1798.妖魔山に居る禍々しい魔力を持つ者
妖魔山の中を『結界』を張りながら移動するシギン達だが、やはり町が近くに見える麓付近では、まだまだ『結界』の内側に居るシギン達に気づかず、山の妖魔達はシギンを視界に捉えられずにそのまま通り過ぎて行ってしまうのだった。
今シギン達の周囲を覆っている移動型の『結界』は、元々はシギンが考案したものであったが、上手く『魔』の術式を他の者達にも伝わるように練り直して作った事で今では『四天王』クラスの妖魔召士達であれば、十分に扱えるまでに至っていた。
同じ『結界』であってもシギンの『魔力』で扱えば、更に密度が濃くなって中腹付近以上に近づいても妖魔達に気づかれないかもしれないが、そこまでする必要はないだろうという判断の元に、ノマザルが『結界』を施したのであった。
あくまで名目上は『禁止区域』の調査ではあるが、この辺りの妖魔からどれくらい先までノマザルの『結界』で持つかどうかを確認する事も重要だと今後の事を考えられた様子であった。
今でこそシギン達や『四天王』の存在もあるが、この妖魔山の調査を終えれば組織も次の代へと移る事になる為、今の妖魔召士の基準で物事を考えるのではなく、一定の『最上位妖魔召士』となる者達の『魔力』のラインで物事を考える事こそが重要だと判断したのだろう。
シギンから見た『四天王』達の内、自分に次ぐ『魔力値』を持つ者はサイヨウだと断言が出来るが、その次となると『コウエン』と『ノマザル』で迷うところである。
当然にこの両名も『最上位妖魔召士』であり、妖魔ランク『7』や『7.5』に分類されるような『鵺』や『鬼人』達を相手にも遅れを取る事はないだろうと明確に言える程の『魔』の理解者ではある。
同じ『四天王』であり、この中で古参の妖魔召士であるイッテツと比べても遥か上をいっているだけはあり、この『コウエン』と『ノマザル』は、次の代の妖魔召士達の一番の目標とする指標ラインなのであった。
そんな『ノマザル』が張った『結界』でこの『妖魔山』でどれほど通用するかを理解し、そのバトンを託す相手の候補となるのが、今回同行している『ゲンロク』という若き妖魔召士なのである。
シギンとサイヨウの目から見ても、このゲンロクという男は相当の才を秘めている。
今はまだ『四天王』の四名はおろか、守旧派の『サクジ』にも劣る『魔力値』ではあるが、飲み込みの早さといえる吸収力を評価するならば、後数年もすれば十分に『コウエン』や『ノマザル』に匹敵する程にまで成長を遂げて見せるだろう。
シギンとサイヨウはそれを踏まえた上で、ゲンロクの成長を促す為に今回同行を決めて押し通した。
後はそのゲンロクの後続となるであろう『ヒュウガ』や『エイジ』、そして『イダラマ』達に、ゲンロクを支える補佐として今の自分にとっての『四天王』の役職についてもらえれば、彼の代もそれなりに安泰の道を築けるだろう。
シギンのように誰よりも『魔』の理解者となる必要はなく、組織が一丸となって町の皆々を守るだけの力を有すればそれで良いのである。
あの日の晩にサイヨウに組織の座を降りてはどうだと口にされてから、色々と考えを纏めるに至ったシギンではあるが、ようやく気持ちの整理もついて、これまで色々と悩みを抱えていた彼も区切りをつける事が出来た。
これからはゲンロク達に後の事を託して、自分は『魔』の概念への探求を続ける一本の道をひた走っていくつもりのシギンであった。
そんな事を考えながら『妖魔山』を登っていく道中の事であった。
――ふと、シギンは感じた事のない『魔力』の『圧』のようなモノを感じた。
それは一瞬の出来事であり、今はもう感じる事が出来てはいないシギンではあったが、間違いなく見上げる崖の上にも続いている道の先から、禍々しさこの上ない程の『魔力』を彼は感じ取ったのであった。
(この『妖魔山』には、確かにこれまで相対してきた妖魔達とは比べ物にならぬ強さを持った妖魔達が多く居るようだが、今感じた『魔力』の持ち主はそれ以上の存在で間違いない。この山に入った時点から頂付近に居る二体の妖魔の存在には気づいていたが、そんな両者とも明らかに違う、異質で暴力的な『魔力』の持ち主が、見上げる崖の上から一瞬だけ感じられた。今すぐにもそこへ確認しに向かいたいところだが、今は駄目だな……)
ちらりとシギンは後ろを振り返る。
そこには疲労の色が見えるゲンロク達の姿があった。
最初にゲンロクを見たシギンだが、そのシギンの視線に気づいたサイヨウの顔を窺ったが、やはりサイヨウですら先程の『魔力』の持ち主の存在には気づけていないようで、急に振り返ってみせたシギンに首を傾げていた。
(やはり誰も気づいておらぬか……。サイヨウですら気付けていないようでは、このままそちらに向かえば確実に彼らを危険な目に遭わせてしまう。先程の一瞬の『魔力』は、やはり歪に『空間』と『空間』を繋ぎ合わせる事で生じて『外側』に漏れ出てしまったというところだろう。この世界では俺以外に『理』を用いる存在はまだ見かけた事はない。しかしどうやらこの妖魔山には、俺の『魔』の領域に近しい存在が居る事は間違いないようだ)
再び前を向いて山を登り始めるシギンだが、その表情は笑みを浮かべていた。
当然、彼が先頭に立っている為に、今のシギンが見せるその表情を窺い見る事は出来ずにいるサイヨウ達だったが、この時にようやくシギンは組織の事や、自分を常に悩ませ続ける『魔』の概念の事を完膚なきまでに、忘れさせてもらえる存在を見つけられた様子であった。
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