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最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。  作者: 羽海汐遠
妖魔山編

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1827/2220

1810.煌阿という妖魔の本質を理解する人間

 シギンの纏う『魔力』に変化が生じた事に気づいた煌阿は、再びこの後に何らかの『魔』の技法を伴った攻撃を仕掛けてくるだろうと予測する。


(やはり血なのか卜部官兵衛(うらべかんべえ)とこいつは戦闘を行う上での考え方が酷似しているな。俺の『透過』が『時空干渉』の領域に達しているとみるや、直ぐにその扱い方がどこまで長けているかを判断しようと動いたか)


 煌阿がかつて卜部官兵衛と戦った時もまた、彼が官兵衛の扱った『魔』の技法に対して『透過』で防ぎきった時に、その煌阿の『透過』の扱い方が何処まで的確かを見極めようと、今の彼と同じような行動を取った。


 という事はこのシギンもまた、煌阿の『透過』でなければ防ぎようがない何かを放つつもりなのだろう。


(纏わせていた『魔力』すらも最低限にまで下げて次の行動に備えるところを見るに、こいつの次の一撃は、相当に『魔力』消費が激しい『魔』の技法で間違いないだろう。しかし俺の『透過』を見極めようとする攻撃を放つつもりであれば、まず間違いなく先程と同じ行動はとらない筈だ。つまりは本命を放つ為に段階を踏んだ攻撃を挟んでくるつもりだろうな)


 一見、これだけのシギンの『スタック』に用いる『魔力』の準備を見れば、攻撃技法に『魔力』を費やした一撃と考えるものだが、煌阿は逆に本命を確実に当てるための補助的な攻撃手法を多数用意しているのだと考えたのだった。


 ――そしてその煌阿の判断は正しかった。


 しかし分かっていても避けられない事象というものは存在する。


「何だこれは……? 幻術の類か?」


 突如として煌阿の周囲の景色が変貌を遂げたかと思うと、何もない地面だけが延々と続いていく空虚な世界が煌阿の眼前に映し出されるのだった。


 そしてそれは当然にシギンが作り出したものなのだろうが、何をされたのかが分からずに煌阿は空虚なその世界に視線を這わせ続ける。


 煌阿は先程のシギンの『魔力』の高まりから、何か自身に向けて『蒙』のような弱体化や、それに伴うような技法を用いられて『透過』を使用する事を強制させられるのだと考えていた。


 煌阿に『透過』を使わせる事によって、シギンには煌阿の『魔』の技法に対する理解度を推し量ろうという狙いがあるのだろうという読みを彼は行っていたのである。


 しかし煌阿は先程の『蒙』のように、煌阿の司る力に対する何らかの阻害や、弱体化といったモノを連想していた為、このような妙な『空間』が用意されるとは思わなかった。


「人間が幻術など使えるとは思えぬが、奴は卜部官兵衛の血統だ。何をされても不思議ではない……か」


 そう言って強引に思考に納得させた煌阿は、次に右手に『魔力』を込め始めると、その恐ろしい密度の『魔力』を伴った拳を一気に地面に向けて振り下ろした。


 彼が『魔力』を纏いながら地面に振り下ろしたその拳は、確かに固い山の地面を叩く感触と共に、崩落させたような感覚が手に伝わり、山から落下していく感覚が確かに煌阿の脳内に届いてくる。


 地面を砕いたという確かな手応えはその手に残り続けている為、もしこれが幻術であったのならば、確実にシギンは自分の耐魔力を超える『魔力』を持っているという事になるだろう。


 シギンが煌阿に『透過』を使わせる目的で幻術を放ち、それを『蒙』の時のように使用するかどうかで判断力を試したように、煌阿は試されている事を理解したその上で、現在の自分が出来る事を確かめたのであった。


 そして煌阿が試したのは自分の『耐魔力』が、シギンの用いた『幻術』の類か、何らかの『魔』の技法を用いた『魔力』に対して(まさ)っていたのかどうかである。


 当然に煌阿は確かめる為に地面を砕いて山から落下する事を目的とした為に、空を飛ぶような真似をせずに落ちていく感覚から幻術かどうかを確かめようとしたのだが、一向に衝撃というものが訪れない為に未だに『幻術』にかかったままなのかと思い、どうやら奴の『魔力』の方がこのままの状態では上なのかと考え始めたその時に、唐突に宙に浮くような感覚を覚え始めるのだった。


「んっ……?」


 空を飛んだわけでもないというのに、唐突に落下する感覚が終わりを告げて宙に浮いている状態なのだと気付いた煌阿だが、遂に今まで姿を見せなかったシギンが、何やら扱いに困るといったような表情をしながら再び姿を見せ始めるのだった。


 そしてそこでようやく、煌阿は自分の周囲を赤い真四角の『結界』が包み込んでいる事に気づいた。


 どうやらその『結界』こそが、地面から落下する煌阿を支える浮力の役割を果たしていたようであり、どうやら先程の地面を叩き割った事は幻術ではなく、間違いなく現実に行われていたのだと理解するのだった。


「どうやらお前は『神斗』以上に俺と相性が悪いようだな……」


 突然に煌阿の前に現れたシギンは、そう言って大きく溜息を吐くのだった。


 煌阿はシギンの呆れた顔から視線を外すと、自分の周囲を包み込んでいる赤い真四角の『結界』を見て、更には自分の居る場所を把握するように視線を下に向ける。


 どうやらまだ『幻術』が続いているのか、シギンと赤い真四角の『結界』は存在しているが、それ以外には何もなく、あるはずの地面や周りの山の景色なども何も見えなかった。


「お前にとっては何が起きているか分からない状況だろうに、それを打破しようというつもりはないのか?」


 更に呆れたような視線と声色でシギンがそう言うと、煌阿は再び視線をシギンに向け直して口を開いた。


「いや、もう何が起きたのかは、大体は理解が出来た。どうやらこれは幻術というわけではなく、現実の世界の中で空間を広げたという事だろう? だから俺には地面を砕く感触も落下する感覚も残っていたわけだ。そしてお前は幻術に見せかけた事で、俺に『透過』を使うかどうかの判断力を試そうとしたのが狙いといったところか?」


「起きた事に対して冷静に分析が行えている。そこに戸惑いや怯えなどは一切ない。そして『透過』でいつでも俺の術を解除出来たであろうに、それをせずに確かめる為にわざとそのままで居る事を良しとした。どうやらお前は何が起きても問題ないと思っているからこそ、そんな行動が取れるようだ。つまり、お前にとってはこの状況を作り出した俺に対してもそこまで脅威とは思っていないという事だな?」


 シギンは溜息を吐きながらそう言うと、静かに右手の指を鳴らしてみせる。すると再び何事もなかったかのように、煌阿の視界に山の景色が映り始めていく。


 そこでようやく煌阿は自分の身に何が起きていたのかを理解する。


「ああ、成程。やはり幻術というわけではなく、現実であったか。先程のはお前が俺の周囲一帯を伸ばして広げていたという事だな?」


 煌阿は自分の居る場所から顔を上げて見上げると、確かに先程までいた場所が見えた。そして煌阿の拳で無残にもボロボロになっている箇所が目に映った。


「その通りだが……。今のでお前の事がよく分かった」


 そう言ってシギンはもう何も言わずに力を開放し始めたかと思うと、これまでの『青』だけではなく、そこに『金色』を交ぜ合わせて、オーラの技法の一つである『二色の併用』を用い始めるのだった。

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