1815.互いにランク10に達する者同士の戦闘
シギンはしっかりと煌阿の発した言葉を聴き取り、ゾワリと肌が粟立った。
その文言は長い歴史にある妖魔召士達の紡ぐ詠唱とも違い、また『理』のある『魔法』の詠唱とも異なっていた。
その言葉はまさに鵺の一族である『真鵺』が編み出した『呪詞』の一種であり、それこそは『呪い』に分類される『魔』の技法の一旦を担っている。
そしてその煌阿の『呪詞』によって放たれた『魔』の『力』は、シギンの『動殺是決』に用いた『魔力』そのものをあっさりと掻き消してしまうのだった。
シギンの表情は驚きを見せてはいたが、逆に『魔』の概念の一端を見せつけられた事で、驚きを見せたその表情の僅かコンマ数秒後には、口角を吊り上げて歪な笑みを作り上げるのだった。
煌阿はそんな笑みを向けてくるシギンの表情を無視し、掴み上げているシギンの右腕を冷静に折る目的で反対方向へとへし曲げると、次の瞬間にはぼきりという骨が周囲に響き渡った。
だが、シギンは掴まれているその右腕が折られようが、全く意に介さずに今度は左手で煌阿の首を掴もうと伸ばす。
煌阿はそこでようやくシギンの顔を見た。
そこには右手を折られた筈だというのに、笑みを浮かべているのが見えた。
――そしてその笑みと共に、青く光っているシギンの目も視界に捉えてしまう。
「ちっ、妖魔召士共の魔瞳か!」
シギンの魔瞳による『魔力』の波が発生したのを確認した煌阿は、へし折った腕を離すと同時に、後ろへ跳躍してシギンから距離を取った。
煌阿は一瞬の内にシギンの間合いから、後ろへと思いきり跳躍したことで離れて見せると、次はこちらから攻めてやろうとばかりにシギンを睨みつけようとした――が、その場に居た筈のシギンの姿がない。
「残念だったな!」
そして唐突に背後からのその声に、反射的に煌阿は後ろに向けて思いきり肘を打った。
「!?」
シギンは裏を掻いた筈だというのに、自分の攻撃より先に肘が飛んできたことに驚き、その威力の規模を目で判断するとその攻撃を取りやめて、煌阿の肘打ちを回避せざるを得なくなった。
その空を切り裂く音を耳で聴いたシギンは、ぞわりと全身に悪寒が走るのを感じた。
「ちっ!」
今度はシギンが舌打ちをすると、その場から音もなく忽然と姿を消して見せる。
どうやら煌阿の後ろに移動した時のように、再び『空間』をイジって場所を変更したのだろう。
結局はこの一連のやり取りで、シギンの右腕が折られるという結果だけが残ったようだ。
しかし彼らの戦闘に於ける防御力と回避技能能力の高さ故にそれだけで済んだだけの話であり、互いに相手が妖魔ランクが『7』や『8』程度の存在であったならば、今ので勝負がついていただろう。
『空間』を操作して相手との間合いと距離を一方的に有利に持っていくシギンと、何処から攻撃されようともあっさりと対抗できるだけの攻撃力と反射速度を合わせ持つ煌阿。
互いに妖魔ランクで表すならば、間違いなく『10』に到達していると呼べる者同士だが、どうやら現在においては『魔』の観点から見れば十分に互角といえる状況であった。
まだまだ煌阿の底が知れぬシギンではあったが、シギンはシギンでこちらもまた『魔』の技法の奥の手を残している状態である。
だが、こういった『魔』の技法での戦闘というのは、今が拮抗状態にあるからといって決して勝負が長引くとは限らない。どれだけ五分五分の状況であっても、あっさり勝負が覆されたり、そのまま波風立たぬ内に決する事も珍しくはない。
それだけこの両者の戦闘の中で使われている『魔』の技法と、その技法を活かす手段に手立てといった、あらゆる『魔』の概念を用いた戦闘での立ち回りが優れている証拠でもある。
そして次々と『空間』をイジりながら、両者は『妖魔山』の至る場所へと移動を行い、互いに致命傷を狙って攻撃を繰り出し続けていく。
最初の場所で取り残されてしまった『神斗』は、当初こそ『次元の狭間』から出て来る瞬間の僅かな間に両者の居る場所を『魔力感知』で探っていたようだが、その場所に移動する頃にはもう居場所が変わっていて、再び『次元の狭間』へと入られてしまった時点で、早々に追う事を諦めて山の頂にある自分の小屋へと戻る事にしたのだった。
「やれやれ。これなら私も最初から王琳の方に向かえばよかったな……」
神斗はとぼとぼと肩を落としながら、山の頂までの道を独り言ちて進んでいくのだった。
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