1799.卜部官兵衛が至った領域
シギンが気付いたその『魔力』の持ち主は、ソフィがシゲンやミスズ達と足を運んだ時代の『妖魔山』でも同じ洞穴に封印され続けている『煌阿』と呼ばれる妖魔の事であった。
その煌阿は、この時代にはまだ『殿鬼』の身体を乗っ取っているわけでもなく、あくまで精神体と呼ばれる状況で『封印結界』を張られた札の内側で日々、色々と行える『魔』の技法を外に向けて試し続けているのだった。
この『封印結界』の札を用いた妖魔召士は、すでに数百年前に煌阿の封印を見届けた後に亡くなっている。
――その妖魔召士の名は『卜部官兵衛』。
ソフィ達の居る時代で『煌阿』が『シギン』に対して口にした通り、この『卜部官兵衛』は『シギン』の先祖にあたる人物であった。
シギンの祖たる曾祖父の時代にはもう『妖魔召士』の家系ではなくなったが、この『卜部官兵衛』と名乗っていた妖魔召士は、間違いなくシギンと同じ血をその身に宿らせていた。
そしてこの『卜部官兵衛』は、最強の妖魔召士と呼ばれているシギンと同じ『空間魔法』を司る同じ『理』をすでに数百年前の時点でこの世界に誕生させている。
もちろん妖魔召士の自分の後続達や、彼の子や孫にすら伝承させる事もなく、この世界の初めての『理』はその後の世界に伝わる事はなく一度は消失してしまった。
――何故、この世界の最初の『理』が後の世に伝わることがなかったのか。
それは官兵衛が生前に残した言葉に由来する。
――「儂が生み出したこの『理』は、後の世の『魔』の概念に大きく作用するものだ。世界そのものを壊しかねぬこの『力』を受け継ぐ自信がなければ、決してこの事を子に伝えるな。形だけではなく、名も遺してはならぬ。もし儂の言葉を破って、この『魔』の概念の『名』だけを子々孫々に伝えるような真似をすれば、家の名ごと失い末代まで決して拭えぬ災いが降りかかると知れ」
結局この官兵衛の遺した言葉通り、それ以後の彼の家系図には『卜部』の名がなくなり、シギンの高祖父以降には家系から『妖魔召士』が生まれる事はなくなってしまった。
卜部一族は『妖魔召士』の家系でなくなり、この世界に再び『理』というものの存在を知る者が居なくなった時代が長く続いたが、それは突然にシギンの代になってようやくその災いが取り除かれたかの如くに『妖魔召士』が誕生する事となった。
しかし当然に『理』の事を知る者は、かつての『卜部』の家系にはもう残ってはおらず、両親は勿論の事、祖父も誰も知る由もない。どうやら官兵衛の遺した言葉の一部だけは、そのまま正しく守られてきたのだろう。
つまりシギンは自分の身に宿る血以外に、卜部官兵衛に繋がる『魔』の標というものがなく、また伝承や伝記など何も残されていなかった為、シギンは全く何もない状態から、その先祖である卜部官兵衛と同等の『力』を得るに至ったのであった。
――否、厳密にはまだこの時のシギンは『卜部官兵衛』の至った領域へは辿り着けてはいない。
未だにシギンは『魔』の概念への疑問を多く抱えている状態であり、その疑問を少しでも解消しようとこの『妖魔山』に乗り込んできたのであるが、その祖となる『卜部官兵衛』は、シギンの抱く『魔』の概念に対する疑問に関しては、その全てを完全に理解し終えていた。
(それでもそんな卜部官兵衛ですら、本当の深淵にある『魔』の概念の全てを理解していたというわけではないのだが、それはもう下界だけでは今後も当分の間は理解される事はないと判断される為に、ここでする話には適さない)。
しかし間違いなくいえる事は、そんな卜部官兵衛の血を色濃く受け継ぐに至ったシギンは、その寿命が潰えるまでに確実に『卜部官兵衛』の至った領域へは届く事である。
何故なら、妖魔召士シギンには『卜部官兵衛』すら会得していなかったモノを生まれながらにして、すでに持っているからである。
――それは先天性の贈り物とされる『金色の体現者』としての資質である。
知識や経験では卜部官兵衛には届かないまでも、すでにこの時代のシギンには、金色と青の『二色の併用』を用いる事で、その圧倒的な『魔力』は卜部官兵衛に匹敵する事が出来ている。
煌阿がソフィ達の居る時代のシギンを見て、まだまだ卜部官兵衛の方が上だろうと判断したのは、あくまでもシギンが全力ではなく、神斗や悟獄丸を相手にした時『程度』の力で相対していたからに他ならない。
これより数十年後の時代で『神斗』や『悟獄丸』と対峙した時のシギンの『戦力値』と『魔力値』は、あくまでこの時代の『シギン』の全力と遜色がない程度である。
この時代で『煌阿』という存在が居る事を知り、更に『魔』の概念に対して理解を深める事となった数十年後のシギンは、更に強くなっているのだから。
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