1797.四天王達の最後の仕事
件の『妖魔山』への出発は、思った以上にすんなりと行う事が出来た。
結局はこの『妖魔山』への出発に『四天王』全員が参加した。
事情を説明するなり二つ返事で参加を伝えたのが、イッテツとコウエンだった。どうやらノマザルはシギンの暗殺を試みている不届き者の一派の炙り出しの最後の段階に入っていたらしく、そちらを優先しようと悩んでいた様子であったが、サイヨウが説得を試みて参加を決めた。
シギンが今回の調査を最後に、組織の長の座を降りるという話を持ち出した事が決め手となったらしい。
このノマザルとイッテツは、サイヨウと同じ『四天王』の地位に居るが、シギンとの付き合いの長さは雲泥の差である為に、一言で引退をするといっても、その受ける衝撃はサイヨウとは比べ物にならなかったようである。
そしてこのシギンの引退話を聞いた時、ノマザルとイッテツの両名もまた、次代へと移り変わるタイミングで自分達も引退して『はぐれ』として生きる決断をしていたのであった。
コウエンやサイヨウは今後どうするつもりなのかは分からないが、シギンの暗殺を試みる一派の炙り出しに裏では『コウエン』とその『コウエン』の一派である『サクジ』達も協力している。
サクジは前回の『改革派』が主張を始めた時に、何を自分勝手な事を宣っているのだとばかりに激昂していた。
どうやら先代の時代の『妖魔召士』を師に持っていた彼は、色濃くその『守旧派』の血を引き継いでいるという事なのだろう。
(善くも悪くも前時代の『妖魔召士』達は、寄り過ぎた考えをしていたからな……。少しばかり、次代の中心となるであろうゲンロク達は、このサクジと揉める事がないか心配になるよ)
ノマザルは胸中で次代の『妖魔召士』組織を思い、憂いだ表情を浮かべるのだった。
妖魔召士組織の歴史上では、一番か二番を争う程の長期政権となったシギンの代だが、別にシギン達を除いて次世代の者達に役立たずばかりが集まっているわけではなく、ハッキリと言えばシギンや四天王を除けば、直ぐに歴代の妖魔召士の長となれる素質を秘めた退魔士たちが多く在籍している。
先に述べたゲンロクもその一人ではあるが、先代の教えを忠実に守る優秀な退魔士である『サクジ』に、鷹の異名を持つヒュウガや、最近頭角を現し始めてきたイダラマに、サイヨウが弟子にする程の才を有するエイジという若い妖魔召士も居る。
――当然、この中にシギンの暗殺を裏で試みている輩は居ないと信じられる。
何故ならノマザルやサイヨウがあらゆる策略を用いて、絶対に大丈夫だと断言が出来るまで調べ尽くしたからであった。
(ゲンロクの奴はシギンが連れて行くと決めていたらしいからな。我々が離れる間は、サクジとヒュウガを中心に補佐にサイヨウの息がかかった『守旧派』の者達に組織を任せよう)
四天王であるノマザルは、これが自分の出来る最後の仕事だとばかりに、出発に際して滞りなく町の安寧と組織を守る事に尽力し、采配を行うのであった。
――そして、その日がやってくるのであった。
当初の目的通り、シギン達は『妖魔山』の中に足を踏み入れていった。
このシギンが長の時代には『退魔組』もなければ『特別退魔士』という退魔士も居ない。
それは当然、ゲンロクが次代の長になるときに生み出された下部組織である以上は、この時代に存在しないのは当たり前の事である。
名目上の今回の調査の目的は、シギン達が生まれる遥か昔に『妖魔召士』組織が入る事を禁じた『禁止区域』の範囲内を狭める事にあった。
この際別にシギンは、この『禁止区域』と定められている全域を明るみに出してもいいと思っていたが、他の四天王達が止めた。
これだけの長い歴史上で変わらなかった事をあっさりと変える事は、今後の組織や、周辺の町々の事を考えて善くない事だろうと判断された為であった。
『妖魔山』にはまだ『禁止区域』のような謎多き場所が隠されているのだという認識が、物見遊山で近づくものに対しての抑止となるからである。
あくまで今回は『シギン』と『四天王』という妖魔召士組織の最高幹部達による調査なのだという名目であり、誰もが今後この山に気軽に入れるものにしようというわけではないのである。
それでもシギンが強引に全貌を明らかにすると口にすれば、あっさりと決定は覆る事になるだろうが、もちろんそこまでシギンも明らかにすることを望んでいるわけではない。
――組織とは個人で成り立つものではない。
それも今回の調査の後に身を引く事を決めているシギンが、今後の組織の有り様を故意に滅茶苦茶にする必要性もない。
結局は、四天王の言い分に首を縦に振る事に決めた妖魔召士の長『シギン』であった。
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