176.次代へ語り継ぐ事柄
※加筆修正を行いました。
ユファがシスを追いかけて行った後、ソフィ達はひとまず情報収集をする事にした。
「レルバノンよ、レイズの首都があった方へ案内してくれぬか?」
「シティアスですか? ええ、分かりました」
ソフィからの突然の言葉だったが、レルバノンはすぐに頷いた。
ソフィには少し気にかかる事があった。これだけ建物が倒壊しているにも拘らず、魔族達の死体が一切ないというのが気になったのである。
レルバノンの屋敷で『シチョウ』が話をしてくれたレイズ魔国の最後の時の話では、祖国の為に魔法部隊が全員自爆をして、敵を巻き添えにしたと言っていた。
確かに多くの者が、死体も残さずに爆発したのだとしても、それでは『万物の爆発』クラスの超越魔法を使えぬ子供達は、一体どうしたのかという疑問がソフィは考えたのである。
アレルバレルの『魔界』の群雄割拠時代でさえ『大魔王』同士の抗争中に子供達は強くたくましく生きてきた。
親や家族を失った子供たちは『復讐』という一点の為に生きる事が多いので、強くなろうと意思を持って次代の『魔王』と成長する事が多かった。
この世界の『レイズ』魔国の魔族が同じだとまでは言わないが、ソフィには生存者が未来の『復讐』の為に息を殺して生きているのではないかと、そう考えてアタリをつけたのだった。
そして生存者が個人なのか複数なのかによって、姿を隠す場所は変わるだろうが、もし複数人いるというのであれば、それは首都シティアスの可能性が高い。
兵士ばかりが住む何もない城よりも生活の要であり、人口が密集する首都の方が生きていく上では活用できるものが多いだろうというのが一因である。
しかしとソフィは考える。思った以上にヴェルマー大陸は凄惨な状況だった。
ミールガルド大陸にまで攻めてきた『ラルグ』魔国軍とやらは、余程に血の気の多い暴れ者ばかりだったのだろう。
破壊の衝動は魔王階級でも持つ者はいるが、魔物や魔族といった中途半端に力を持つ者がその力を誇示するケースが多い『アレルバレル』の世界での抗争は、完全にその土地が消えてなくなる程の破壊か、全く建物等が壊されずに命のやりとりをする戦いが多い。
むしろこういった魔族同士の戦い等の方が、見る分には凄惨さを感じられるのだった。
「戦争で王を決めるというのは最後の手段だと思うが、それによって決められた戦勝国やその指導者は、恨みを持たれたまま時代が移る」
ソフィの話を聞いていたレルバノンは、どうやら過去の『三大魔国』時代の戦争を思い出したのだろう。レルバノンが魔族としてまだ幼少期といえる幼い時期は、此度の『三大魔国』の戦争と同じか、それ以上の戦争の歴史だった。
それはレルバノン達の世代の少し前に魔族達同士の戦争を越えた他種族との戦争が終わった直後だった。
そしてこの『ヴェルマー』の大陸を束ねていた『魔王』レアが居なくなった事で、指導者が忽然と消えてしまう事になり、その所為でヴェルマー大陸の魔族達はその新たな指導者を作る為に、大国の各国が我先にと指導者へなろうとした時代であり、再び魔族間同士での争いの時代があったのである。
その当時の事を思い出したレルバノンは、ソフィの言いたい事がよく理解出来たのであった。
ソフィはこの後に放っておくと起きるであろう、新たな戦争の幕開けの事を誰よりも理解している為に、今はシティアスに生存者がいるかを早急に確かめたいと思うのだった。
ソフィの隣に寄り添いながら歩くリーネは、さっきの虚ろな様子だったシスを想い、心配で追いかけたいと思ったが、その後にユファが追いかけていったのを見て踏み止まった。
(今は私よりも、同じ故郷の人が付いていかないと意味がない)
そう自分に言い聞かしたリーネは、あえて踏み留まったのである。
リーネはソフィと同じ思想を抱いていた。
――大事なモノを失った者にしか、分からない共通の想い。
リーネもまた父や『影忍の里』の者達を失った経験がある忍者である。
シスの喪失感に身に覚えのあるリーネはソフィと同様に、ユファにシスを立ち直らせられるように祈るのであった。
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