞬の内に煌阿の間合いへと入り込んだシギンは、相手に何もさせぬ内に再び『次元の狭間』へと放り投げようと試みるつもりで手を伸ばす。
どうやらシギンの相手に干渉する方の『空間魔法』は、その始動に相手に直接手を触れるという縛りのようなものが存在しているようだ。
その事に気づいているわけではないが、煌阿は再び自分の間合いに入り込んできたシギンに素早く反応を見せると、その伸ばしてくる手に気づいて『魔力圧』を至近距離で放つ。
『魔力圧』は術者が『魔力コントロール』で自身の『魔力』を膨れ上がらせる時に生じる余波そのものであり、本来は『魔力コントロール』が完璧であれば、その『魔力』の余波を体外へ向ける事はないのだが、わざと周辺に居る者達に攻撃する意味で自分の意思で放つ事もある。
それこそが『魔力圧』と呼ばれるものなのだが、どうやら妖魔達はこの『魔力圧』を好んで戦闘で使うようである。
「ちっ!」
妖魔召士達は一部を除いてこのような『魔力』の使い方で攻撃を行わない為、シギンもそのまま無視して『次元の狭間』へ押し込む為に手を伸ばすか、それとも回避を行うかで僅かな時間ではあるが逡巡してしまった。
結局は煌阿の『魔力圧』が想像以上の威力であった事に加えて、何か嫌な予感を感じたシギンはそのまま間合いに入り込んだ時のように『空間魔法』でその場を離れるのだった。
――そしてそれがシギンの身を救う事となるのであった。
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!




